マネーサプライ(その他表記)money supply

翻訳|money supply

デジタル大辞泉 「マネーサプライ」の意味・読み・例文・類語

マネー‐サプライ(money supply)

金融機関中央政府以外の一般企業・個人・地方公共団体などが保有する通貨量。日本銀行から金融機関に供給される資金はマネーベースという。通貨供給量。→マネーストック
[補説]郵政民営化や金融商品の多様化などによる環境の変化に対応するため、日本銀行は従来の「マネーサプライ統計」を見直し、集計対象や指標の定義を改定。平成20年(2008)6月から名称を「マネーストック統計」に変更した。マネーサプライ統計では「M2+CD」(現金通貨要求払預金定期性預金外貨預金・非居住者預金にCD譲渡性預金)を加えたもの)が代表的な指標とされていたが、マネーストック統計ではより調査対象の広い「M3」(現金通貨・預金通貨準通貨・CDの合計)が代表的な指標として使用される。

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精選版 日本国語大辞典 「マネーサプライ」の意味・読み・例文・類語

マネー‐サプライ

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] money supply ) 金融機関を除く法人、個人、地方公共団体が保有する現金および預貯金の総量。通貨供給量。貨幣供給量

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改訂新版 世界大百科事典 「マネーサプライ」の意味・わかりやすい解説

マネー・サプライ
money supply

銀行などの金融機関以外の民間部門(企業,個人,地方公共団体など)が保有する通貨をいい,通貨供給量と訳される。

通貨の定義により狭義マネー・サプライと広義マネー・サプライに分かれる。狭義マネー・サプライとは,通貨を現金通貨預金通貨すなわち要求払預金の合計と定義した場合で,通常M1(エムワン)と呼ぶ。日本の場合,要求払預金には全国銀行(信託勘定を除く),相互銀行,信用金庫,農林中金,商工中金に預けてある当座預金,普通預金,通知預金納税準備預金,および別段預金を含める。いずれの預金も期限の定めがなく,保有者の要求によって支払(決済)手段として機能するからである。これに対して,広義マネー・サプライとは,通貨の定義の中に期限付の定期性預金や貯蓄勘定などの準通貨quasi-moneyまでも含めた場合である。この場合,通常は定期性預金のみを含めた広義マネー・サプライをM2,貯蓄勘定をも含めた広義マネー・サプライをM3と呼ぶ。もっとも,日本とアメリカにはM2とM3の区別が存在するが,ドイツやイギリスのように,定期性預金と貯蓄勘定の区別が困難であるという理由からM2を作成せず,M3のみを作成している国もある。

 日本の場合には,上記のM1に,同じ範囲の金融機関に預けてある定期預金,定期積金および相互銀行掛金を加えたマネー・サプライをM2と呼ぶ。またこのM2に,郵便局に預けてある貯金,農協,漁協,信用組合労働金庫に預けてある預貯金,および信託銀行に預けてある金銭信託貸付信託を加えたマネー・サプライをM3と呼ぶ。このように,定期性預金や貯蓄勘定までも通貨の定義に含め,M2やM3といった広義のマネー・サプライを作成するのは,これらも期日が到来したときや期日前でも解約したときには,支払(決済)手段として機能するからである。つまりM1に比較すれば流動性は低いが,いつでも通貨に転換しうる予備軍,つまり準通貨であるがゆえに,これらをM1に加えたM2やM3の統計を作成し,その動向を分析するのである。アメリカでは,さらに政府短期証券などいつでも容易に売却して通貨に換えることのできる流動性の高い金融資産をM3に加え,M4,M5……と種類を増やしたこともある。ただし,このように通貨の定義を拡張すればするほど,マネー・サプライには流動性の程度が異なる各種の金融資産が含まれるので,その合計額の意味が薄れ,他の経済諸変数との相関関係が不安定になる。日本では,上記M1,M2,M3のほか,M2とM3のおのおのにCD(譲渡性預金)を加えた[M2+CD],[M3+CD]を公表している。これは,CDが定期性預金や貯蓄勘定とは異なって譲渡性があるものの,その保有動機は定期預金の保有動機に近く,通貨の予備軍としての性格が強いからである。

