オルガン(読み)おるがん(英語表記)organ

翻訳|organ

デジタル大辞泉 「オルガン」の意味・読み・例文・類語

オルガン(〈ポルトガル〉orgão/〈英〉organ)

パイプオルガンリードオルガン電子オルガンなどの総称。

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精選版 日本国語大辞典 「オルガン」の意味・読み・例文・類語

オルガン

  1. 〘 名詞 〙 ( [ポルトガル語] órgão [英語] organ )
  2. 鍵盤楽器の一つ。本来は、教会用として発達したパイプオルガンのことをいうが、日本ではリードオルガンやハモンドオルガンをも含めた総称。風琴。
    1. [初出の実例]「おろがんと申て、〈略〉吹きならしてあそびたはぶれ給ふ」(出典:仮名草子・吉利支丹物語(1639)上)
  3. 機関、道具などの意。
    1. [初出の実例]「真理を把握するオルガンとしての知性は」(出典:学生と読書(1938)〈河合栄治郎編〉いかに書を読むべきか〈倉田百三〉五)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「オルガン」の意味・わかりやすい解説

オルガン
おるがん
organ

鍵盤(けんばん)楽器のなかで唯一、弦ではなくパイプまたはリードを振動体とする気鳴楽器。この語は「道具」「器官」を意味するギリシア語のオルガノンorganon/öργανον、ラテン語のオルガヌムorganumに由来し、ドイツ語ではOrgel、フランス語ではorgue、イタリア語ではorganoという。もともと音を出す道具の意で「楽器」の総称として用いられていたが、とくに「多くのパイプからなる楽器」をもさすようになった。欧米ではオルガンというと本来パイプを備えたパイプ・オルガンのことをさすが、日本ではパイプのないリード・オルガンも含めてオルガンと称する。これは日本独特の呼称で、その背景には、リード・オルガンがピアノやパイプ・オルガンよりも早く日本に入り、学校や家庭で広く使用されてきたという社会事情がある。本項では、パイプ・オルガンを中心に、リード・オルガン、さらには世界のオルガン属の楽器も含めて広義にオルガンを扱う。

[川口明子]

パイプ・オルガン

構造

パイプ・オルガンは複雑な構造をもち、時代、地方、製作者によりかなりの違いをみせている。しかし一般に、(1)パイプ群からなる発音部、(2)送風部(ふいご、空気溜(だめ)、風箱)、(3)操作部(コンソール、アクション)からできている。

(1)発音部 発音体であるパイプは、大きくはフルーパイプ(開管、閉管)と各種のリードを内蔵するリードパイプの2種に分けられ、おもに金属でつくられるが木製のものもある。パイプの内径、長さ、リードなどにより多様な音高、音色が得られる。これらのパイプはいくつかの群をつくり、全体のユニットとなる部分オルガン(グレート・オルガン、スウェル・オルガン、ポジティフ・オルガン、ペダル・オルガンなど)を形成している。各部分オルガンはコンソールの鍵盤(けんばん)と連結し、そこで操作される。

(2)送風部 昔は人力によったが、いまではモーターによる。ファンでおこった空気はふいごを通って空気溜にたまり、風圧が一定に保たれる。ここから空気は風箱、さらには弁を通り、目的のパイプに配分される。

(3)操作部 演奏台コンソールはマニュアル(手鍵盤)、ペダル(足鍵盤)、スウェル・ペダル(増音器)、ストップ(音栓)などからなる。マニュアルは通常2~5段で、発音部の各部分オルガンと連結してグレート・マニュアル、スウェル・マニュアルなどとよばれる。ペダルはペダル・オルガンと連結しており、スウェル・ペダルはスウェル・ボックスの扉を開閉して音量を漸次変化させる。ストップは音色、音域を選択する装置で、あるストップを引くと、それと連結しているスライダーの穴を空気が通り、一定の音色、音域を獲得する。一つの鍵盤を手または足で押すと一つの弁が開き、ストップによりあらかじめ選ばれたパイプ群のなかの目的の1パイプが発音する。同音色、同音域のパイプ群が一つのストップで操作されるので、各種のストップを組み合わせることにより、多様な音色が得られる。鍵盤やストップの操作はアクションによってパイプに伝達される。

