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コーラン コーランKoran; al-Qur'ān

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

コーラン
Koran; al-Qur'ān

イスラム教聖典クルアーン,コラーンともいう。元は「読誦すべきもの」の意。約 8万語のアラビア語散文および韻文からなり,114のスーラ呼ばれる章に分かれるキリスト教主の祈りに比される冒頭の「開扉の章」(ファーティハ)を除き,長い章から順に配列されている。教徒にとってはアッラーの神のことばそのもの,永遠なるつくられざる神の意志であり,天使ジブリール(ガブリエル)を通してメジナメッカ預言者であるムハンマドに啓示されたとされる教義と掟の集大成である。イスラム法の第一の法源ともなっている。アッラーに対する絶対的帰依を説くが,新約聖書旧約聖書と共通する部分は多い。初めは口承,または断片的に集録され,ムハンマドの死後にまとめられた。異本が生じたので第3代カリフウスマーン(在位 644~656)によって公認の正典が定められ,ほかの写本は一切破棄されたという。預言者のことばでのみ読み,注釈すべきとされ,翻訳は奨励されないが,12世紀頃よりラテン語訳などが出現し,日本語を含む近代語にも訳されている。

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朝日新聞掲載「キーワード」の解説

コーラン

イスラム教の聖典。預言者ムハンマドが610年から亡くなる632年までの間に神から受けた啓示をまとめたもの。114章からなり、啓示の時代順ではなく、長い章から先に配置されている。天地創造や終末などの世界観、道徳や倫理などの規範から相続や刑罰など法的な規定まで含む。もともと、声に出して読まれるものを意味し、アラビア語の韻律の美しさが人間業を超えるとされる。このため、ほかの言語に訳したものは聖典と認められない。

(2010-09-10 朝日新聞 朝刊 2総合)

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デジタル大辞泉の解説

コーラン(Koran/〈アラビア〉Qur'ān)

《読誦(どくじゅ)されるものの意》イスラム教の聖典。ムハンマドマホメット)が天使ガブリエルを通して受けたとされるアッラーの啓示を集録したもの。アラビア語で書かれ、信徒の信条・倫理的規範・法的規範などを特異な散文詩体で述べる。114章からなり、ムハンマド没後に結集された。クルアーン。

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百科事典マイペディアの解説

コーラン

イスラム教の根本聖典。アラビア語で正しくはクルアーン。教祖ムハンマドが神アッラーから下された啓示とされる。114章から成り,現在の形にまとめられたのは第3代カリフウスマーンの時である。
→関連項目アラビア語イスラムイスラム文化ウラマー王浩然大川周明教典クルスームジャーヒズシャリーアハディースハーフィズマドラサワッハーブ派

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世界大百科事典 第2版の解説

コーラン【al‐Qur’ān】

アラビア語で書かれたイスラムの根本聖典。正しくはクルアーン。ムハンマドが最初に啓示を受けた610年から632年の死に至るまでの22年間,預言者として,また共同体の政治的指導者として活躍する折々に神から下されたとされる啓示を人々が記憶し,後に第3代カリフ,ウスマーンの時に集録されたものである。 114章よりなり,各章には名称があるが,それはその章の主題ではなく,単なる呼称にすぎない。そもそもコーランの各章には,一貫したストーリーというものがない。

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大辞林 第三版の解説

コーラン【Koran】

アラビア Qur'ān 読誦されるものの意〕
イスラム教の聖典。ムハンマドが唯一神アッラーから受けた啓示を集録したもの。一一四章から成る。イスラム教の信仰に関することだけでなく、日常生活の規範をも示す。七世紀中頃に第三代正統カリフ、ウスマーンにより最終的に成立。クルアーン。コラーン。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

コーラン
こーらん
Qur'n

アラビア語で書かれたイスラムの根本聖典。厳密にいえば「クルアーン」。qur'nは伝統的にはアラビア語の動詞qara'aから派生した名詞で、本来の意味は「読誦(どくじゅ)」であるとされているが、この語の意味と起源については諸説がある。コーランは、20余年にわたって神(アッラー)が、天使ガブリエルを通してムハンマド(マホメット)に、天にある「啓典の母体」から読み聞かせたとされる啓示を人々が記憶し、のちに集録したものである。[中村廣治郎]