マネー・サプライが通貨の概念として重要性を増してきたのは,銀行組織を通ずる支払(決済)機能が一段と普及してきたためである。つまり貨幣経済における各種取引の支払(決済)が主として現金の授受で行われていた時代には,通貨moneyとは現金currencyを指していた。しかし小切手や手形が発達し,それらが各種取引に際しての支払手段となると,その取引の最終的な決済は当座預金相互の振替で行われるようになる。さらに小切手や手形を用いず,銀行に対して直接振替や送金を指図することによっても,要求払預金が支払(決済)手段として機能する。また継続的な支払(決済)は,料金自動振替,給与の預金振込み,クレジット・カードの定期的な決済などで行われるようになった。こうして現代では,支払(決済)手段としての通貨は,現金よりも要求払預金,つまり預金通貨によるほうが圧倒的に多くなってきた。したがって,各種の取引を反映した決済額の動向をみるためには,現金の動きだけをみていたのでは部分的にすぎることになり,預金通貨を加えた狭義マネー・サプライをみなければ適切な判断が下せないのである。このほか,通貨には価値保蔵手段という機能があるが,これも現代では現金をたんすや床下に隠して資産価値を保蔵する人は少なく,一般には定期性預金や貯蓄勘定などの準通貨の形で資産価値を保蔵する。したがって価値保蔵手段としての通貨という場合にも,現金のみではなく,広義マネー・サプライをみるほうが適切である。

経済理論の分野でマネー・サプライが脚光をあびるようになったのは,M.フリードマンを中心とするマネタリズムの主張に負うところが大きい。フリードマンは,アメリカの50年以上にも及ぶ時系列データを調べた結果,マネー・サプライ残高で名目所得を除した比率(通貨の流通速度)のほうが,財政支出で所得を除した比率(所得乗数)よりも安定していることを示し,名目所得に対する効果はマネー・サプライのほうが財政支出よりも安定しているとし,マネー・サプライ・コントロールのほうが財政支出政策よりも有効性が高いと主張した。その理論的根拠は,仮に財政支出によって所得乗数倍の名目所得の増加が生じた場合,その所得増加は取引動機に基づくマネー・サプライ需要の増加をもたらすので,マネー・サプライが一定であれば金利が上昇し,民間支出は減少して所得乗数倍の名目所得の減少をもたらし(これを〈押出し効果crowding-out effect〉と呼ぶ),最終的に名目所得が増えるのか減るのか,わからないという点に求められる。フリードマンはこの立場から,名目所得の増加率,ひいては物価の水準を安定させるためには,マネー・サプライ残高の増加率を実体経済の均衡成長率に見合った水準に安定させることが大切だと主張している。

金融政策の実践的立場からマネー・サプライが注目されはじめたのは,1970年代以降である。このころから先進国のインフレーションがいっせいに加速し,そのインフレ率も1けたの後半から2けたの間で大きく変動するようになった。これを反映して,人々の予想インフレ率も不安定で変わりやすくなった。理論的に考えると,中央銀行が名目所得増加率,ひいては最終的な政策目標である物価水準の安定を図るためには,金融政策の諸手段を駆使して中間目標である実質金利(名目金利-予想インフレ率)の水準,またはマネー・サプライ残高の増加率をコントロールする必要がある。ところが70年ころから人々の予想インフレ率が予測しがたいほど不安定に動きはじめたため,中央銀行は実質金利の水準を判定することが困難となり,中間目標としてマネー・サプライ残高の増加率を採用するようになった。現在,アメリカ,イギリス,ドイツ,フランスなどの各国は,M2やM3の年間目標増加率を公表しており,日本銀行も[M2+CD]の前年比予測値を毎四半期の初めに公表している。もっとも最近は,インフレ率が低下してきた反面,金融革新に伴って通貨需要関数が不安定となっているため,アメリカやカナダではM1を中間目標に加えないとか,実質金利にも注意を払おうという動きが復活する傾向にある。
金融政策
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「マネーサプライ」の意味・わかりやすい解説