[川口明子]

パイプの長さ(フィート律)と音域

約8フィート(8′と表記する)の開管の音高C2を8′ストップと称し、基準とする。これより1オクターブ高いものが4′ストップ、低いものが16′ストップとなる。鍵盤の音域は通常4~5オクターブであるが、実際の音域は各種のストップにより10オクターブ内外にまで拡大される。

[川口明子]

楽器の発達史

オルガンの歴史は非常に古く、数本のパイプを組立て口で吹くパンパイプにその起源を求めるのが定説である。個々のパイプを吹くかわりに、風箱を設けふいごによる送風装置を付加したものが、後の風圧オルガンpneumatic organに通ずる。3000年の歴史をもつ中国の笙(しょう)、つまり風箱をもった口で吹くオルガン(マウス・オルガン)も同じ原理の楽器で、リードをもつ点でリード・オルガンの基になったものといえる。現存する最古のオルガンの記録は、紀元前3世紀にアレクサンドリアに住んでいたギリシア人技師クテシビオスの発明した水圧オルガン(ヒュドラウリスhydraulis/δραυλις)である。これは水圧ポンプの原理を応用したもので、スライド式風箱を備えた一段手鍵盤のオルガンに似ている。風圧オルガンはこれを改良したものだといわれている。その後オルガンはアラビアやギリシアに広まり、ビザンティンを中心に各地で発達をみせたが、中世以降はその製作はほとんどヨーロッパに限られ、ローマを中心とするキリスト教会に取り入れられ、今日みられるパイプ・オルガンの歴史を展開させた。

 中世初期のオルガンの歴史ははっきりしないが、7世紀には教会に導入され、8世紀には競って設置されるようになった。オルガンは教会の威厳を象徴するものとして、装飾のついた大規模なものがつくられるようになった。10世紀のウィンチェスターのオルガンは、400本のパイプ、70人が送風する26のふいごを備えた巨大なものであったという。11世紀末に、レバーから発達した手鍵盤が導入されたが、当時の鍵は奏者が拳(こぶし)で打って奏するくらいに大きかったという。14、15世紀には構造、音質に大きな変化がみられ、大形のオルガンがつくられるようになり、ストップ選択によってさまざまな音色が得られるようになった。教会オルガンの大形化の一方で、家庭用の小形オルガンも発達した。12世紀には持ち運びのできるポルタティフportative、14世紀には中形の据え置き用ポジティフpositive、15世紀にはビーティングリードを内蔵したリーガルregalが登場し、これらは17世紀まで宗教、世俗両音楽に広く使われた。16世紀には手鍵盤も数段になり、ドイツでは足鍵盤も発達した。17世紀にはバロック・オルガンがつくられ、優れた製作者も輩出し、今日のオルガンの基礎が固められた。18、19世紀を通じて、オーケストラの豊かな音量、多様な音色を模倣する傾向が強くなり、管弦楽的オルガンへの道を歩んだが、20世紀にはこれへの反省で、往時のあるべき姿に戻そうとするオルガン運動Orgelbewegungが起こった。また19世紀には小形のシネマ・オルガン、シアター・オルガンも発明されたが、隆盛には至らなかった。

[川口明子]

オルガン音楽

オルガン音楽は西洋音楽の母体であるキリスト教音楽とともに発展してきた。その歴史は、楽器の古さに比べて新しく、最古の記録は14世紀のものである。しかも18世紀末まで楽譜上にオルガンで奏することの明確な指定がなかったので、リュート音楽や多種の鍵盤音楽との相違は判然としない。最古の鍵盤音楽資料「ロバーツブリッジ写本」(1320ころ)には中世の舞曲とモテットの編曲がみられる。14世紀イタリアの作曲家ランディーノはオルガネット(ポルタティフ)の名手であったという。15世紀の写本はすべてドイツ語圏のもので、典礼用鍵盤楽曲、聖歌や世俗歌謡の編曲、前奏曲などがみられる。16世紀には各国でそれぞれの展開をみせ、ドイツではプロテスタントと結び付いたオルガン・コラールが生まれ、イタリアではベネチア楽派によって典礼音楽のほかリチェルカーレカンツォーナなどの器楽形式が生み出された。スペインではカベソンが、イギリスでは当時隆盛したバージナルの作曲家たちがオルガンの分野でも活躍した。

