スピロヘータ(英語表記)〈ラテン〉Spirochaeta

精選版 日本国語大辞典 「スピロヘータ」の意味・読み・例文・類語

スピロヘータ

〘名〙 (spirochaeta) スピロヘータ科に属する微生物の総称。体長はふつう数ミクロン~数十ミクロンの糸状で、らせん形をなす。分裂によって繁殖。梅毒、回帰熱ワイル病などの病原体になるものを含むが非病原性の種類もある。トレポネマボレリアレプトスピラなど六属に分類狭義には梅毒の病原体(トレポネマ‐パリズム)をいう。〔改訂増補や、此は便利だ(1918)〕

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デジタル大辞泉 「スピロヘータ」の意味・読み・例文・類語

スピロヘータ(〈ラテン〉Spirochaeta)

スピロヘータ科の細菌の総称。トレポネマ、レプトスピラなど六つの属に分けられる。糸状でらせん形をなし、分裂によって繁殖する。梅毒回帰熱ワイル病などの病原体を含むが、非病原性のものもある。また特に、梅毒の病原体のトレポネマパリズム(旧称スピロヘータパリダ)をさすことが多い。
[類語]細菌バクテリア球菌乳酸菌黴菌雑菌病原菌病原体大腸菌サルモネラ菌ピロリ菌ヘリコバクターピロリリケッチアウイルス酵母イースト青黴麹黴

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改訂新版 世界大百科事典 「スピロヘータ」の意味・わかりやすい解説

スピロヘータ
spirochete

エーレンベルクC.G.Ehrenbergが水中から発見した栓抜き様の形をした微生物に,1838年Spirochaeta plicalilisと命名したのがスピロヘータの名の起りである。現在は,スピロヘータ目Spirochaetalesに属する,細長いらせん状の形態をもつ一群の微生物の総称として,この言葉が用いられる。スピロヘータを分類学上,原虫に所属させるか,細菌に編入させるかについては,議論がある。体長は,4μmくらいから長いものでは500μmくらいに達する。好気性のものと嫌気性のものがある。一般に鞭毛をもたず,細胞壁は薄くて柔軟で,細胞は伸縮とともに,軸の回りに速い回転運動を行う。この運動は,細胞壁と細胞膜の間にあって,菌体を取り巻いている軸索と呼ばれる構造物によって行われる。大型のスピロヘータは水生菌や寄生菌が多いが,小型のスピロヘータは人間や動物の病原菌が多い。ふつう6属に分類されるが,人間に対して病原性をもつスピロヘータは次の3属に含まれる。トレポネマTreponema(梅毒および梅毒様疾患),ボレリアBorrelia回帰熱),レプトスピラLeptospiraレプトスピラ症)。レプトスピラを除いては,一般に培養は困難である。梅毒の病原菌トレポネマ・パリズムT.pallidumは体長6~15μm,径0.1μmくらいである。
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百科事典マイペディア 「スピロヘータ」の意味・わかりやすい解説

スピロヘータ

分裂菌綱のスピロヘータ目に属する細菌の総称。長さ6〜500μmの,1回以上巻いたらせん形で,堅い細胞壁を有しない。細胞壁の下に軸糸(じくし)と呼ばれる鞭毛(べんもう)を持ち,これで運動する。自由生活を営むもの,腐食性のもの,寄生性のものがある。この目(もく)にはスピロヘータ科とレプトスピラ科があり,前者には梅毒トレポネーマ,回帰熱ボレリアなどが,後者には黄疸(おうだん)出血性レプトスピラ(ワイル病病原体)などが属する。
→関連項目エリスロマイシン回帰熱サルバルサン伝染病梅毒

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「スピロヘータ」の意味・わかりやすい解説

スピロヘータ
すぴろへーた
[学] Spirochaeta

糸状で屈曲性のある螺旋(らせん)状の単細胞の細菌で、スピロヘータ目の1属。長さ5~250マイクロメートル、幅0.2~0.75マイクロメートル(1マイクロメートルは100万分の1メートル)で、嫌気性または通性嫌気性である。通常、カロチノイド色素を生産する。細胞壁は柔軟で、細胞は細胞壁の伸縮とともに軸を中心とする非常に速い回転運動を行う。硫化水素を含んだ汚泥や汚水・廃水中に生活し、寄生性はない。化学合成有機酸化生物の一つで、炭水化物を発酵させる性質をもつ。

 なお、一般にスピロヘータという場合は、病原性のあるトレポネマ属Treponema(スピロヘータ目の1属)をさして使われるが、分類学的には誤用といえる。トレポネマ属のうち、とくに有名なのが梅毒菌T. pallidumで、この細菌は長さ6~20ナノメートル、幅0.13~0.15ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)とスピロヘータより小形である。また、細胞の先端がとがり、両端に数本の鞭毛(べんもう)がある点もスピロヘータ属の性質と明らかに異なっている。もう一つの大きな相違点は、トレポネマ属が動物に対して絶対寄生性をもつことである。とりわけ、梅毒菌はヒトに対して強い病原性を示す。

[曽根田正己]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「スピロヘータ」の意味・わかりやすい解説

スピロヘータ
spirochaete

スピロヘータ目の細菌群。 1838年 C.G.エーレンベルグが発見。病原性のあるものとしては,1873年に O.オーバーマイアーが回帰熱患者の血液中に発見したのが最初である。現在約 50種が知られている。細胞は細長い螺旋状で,著しい屈伸性を示す。グラム陰性で,芽胞をつくらない。自然界に広く分布しており,多くは死物寄生性で土,水,腐敗物中に生息しているが,動植物やヒトの体内や体表で共生を営むものもある。梅毒の病原体となるスピロヘータ (トレポネーマ・パリダム) がよく知られており,その他,フランベジア,ワイル病などの病原体となるものもある。一般に 10%胆汁酸塩によって溶解され,ペニシリンなどの抗生物質やヒ素剤,蒼鉛剤などに対して感受性が強い。

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栄養・生化学辞典 「スピロヘータ」の解説

スピロヘータ

 細菌の一属で,グラム陰性.

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世界大百科事典(旧版)内のスピロヘータの言及

【回帰熱】より

…再帰熱ともいう。ボレリア属Borreliaのスピロヘータが病原体の感染症で,シラミとノミが媒介する2型がある。世界各地に分布するが,日本にはない。…

【梅毒】より

… 性病は,近代の細菌学の発達によって,それぞれの病原菌が確定されるまでは,正確な区別がなされていなかった。梅毒が他の性病と区別されるようになったのは,1905年にF.R.シャウディンとホフマンErich Hoffmann(1868‐1959)により梅毒トレポネマが発見されて以後のことである(はじめスピロヘータ・パリダと命名,のちにトレポネマ・パリズムと改称)。1910年P.エールリヒ,秦佐八郎によって有機ヒ素剤であるサルバルサンが開発され,初めての化学療法剤として梅毒の治療に用いられたが,治療効果は不十分であり,副作用が多発した。…

※「スピロヘータ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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