構成と文体

コーランは114の章からなる。各章の長さはまちまちで、長いもので286節(第2章)、短いものでわずか3節からなる(たとえば第103章など)。「開扉の章」(第1章)を除けば、ほぼ長い章から順に配列されている。概して初期の章ほど短いので、その構成は年代とは逆の順序になっている。各章には「牝牛(めうし)」「女」「食卓」などの名があるが、章の主題を表すものではなく、人名と同じく単なる名称にすぎない。そもそもコーランには通常の意味での一貫したストーリーがない。その理由として第一に、そこでは神が多くの場合一人称で雑多な問題についておりおりに語りかける形式をとっているため、同一の章のなかでも話題はさまざまに変わっていること。第二に、アラビア語の一字一句がそのまま神のことばとして、人間のことばと厳しく区別され、文学的作為はすべて排除されてそのまま集録されたことがあげられる。このことが外部の人間にとってコーランが読みにくいと思われる一因でもある。また、伝統的に翻訳を拒否し、かたくなに「アラビア語のコーラン」に固執するムスリム(イスラム教徒)の態度もそこに起因する。
 コーランは、サジュウ体とよばれる脚韻を踏んだ散文詩である。メッカ時代初期では、そのうえ誓言が多用され、文体は当時のシャーマンの語り口を思わせる。一種の神憑(かみがか)り状態のなかで短く吐き出されることばはイメージに富み、想像力を刺激して異様な雰囲気を醸し出し、迫りくる終末とその恐怖、おどろおどろしい不可視の世界の不気味さをよく表現している。このような簡潔で引き締まった文体は徐々に弛緩(しかん)していき、メッカ後期になると内容的にも過去の事件や物語が多くなる。さらにメディナ期になると、イスラム共同体(ウンマ)が確立した現実状況を反映して無味な法的規範が多くなり、文体も冗長(じょうちょう)になる。[中村廣治郎]

コーランの読誦

コーランは黙読するよりも、朗々と声を出して読誦するものである。そこにコーランの魅力の一つがある。専門のコーラン読み(カーリ、ムクリ)の完璧(かんぺき)な朗誦(ろうしょう)は聞く者を恍惚(こうこつ)とさせる。宗教音楽もイコンも認めないイスラムでは、このアラビア語のコーラン読誦がもつ人間業(わざ)を超えた詩的韻律美と音楽的朗誦美は宗教芸術の域にまで高められた。こうしてコーランは礼拝のときだけではなく、日常生活のあらゆる機会に読誦され、伝統的教育では児童はまずコーランの暗誦をさせられたのである。またイスラム世界では、アラビア文字の曲線美を生かした書道が早くから発達し、モスクの壁面などの空間にコーランの章句が装飾に用いられてきた。[中村廣治郎]

定本の成立

コーランが現在のような定本の形をとるようになったのは預言者ムハンマドの死後のことである。伝承によれば、コーランの結集(けつじゅう)は二度行われたという。1回目は初代カリフ、アブー・バクル(573―634)のときで、相次ぐ戦争でコーランの記憶者が多数戦死したため、コーランの消失を恐れて結集が行われたという。2回目は3代目カリフ、ウスマーン(?―656)のときで、コーラン本文の違いが戦士たちの間に対立を生んだことから、定本確定のために改めて結集が行われ、異本が焼却されたという。これらの伝承にはそれぞれ批判が加えられているが、このようにして今日に伝わるウスマーン本が成立した。しかし、当時においては、アラビア文字の表記法がきわめて不完全であったことから、同じテクストに対してさまざまな読み方が現れた。その間、母音符号その他の符号が種々考案され、10世紀初めから徐々に統一に向かい、7学派の読み方が公認された。そのなかの一つが1924年にエジプト政府が刊行したテクストの定本として用いられ、それ以降は、その読み方が今日のイスラム世界で広く用いられている。[中村廣治郎]

意義と内容

コーランは神の永遠なることばと考えられている。イスラムでもっとも基本的なことは「神への服従」(イスラームislm)であるが、それは具体的にはコーランのことばに従うことである。こうしてコーランは、日常生活の全分野にわたる人間の正邪善悪に関する判断の究極的基準として、ムスリムの思考や行動を規制する。
 コーランの内容は三つに大別される。第一が信条。それには神観念、天地創造、アダムとイブの創造と楽園追放、人類の歴史と神の導き、人間の不服従と神罰、終末、死者の復活と審判、天国と地獄、などについての啓示がある。第二が倫理。これは次の法的規範とともに、神に服従するその具体的形式を明らかにしたものである。たとえば、孤児や貧者や旅人を助け、親を敬い、善行を勧め、不正を匡(ただ)すことなど。そのほか、礼儀作法やエチケットの類もこのなかに入る。第三が法的規範。これは二つに分けられ、一つは人間が直接神に負う義務を述べた儀礼的規範。たとえば、浄(きよ)め、礼拝、喜捨(きしゃ)、断食(だんじき)、巡礼。他の一つは人間が相互に負う法的義務規範で、婚姻・離婚、扶養、相続、売買、刑罰などが含まれる。これらの限られた規範を核とし、それを預言者の伝承(ハディース)などによって補足・拡大することによって、のちにムスリムの全生活を規制するイスラム法(シャリーア)が成立する。[中村廣治郎]