 17、18世紀はオルガン音楽の黄金時代であり、独奏用楽曲の繁栄の一方で、通奏低音楽器として伴奏にも広く使われた。バロック初期のイタリアの作曲家フレスコバルディネーデルラントスウェーリンクの流れをくんで、北部および中部ドイツでは、荘厳で自由なファンタジー、前奏曲とフーガ、コラール前奏曲などが、ブクステフーデやJ・C・バッハらによって書かれ、一方南ドイツでは、フランスやイタリアの影響の強いリチェルカーレ、トッカータなどが、ハスラーやフローベルガーらによって作曲された。フランスは、ドイツの抽象的な器楽形式とは異なる自由な組曲形式のオルガン・ミサを発達させた。これまでのあらゆる形式、対位法、演奏技法などを統合完成させたのがJ・S・バッハで、彼をもってオルガン音楽は一つの頂点に達した。バッハおよびヘンデルを最後にバロック音楽は終わり、オルガン音楽はしばらく沈滞する。

 しかし19世紀になって、メンデルスゾーンによって再生され、リストやフランクらが管弦楽的色彩感や交響的性格をもつオルガン音楽の新分野を開いた。一方ドイツでは、レーガーがバロックの伝統に沿った作品を書き、オルガン音楽をふたたび盛り上げた。20世紀の作曲家としては、ドイツのJ・N・ダーフィト、ヒンデミット、フランスのデュプレ、メシアン、プーランクらがあげられる。

[川口明子]

リード・オルガン

フリーリードを発音体として用いるオルガン。パイプ・オルガンのようなパイプ、オーボエやクラリネットのような管を使用せず、リードの振動だけで発音する。

(1)吹出し式のリード・オルガン 1840年にフランスのドゥバンAlexander Debain(1809―1877)によってハルモニウムharmoniumという名で特許がとられた。このオルガンは、箱形で5オクターブの鍵盤をもち、ストップによる音色変化、足踏み式送風による音量変化の可能な表情豊かな高度なものであった。その後ハルモニウムという語は吹出し式のリード・オルガンの総称となり、これらのオルガンはおもにヨーロッパで発達した。ドイツでは純正調のハルモニウム(エンハルモニウム)の製作も行われ、日本の田中正平(1862―1945)が大きな貢献をした。またインドでは、ヨーロッパから渡来した手動式送風の小さな箱形のハルモニウムが伝統音楽と結び付いて広く用いられている。

(2)吸込み式のリード・オルガン 1860年からアメリカで発売、リードも小さく工程も簡単で、ハルモニウムの代用品として普及した。日本では明治中期以来、このアメリカ式リード・オルガンの普及、発達が著しく、楽器産業確立の源にまでなった。この流れは今日の電子オルガン産業の隆盛にも受け継がれている。

[川口明子]

世界のオルガン属の楽器

複数のパイプを組みにして用いるというオルガンの基本原理をもつ楽器は、世界にいくつか存在する。楽器学でマウス・オルガンmouth organとよばれるものはその代表例である。中国、朝鮮、日本の笙(しょう)、タイのケーンkhāēnやラオスのケーンkaenなど、インドシナ半島の国々にみられるさまざまなもの、さらにはボルネオ島のクルディkělědiやウンクルライěgkěruraiなど、東および東南アジアに特有のこれらは、瓢(ふくべ)や木を風箱とし、それにフリーリードのついた数本の竹や葦(あし)の管を差し込んだもので、吹いても吸っても音が出る。西洋でも東洋の笙にヒントを得て、ハーモニカや、口のかわりにふいごを備え、ボタンや鍵盤で操作するアコーディオンなどが19世紀初めに製作された。

[川口明子]

『A・ナイランド著、丹羽正明・小穴晶子訳『パイプオルガンを知る本』(1988・音楽之友社)』


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改訂新版 世界大百科事典 「オルガン」の意味・わかりやすい解説

