クワ(読み)くわ

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

クワ
くわ / 桑
[学]Morus

クワ科の落葉高木または低木。クワ属の総称で、絹糸を生産するカイコの食草として重要な植物である。葉は数センチメートルの柄があり互生し、切れ込みの有無で切葉と丸葉とに分けられ、切葉は切れ込みの数で、丸葉は葉長と幅の関係などで分けられる。この葉の形は品種の識別に利用されるが、1本の木でも葉の出る時節や葉のつく枝の位置によって変異があり、決定的なものではない。初夏に楕円(だえん)形の穂状花序を出し、多数の小花をつける。雌花序と雄花序とがあり、雌雄同株の個体や異株の個体がある。夏には雌花序が赤から黒色に熟し、一つの花序が1個の果実のようにみえる。これは桑の実、桑苺(くわいちご)、ドドメ、椹(じん)などとよばれ食べられ、乾かしたり、ジャムにしたり、果実酒にしたりする。
 日本には数種のクワがあり、栽培されるクワの品種は100種を超すが、そのほとんどがヤマグワ(山桑)とカラグワ(唐桑)、およびロソウ(魯桑)の3種を原種としてつくりだされている。
(1)ヤマグワM. bombycis Koidz. 日本原産で、東北地方を中心に各地に分布する。高さ8メートルに達し、葉は長さ5センチメートルから十数センチメートルとやや小形で、鋸歯(きょし)は粗く、葉先はとがる。小枝は赤褐色でざらつく。果穂は楕円形で紫黒色に熟す。材が黄褐色ないし黄白色と美しく、床柱や家具調度品などに利用する。
(2)カラグワM. alba L. マグワ(真桑)、ハクソウ(白桑)、カラヤマグワともいう。中国北部から朝鮮の原産で、奈良時代にすでに植えられていた。高さ十数メートルに達し、葉も大きくつやがあり、鋸歯はヤマグワほど鋭くない。小枝は灰色ないし灰褐色でやや滑らかである。果実は白色ないし暗紫色に熟し食用となる。
(3)ロソウM. latifolia Poir. ログワともいう。中国の山東省が原産地とされ、カラグワの変種として扱われることもある。葉は大きく、丸葉で表面につやがある。小枝は黄褐色で滑らかである。
 栽培品種はこれら3種の形質が混じっている場合が多く、区分はむずかしいが、おもな特徴により、ヤマグワ系、カラグワ系、ロソウ系に分けられる。ヤマグワ系の品種は耐寒性が強く、春の芽吹きが早い。春の葉の収量は多いが、夏から秋にかけての生産量は少なく、早い時期に葉が硬くなるので、春蚕(はるご)や稚蚕に適している。赤木(あかぎ)、市平(いちべい)、島の内(しまのうち)、剣持(けんもち)、山中高助(さんちゅうたかすけ)、新桑(しんそう)2号などの品種がある。カラグワ系は寒さや乾燥にはさほど強くないが、葉質はよい。晩春から秋にかけて高い収量が保てるので、春蚕や秋蚕の壮蚕(4、5齢のカイコ)に適している。一の瀬、改良ねずみ返し、福島大葉(おおは)、国桑(こくそう)27号、多胡早生(たこわせ)などの品種がある。ロソウ系は寒さに弱いが、乾燥には強い。春の収量は少ないが、夏から秋にかけての収穫量が高く、また葉の硬化が遅いので、夏蚕や秋蚕の壮蚕に適している。ろ桑(そう)、大島桑(おおしまそう)、赤芽ろ桑、改良ろ桑、国桑20号などの品種がある。
 繁殖には接木(つぎき)、取木、挿木などによって苗木を育て、10アール当り500本ほどを春または秋に定植して桑園(そうえん)をつくる。クワは自然のままに生育させると、葉が小形で硬くなり、カイコの食草として品質が落ち、また採葉や手入れにも不便である。そこで、定植後から採葉を始めるまでの3~4年間に、樹形の仕立てを行う。また採葉を始めて以降も、毎年1回枝を切り除いて刈り、株仕立てを行う。仕立ての方法には、切りもどす主幹の高さや残す枝の数などによって、根刈り、中刈り、高刈りなどがある。暖地では病虫害が少なくなる根刈り法が普及し、積雪地帯では高刈りが適している。
 葉はカイコの飼育期間中、毎日収穫する。カイコの飼育時期は春、夏、秋などの季節があり、カイコの大きさ(齢という)によっても食べ方が違うので、葉の収穫の方法もいろいろにくふうされている。葉だけを摘むのは労力がかかるので、葉のついた枝(條桑という)ごと切りとる條桑収穫が広く行われる。若い柔らかい葉が必要な稚蚕用には枝先の新梢(しんしょう)を摘む全芽収穫が行われる。
 災害や病虫害としては、春の凍霜害などの気象災害や、萎縮(いしゅく)病などの病気、クワノメイガなどの病気がある。[星川清親]

民俗

クワを霊木とみる信仰があり、この木を死者の杖(つえ)として、普段これをついて歩くのを忌む地方が多い。しかし一方では、クワの木の杖や箸(はし)、杯(さかずき)、桑の湯、桑茶には、中風(ちゅうぶ)を防いだり治したりする効果があるという。これらは、クワを聖樹とみる中国の古い信仰からきており、古代の中国人は桑樹を太陽の出入りするところの神木と考えていた。また中国の古礼では「桑弧蓬矢(そうこほうし)」といって、男児が生まれると、ヨモギの葉の矢羽でできたクワの弓矢を天地四方に向けて射たが、これは、クワの弓矢が太陽信仰と結合して、男児の前途を祝す儀式に用いられたことを伝えている。
 東北地方で養蚕守護神として、また豊作祈願、災難除(よ)けの神として信仰されている「おしらさま」の神体はクワの木が多く、木の先には女や馬の頭部を彫ったり、墨書きがしてあるが、恋をした馬と娘が死んで蚕神に化したという馬娘婚姻譚(ばじょうこんいんたん)も、中国の『捜神記(そうじんき)』にある説話である。また雷鳴のとき、落雷を避けるのに「くわばら、くわばら」と唱えるとよいという俗信は、雷神になった菅原道真(すがわらのみちざね)が、菅原家所領の桑原という土地を避けて通ったからともいわれ、これも、雨水をつかさどる雷神と桑樹との関連を説く中国の伝承に基づくものであろう。養蚕習俗から生まれたこれらの呪的(じゅてき)信仰は、養蚕そのものとともに中国から伝来したものと思われる。[内田賢作]

薬用

漢方では根の皮を桑白皮(そうはくひ)と称して、消炎、利尿、鎮咳剤(ちんがいざい)として咳嗽(がいそう)、喘息(ぜんそく)、浮腫(ふしゅ)、小便不利などの治療に用いる。また、葉を桑葉(そうよう)と称して、解熱、鎮咳、消炎剤として感冒、眼病、高血圧症などの治療に用いる。果実を桑椹(そうじん)と称して、強壮、鎮静、補血、止瀉剤(ししゃざい)として用いる。果実の汁液を麹(こうじ)といっしょにして発酵させた酒を桑椹酒といい、強壮の酒として有名である。[長沢元夫]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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