研究と翻訳

ヨーロッパでは、コーラン・テクストの刊行およびラテン語その他の言語への翻訳は16世紀中ごろから始まった。しかし、真の意味でのコーラン研究が始まるのは19世紀になってからである。まず、フリューゲルG. Flgelのテクスト校訂(1834)と用語索引(1842)が刊行されて本格的なコーラン研究がスタートした。1860年には、ネルデケTh. Nldekeによるコーラン各章の年代、およびコーラン・テクストの成立過程についての画期的研究が『コーランの歴史』として刊行された。本書はその後シュワリーF. Schwallyの改訂(1909~19)を経て今日でも必読の文献として、その後のさまざまなコーラン研究や翻訳の基礎となっている。
 日本では、コーランの邦訳としては古くは大川周明などのものがあるが、原典からの翻訳としては、井筒俊彦、藤本勝次・伴康哉(ばんこうさい)・池田修、日本ムスリム協会の訳があり、それぞれ特徴をもっている。研究書・概説書には、牧野信也著『創造と終末』、井筒俊彦著『意味の構造』、同著『コーランを読む』などがあり、いずれもコーランの思想や世界観に関するものである。[中村廣治郎]
『井筒俊彦訳『コーラン』全3冊(岩波文庫) ▽藤本勝次・伴康哉・池田修訳『コーラン』(1970・中央公論社) ▽日本ムスリム協会編・刊『聖クラーン』(1982) ▽牧野信也著『創造と終末』(1972・新泉社) ▽井筒俊彦著『意味の構造』(1972・新泉社) ▽井筒俊彦著『コーランを読む』(1983・岩波書店)』

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世界大百科事典内のコーランの言及

【アラブ文学】より

…しかし今日では,作品や詩人の存在の真正さを全面的に否定するのは極論にすぎるという考えが支配的になっている。8世紀ころから,この時代の古詩はアラビア語の最古にして純粋なよりどころであり,コーランを理解するための用語の源であって,しかも古代アラブの歴史や生活を知るうえで不可欠のものであるなどの認識が深まり,《ムアッラカートMu‘allaqāt》《ムファッダリーヤートMufaḍḍalīyāt》《ハマーサal‐Ḥamāsa》《アガーニーal‐Aghānī》などと呼ばれる詩集が相次いで編さんされ,ジャーヒリーヤの古詩を今日に伝えることになった。なかでも《ムアッラカート》はこの時代を代表する7人の詩人のカシーダqaṣīda(長詩)を1編ずつおさめた詩集で,今日に至ってもなお踏襲されているアラブ定形長詩の手本をなすもので,ウムルー・アルカイスUmru’ al‐Qays(500‐540)がその頂点に立つ詩人である。…

【イスラム】より

…610年にわずか数人の信者をもって始められたイスラムは,その後1400年近くを経た現在,西はアフリカの大西洋岸から東は東南アジアの島々にまで広がって6億の信者をもち,その大部分がスンナ派,約1割がシーア派に属する。
[コーランの世界]
 ムハンマドは610年のある日,唯一神アッラーの啓示を受け,自ら神の使徒としての自覚を抱き,最後の審判の日に備えるよう人々に警告を発した。神の啓示はムハンマドの死まで彼に下り続け,後にこれを1冊の書物にまとめたものがコーランである。…

【医療】より

…この近代医学も,第2次大戦後,健康権を基礎に強力に展開されることになったが,その客観的な方法のゆえに,人間性つまりは権利と衝突する場合のあることが明らかになり,いま一度,医療は新しい展開が求められるようになっている。【中川 米造】
[イスラム社会]
 イスラムの教えのなかには,あらゆる病気はアッラーがつくったもの,アッラーはすべての病気を治癒する薬をもつくりたもうた,アッラーの前に不治の病はない,コーランは最良の医薬であり,開巻第一のファーティハの章を唱えることは病気に対して特効がある,というような信念がある。しかし,アラビア医学の発達により,ギリシア,インドなどの医学がとり入れられ治療の理論も確立した。…

【書】より

…これは海外において今後も注目されるであろう。仮名【財津 永次】
【イスラム】
 イスラム世界において,書は諸芸術のなかで伝統的に最も高い位置に置かれ,聖典コーランの筆写をおもな仕事とした能書家の社会的地位もきわめて高いものであった。それは,主として啓示宗教であるイスラムの基本的性格に基づいている。…

※「コーラン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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