オルガン
organ

パイプと送風器と鍵盤の三つの部分から成る気鳴楽器。語源はギリシア語のオルガノンorganon(〈道具〉の意)に由来する。使用目的,設置空間の大小によりさまざまな規模のものがあるが,大別すると,運搬可能なものと建築物の中に固定されたものに分けられる。前者にはひざにのせて片手で演奏するポルタティフPortativ,箱形ポジティフPositiv,リード・ストップのみのレガールRegalがあり,後者には1段鍵盤,数個のストップの小オルガンから,2~5段鍵盤,十数個から100ストップ以上の大オルガンまであり,その多くは両足で奏する足鍵盤(ペダル)を有する。以上を総称してパイプ・オルガンという。リード・オルガン族,ハルモニウム電子オルガンは,形態は類似しているが,発音源がパイプではないので,この中には含まれない。

音源となるパイプは,気柱の振動のみによるフルー管と,シンチュウのリードの振動によるリード管とがあり,フルー管には鉛とスズなどの合金による金属管と木管があり,また形態上は開管,閉管,半閉管,円筒形,円錐形などに分けられる。発音のしくみ,材質,形態の違いが,音色上の相違となってあらわれる。一つのパイプは一つの音を出し,同じ音色のパイプの1組をストップという。パイプへの送風は,電動モーターが発明されるまではすべて人力で行われ,手または足でふいごを動かし風をおこす方法が長年用いられていたが,今日ではほとんどが電動式である。つくられた風は,弁のはたらきで任意のパイプへ送られる。その際,音色つまりストップをきめるための弁を操作するのがストップ・ノブで,音高をきめるのが鍵盤である。オルガン演奏では,打鍵のほかに,各作品に応じたストップの選択・組合せが重要なポイントとなる。

オルガンの発達の歴史は2000年以上に及ぶ。当初は,ギリシア・ヘレニズム文化圏でキリスト教とは無縁に発達し,ビザンティン帝国,アラブ世界に受け継がれ,13世紀ころまでもっぱら世俗的な楽器として用いられた。一方,8世紀に西ヨーロッパにオルガンが伝えられて以後,修道院などを足場に西方キリスト教世界にしだいに浸透し始め,14,15世紀に,建築物の中に固定し使用するタイプのオルガンの基本構造の改良と拡大が進み,音楽上の表現も拡大するにしたがって,教会の礼拝での使用がしだいに定着し,宮廷などでの世俗的使用を上まわり,以後,教会での使用がその主流となった。その後の発展の諸段階で,楽器製作の中に,音響物理,工学,建築,美術工芸などの諸分野にわたる人間の知恵が結集され,蓄積された。この意味で,オルガンという楽器に,ヨーロッパ文化とその歴史をみることができる。

 ギリシア・ローマ時代の文献によると,古代のオルガンには,前3世紀に,エジプトのアレクサンドリアで初めて作られたヒュドラウリスhydraulisと呼ばれる水圧オルガンの類と,手動ふいごによるものの2種類あったようだが,どんな音楽が奏されたかはまったく不明である。ローマ帝国時代,東西分裂後のビザンティン帝国時代には,オルガンは,宮廷での祝典や儀式用の楽器として用いられ,オルガンの豪華さと貴重さが,宮廷の富と権勢を象徴した。また,大きな音を出す戸外の楽器として,闘技場,野外劇場,民衆の祭りなどで,入場行進のファンファーレの演奏などに用いられた。楽器の形や大きさは,当時のモザイクや貨幣の図柄に描かれたものから判断すると,比較的小型の,運搬可能なものであったと推察されるが,演奏された音楽に関する資料は残されていない。その後のアラブ世界では,軍隊の通信用にも使われた。

 757年に,ビザンティン皇帝コンスタンティノス5世が,フランク王小ピピンにオルガンを贈呈したことが,西ヨーロッパでのオルガンの普及の契機となった。初めは宮廷の楽器として珍重されたが,当時の知識階級であるキリスト教の修道士達が,オルガンの製作に大きな関心を持ち,彼らの手で楽器が作られ,各地の修道院の礼拝堂などに設置された。そして,初めは修道院での音楽教育の道具として用いられ,徐々にキリスト教の典礼音楽の主役であった声楽の補助として用いられるようになった。もともと宗教とは無関係の楽器であったオルガンが,当時の〈文化人〉であった修道士達によって,文化の普及の一端として修道院を足場に西ヨーロッパに広められたことが,結果的には,オルガンを教会の礼拝に不可欠な楽器へと変貌させたといえる。

 15世紀までに,複数の手鍵盤と足鍵盤の登場とストップ機構の考案による各音色の分離,独立が行われ,今日のオルガンの基本形ができ上がっていた。しかし,当時のオルガン音楽は,すでに非常に高い水準にあった声楽ポリフォニーに比べると,ごく単純なもので,声楽曲の編曲が主であった。最初期の作曲家として,14世紀イタリアのF.ランディーニ,15世紀ドイツのイーレボルクA.Ileborgh(生没年不詳),パウマンK.Paumann(1415ころ-73),シュリックA.Schlick(1455-1525)などが知られている。16~18世紀は,オルガンの各国様式が確立された時代で,オルガン音楽の発展もこれと表裏一体をなし,各国が多様なオルガン音楽の花を咲かせた。まず,イタリアがもっとも早く,独自のオルガンの様式を完成させた。一連のプリンシパル族のストップによる,声楽的な響きがその特徴である。16世紀後半のベネチアのA.ガブリエリ,メルロC.Merulo(1533-1604),17世紀初めのG.フレスコバルディは,声楽様式とはまったく異なる新しいタイプの器楽曲である,即興の要素が強い技巧的なトッカータを発展させた。スペインは,水平トランペットに代表される開放的な楽器を発展させ,カベソンA.Cabezón(1510ころ-66),カバニリェスJ.Cabanilles(1644-1712)らが活躍した。ネーデルラントでは,ニーホフ一族Niehoffが16世紀に,独立した四つのパイプ群を持つ複合的なオルガンの様式を確立し,フランス,ドイツでのその後の発展の基礎を築いた。アムステルダムのスウェーリンクJan Pieterszon Sweelinck(1562-1621)は,イギリスのバージナル音楽の技法をオルガンにも取り入れ,オルガン音楽の語法を豊かなものにした。フランスでは,当時の管楽器の音色を模したリード・ストップが好まれ,オルガンは教会の楽器でありながら,宮廷音楽のための優雅さをも備えるようになった。ティトルーズJehan Titelouze(1563?-1633)に始まるフランス古典期のオルガン音楽は,17世紀後半のルイ14世時代に全盛をむかえ,ルベーグN.Lebègue(1631-1702),F.クープラン,グリニN.de Grigny(1672-1703),クレランボーL.-N.Clérambault(1676-1749)など多くの作曲家が,ベルサイユ宮殿礼拝堂を中心に活躍した。装飾音の豊富なこの時代のオルガン音楽には,明らかに宮廷でのクラブサン音楽の影響が認められる。ドイツは,カトリック圏の南ドイツとプロテスタントの北ドイツに分かれて発展した。南ドイツでは,イタリアのフレスコバルディの影響とフランス音楽の影響のもとに,J.J.フローベルガー,ケルルJ.K.von Kerll(1627-93),ムファットG.Muffat(1653-1704)らが活躍した。楽器製作では,ジルバーマン一族が傑出した業績を残した。北ドイツでは,シュニットガーArp Schnitgerが,ニーホフから約1世紀後の17世紀後半に,ハンブルク様式とよばれる当時最大の五つのパイプ群から成るオルガンを世に出し,バロック・オルガンの総合を成しとげた。スウェーリンクの系譜をつぐシャイデマンH.Scheidemann(1596ころ-1663),S.シャイト,トゥンダーF.Tunder(1614-67),D.ブクステフーデ,ベームG.Böhm(1661-1733),ブルーンズN.Bruhns(1665-97),ラインケンJ.A.Reincken(1623-1722)らがハンブルク,リューベックなどのハンザ自由都市を中心に活躍し,プロテスタントのコラール(会衆歌)に基づくオルガン・コラールやペダルが華々しく活躍する多部分構成のトッカータなどで,北ドイツ様式を打ち立てた。この多様なオルガン音楽の発展の頂点に位置するのがJ.S.バッハで,各国の伝統をみごとに融合した不朽の名作を数多く残した。

 19世紀には,音楽の場が教会からコンサート・ホールに移り,オーケストラがオルガンに取って代わった。オルガンの音色もオーケストラを模し,音量の増減を行う演奏補助装置を付加して,時代の要求にこたえた。フランスのカバイエ・コルA.Cavaillé-Coll(1811-99)の作ったロマンティック・オルガンは,その代表的なもので,C.フランク,ギルマンF.A.Guilmant(1837-1911),ビドールC.M.J.A.Widor(1845-1937)など交響楽派と呼ばれる人々が,この楽器を駆使して交響曲風の作品を書いた。ドイツでは全般に衰退がいちじるしく,オルガンで名人芸を披露したリスト,メンデルスゾーン以外は目だった活躍がみられない。

 20世紀初頭,古楽復興の動きの中で,バロック・オルガンの再興を目ざす〈ドイツ・オルガン運動〉がシュワイツァーらのよびかけで起こり,これがヨーロッパ中に波及し,この理念によるネオ・バロック・オルガンの製作が始まった。第2次世界大戦後も,このタイプのオルガンが楽器製作の主流をなすが,1970年代から,この運動のひき起こした弊害も指摘され始め,現代の科学技術を取り入れた折衷的なネオ・バロック・オルガンの根本的見直しを主張する動きもみられる。20世紀のオルガン音楽の代表的な作曲家としては,ドイツのM.レーガー,P.ヒンデミット,フランスのM.デュプレ,アランJ.Alain(1911-40),O.メシアンがあげられる。近年,ハンガリー生れのG.リゲティ,アメリカのJ.ケージらは,トーン・クラスターの手法と図形楽譜の結合による作品で,オルガンの表現の新たな可能性を追究している。

 日本とオルガンのかかわりは,16世紀後半,スペイン,ポルトガルの宣教師によるキリスト教布教と共に始まるが,当時持ち込まれた楽器は,その後のキリシタン禁制ですべて消失した。明治以後,洋楽輸入と宣教師によるキリスト教伝道の再開で,オルガンがキリスト教主義の学校,教会に設置されたが,礼拝用楽器であったため,洋楽全体では大きな比重を占めるに至らなかった。1920年徳川頼貞が南葵音楽堂に設置し,後に東京音楽学校(現,東京芸術大学)に寄贈したオルガンは,第2次大戦の前後を通じ,日本のオルガン教育に大きく貢献した。特に経済の高度成長期の60年代以降,大オルガンの輸入が急増し,最近では特に,地方自治体の公共ホールへのオルガンの設置が目だち,日本でのコンサート・オルガンの新しい歩みが注目される。
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百科事典マイペディア 「オルガン」の意味・わかりやすい解説

オルガン

鍵盤(けんばん)楽器の一つ。機械的に吹く管楽器の複合体で,その名はギリシア語のオルガノンorganon(〈道具〉の意)に由来(オルガヌム参照)。紀元前250年ごろアレクサンドリアの技師クテシビオスが作った〈ヒュドラウリス〉が原形とされる。その後ビザンティン帝国やスペインでも盛んに製作され,14―15世紀には指だけで操作できる鍵盤やペダル鍵盤などが考案されて急速に進歩し,大型化した。そしてルネサンス,バロック両時代を通じて,オルガンは音楽の中心的役割を果たした。17世紀後半から18世紀後半にかけて,ドイツのA.シュニットガーやジルバーマン一族が優秀な楽器を製作。19世紀には,オーケストラの色彩感を模倣したロマンティック・オルガンが音量と音色の多彩さを競い,フランクビドールらの作曲家が重厚な作品を残した。20世紀初頭からは,バロック・オルガンを模した明快清澄な音のものが数多く製作された。19世紀以降,オルガン音楽は主にフランスとドイツで新たな開花をみせ,レーガー,M.デュプレプーランク,M.デュリュフレ〔1902-1986〕,メシアン,J.アラン〔1911-1940〕,リゲティらの作曲家が多様な表現を開拓している。 オルガンの構造は次の部分に分かれる。1.発音源としてのパイプ。これは縦笛式のフルー管とリード管に大別され,さらに材質や長さ,太さによって各種の音高,音色が可能。2.パイプに風を送る装置。手,水なども動力とするが,現在は電動送風機による。3.鍵盤。4〜5オクターブの手でひく鍵盤(マニュアル)が2〜3段と,2オクターブ半の足でひく鍵盤(ペダル)。4.鍵盤1つについてパイプの組が複数あるので,そのうちの使用するものを選んだり組み合わせたりするストップと,別の鍵盤に属するパイプの組を使用するためのカプラー。オルガンは教会堂などに据え付けられ,同一の楽器はない点が特異であるが,小型のポジティフや,1人で持ち運べるポルタティフなどもバロック時代には作られた。なお日本で〈パイプ・オルガン〉と呼ばれることがあるのは,リード・オルガン(ハルモニウム)がオルガンとして普及したためである。→コラールハモンド・オルガン
→関連項目楽器キリスト教音楽ハープシコード

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音楽用語ダス 「オルガン」の解説

オルガン [organ]

ただオルガンといえば、通常パイプ・オルガン(Pipe Organ)を指す。パイプ・オルガンは多数の管に空気を送り込み、管内の空気かリードの振動によって発音する。2段以上のマニュアル(手鍵盤)と1段のペダル(足鍵盤)をもち、空気を送り込むパイプを選択するストップ(一種のスイッチ)の切り替えによって、音色・音質を変化させる。その歴史は紀元前にまでさかのぼる。その最初期の形は、数本のパイプを口で吹いて演奏するパン・パイプスであった。パイプの機構や鍵盤の形態、配列など様々な経過を経て、15世紀の終わりまでには原則的に現在のような形に至った。7世紀半ばにはキリスト教会で会衆の歌唱指導に用いられたとの記録が残っているが、当時のオルガンは単旋律を受け持つだけだったと考えられる。鍵盤楽器のための多声的作品の最古の記録は14世紀のものであるが、まだ各種鍵盤楽器の独自性は確立しておらず、オルガン、ハープシコードなどの鍵盤楽器でも演奏できるものが書かれている。17~18世紀前半はオルガンの黄金時代といえる。バッハ、ヘンデルらが数多くの作品を書いたこの時期に、オルガンは音響的にも演奏技法的にもその特質をはっきりと表し、独自の表現能力を備えた独奏楽器として、また、通奏低音楽器として確固たる地位を築いた。しかし18世紀半ばに現れたピアノ、一般的な音楽的趣味の変化(対位法的な曲よりもきれいな旋律と和音の音楽へ)の影響で、オルガンは教会の中では依然重要な楽器であり続けたが、一時期作曲家の興味を引かなくなっていた。19世紀に再びバロック時代のオルガン音楽が音楽家や学者に注目されるようになり、メンデルスゾーンやリスト、フランクらによって新たな演奏会用の作品も書かれるようになった。ロマン派の時代のオルガンは、弦の音色を模倣したパイプが作られるなど、音色の面でも音楽構造の面でも次第に管弦楽を模倣する色彩的な傾向が強くなったが、それに対してオルガン独自のあり方をバロックの伝統の上に求める“オルガン運動”と呼ばれる動きが20世紀のドイツから起こった。今世紀には、ヒンデミット、シェーンベルク、メシアンらがオルガン独自の可能性を発揮させるような現代的書法の作品を書いている。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「オルガン」の意味・わかりやすい解説

オルガン
organ

鍵盤を備えた気鳴楽器。本来,パイプをもつオルガン (パイプオルガン) のみを意味し,発音体の異なるリードオルガンや電子オルガンとは区別される。コンソール (演奏台) で手鍵盤 (マニュアル) や足鍵盤 (ペダル) などを操作すると,送風器,空気室,風箱などから成る送風機構を通って圧縮空気がパイプに送られ,パイプ内の空気柱が振動して発音する。またストップ (音栓) やカップラー (連動音栓) の装置を使って,大小さまざまなパイプの組合せを変えることによって音色に変化を与える。ヘレニズム時代のアレクサンドリアで発明されたといわれ,その後中世にキリスト教教会で用いられるようになって以来,改良を重ね,今日のような複雑な機構をもつ大規模な楽器となった。

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世界大百科事典(旧版)内のオルガンの言及

【器官】より

…多細胞生物のからだの中で,1種ないし多種の組織から成り,どの個体にも共通する一定の形態・構造と機能をもつ部分のこと。動物体についていえば,例えばヒトの犬歯は象牙質,エナメル質,セメント質,歯髄などいくつかの組織から成る1個の器官である。ふつう器官は複数または複数種類のものが一定のパターンでつながって協調的に作用し,全体として個体の正常な生活を成り立たせる高次の機能を発現する。動物ではこうした器官の組合せを器官系organ systemと呼ぶ。…

【オランダ】より

…1581年に新教国としてスタートしたオランダは,富裕市民階級を中心に音楽面でも飛躍的に発展した。最も注目されるのが,オルガン,チェンバロによる鍵盤音楽の興隆である。17世紀初め,アムステルダムで活躍したスウェーリンクJ.P.Sweelink(1562‐1621)はその代表的作曲家で,オルガン音楽では,北ドイツ出身のオルガニストを多く育て,北ドイツ・オルガン楽派の祖となり,チェンバロ音楽でも,イギリスのバージナル音楽の伝統を吸収し,高い技巧を加味した独自の様式を打ち出した。…

【カエキリア】より

…トラステベレTrastevereの自宅は後にサンタ・チェチーリア・イン・トラステベレ教会となる。15世紀以降,音楽と音楽家の守護聖女とみなされるようになり,オルガンなどさまざまな楽器をもつか,楽を奏する天使たちを伴って表現される。これは,彼女の結婚式のための音楽に合わせて,魂と肉体の純潔を守りたまえと心の中で神に歌い祈りつづけたという伝説に由来する(1584年ローマに,その名を冠した〈サンタ・チェチーリア音楽アカデミー〉が創立された)。…

【機械】より

…しかし器械としてさらに複雑になったものは,楽器と武器であった。西洋では紀元前から風笛の機械装置としてパイプ・オルガンがあってヘロンやウィトルウィウスの著書にも現れている。オルガンの誕生にはふいごが前提となるから,それ以前にポンプがなければならない。…

【鍵盤楽器】より

…鍵盤はこのオクターブを順次重ねたものだが,全体の幅,つまり鍵の数は楽器の種類や時代によって異なる。また鍵盤は一般に手の指で操作されるが(手鍵盤),オルガンや一部のハープシコードのように,足で奏される足(ペダル)鍵盤を備えた楽器もある。いずれにせよ,1個の鍵は一つの音高に対応し,ストップ(レジスター)装置によらない限り,演奏中にこの対応関係を変化させることはできない。…

【ストップ】より

…パイプ・オルガンやハープシコードなどにおいては,特定の音色や音高の音列をいくつか用意しておき,スイッチの操作で鍵盤とそれらの音列とを任意に結合させ,種々の音効果を得ている。このスイッチのことをストップ(音栓)と称している。…

【ハルモニウム】より

…発音に必要な送風は,奏者自身が両足を使って操作する足踏式ふいごによる。風がリードを通って吹き出す式のものと,リードを通して風を吸い込む式のものとあり,後者が日本では普及し,〈リード・オルガン〉あるいは単に〈オルガン〉と呼ばれている。アコーディオンバンドネオンは,発音機構は同じであるが,形態,演奏法が異なるので,この中には含まれない。…

【バロック音楽】より

…コンチェルトの生き生きとした躍動感に対して,管弦楽組曲は一般に荘重華麗なスタイルを特徴とする。なお,バロック器楽の主役となったのは,アマーティ,ストラディバリらの手で不世出の名器が生まれたバイオリンと,楽器の女王と呼ばれたオルガンおよびハープシコードであった。バイオリンは,協奏曲の独奏楽器となるほか,通奏低音付きのソナタでも数多くの名曲を生んだ(コレリ,タルティーニ)。…

【笛】より

…歌口から上の部分を吹口とみなすこともできよう。オルガンのパイプの主軸であるフルー管もこれと基本的に同じで,機械送風を用いることと,吹込み口も歌口も下部にある点が異なる。 やはり縦型の尺八,洞簫(どうしよう)(),ケーナネイなどの場合は,管の上端が開放されており,気道は設けられていない。…

※「オルガン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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