マネーサプライ
まねーさぷらい
money supply

銀行以外の民間部門が保有する通貨残高のこと。通貨供給(量)ともいう。以前は海外でもマネーサプライといわれていたが、通貨量に関する認識の変化などにより、しだいにマネーストック(通貨残高)、マネタリーアグリゲート(通貨集計量)といった統計名称が使われるようになった。日本でも、2008年(平成20)の通貨統計の見直しの際、海外との共通認識からマネーストックにとってかわられた。

 通貨の範囲をどのように規定するかによって、さまざまなマネーサプライの概念が存在する。日本のマネーサプライ指標の定義も数次にわたって変更されたが、マネーストックに変更する以前のマネーサプライの概念は以下の通りである。まず、現金通貨(日本銀行券、補助貨)と預金通貨(当座、普通、通知、別段の各預金)の合計がM1であり、これは交換手段機能を重視する伝統的概念であった。M1と定期性預金(定期預金、定期積金)の合計がM2である。M2は、定期性預金と預金通貨間のシフトを反映して拡張された概念であり、価値貯蔵手段機能も強調した。M2と貯蓄性預金(郵便局、農業協同組合漁業協同組合、信用組合、労働金庫の預貯金ならびに金銭信託、貸付信託の信託元本)の合計がM3である。さらに広義の概念として導入されたのが広義流動性であり、M3に債券現先、金融債、政府短期証券を含む国債、投資信託、金銭信託以外の金銭の信託、外債が加えられた。

 従来、日本銀行が公表していたマネーサプライ統計は、前記のM1、M2+CD(譲渡性預金)、M3+CD、広義流動性、そして中央政府を含む国内非金融部門の総資金調達残高を表す最広義信用集計量の5種類であり、これらのうち日本銀行はM2+CDをもっとも代表的な統計とみなしてきた。

[金子邦彦]

『石田和彦・白川浩道編著『マネーサプライと経済活動』(1996・東洋経済新報社)』

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百科事典マイペディア 「マネーサプライ」の意味・わかりやすい解説

マネー・サプライ

通貨供給量。通貨の流動性により各種の定義があるが,日本では,個人と法人(金融機関を除く)・地方公共団体が持っている現金,預金,定期預金,CD(譲渡性預金)の各残高合計をマネー・サプライとしている。マネー・サプライの過度の増加は購買力の増加を意味し,物価上昇,インフレーションを引き起こすなど,金融政策の指標として重視される。
→関連項目通貨流通速度ハイパワード・マネー発券制度マーシャルのk

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「マネーサプライ」の意味・わかりやすい解説

マネー・サプライ
money supply

通貨供給量,すなわち現金通貨預金通貨さらには定期性預金などの準貨幣の総供給量をいう。通貨の範囲をどのように規定するかによっていくつかのマネー・サプライ概念があり,また国によって多少の相違はあるが,流動性の程度を加味してしだいに概念が拡大してきたといえる。通常はマネー・サプライ概念として,M1=現金通貨+預金通貨,M2=M1+定期性預金の二つが用いられており,日本では M2に譲渡性預金 CDを加えた M2+CDがマネー・サプライとして採用されている。さらに郵便貯金などの預貯金を加えた M3=M2+貯蓄性預金など,より広義のマネー・サプライ統計も公表されている。

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知恵蔵 「マネーサプライ」の解説

マネーサプライ

日本銀行と市中金融機関から供給され、国内の民間非金融部門が保有する通貨量。日本では4つのマネーサプライ指標が作成・公表されている。現金通貨と預金通貨(要求払い預金)の合計であるM1、これに準通貨(定期預金等)及びCD(譲渡性預金)を加えたM2+CD、さらに郵便局・農漁協・信用組合等の預貯金、全国銀行の信託勘定を加えたM3+CD、そして債券現先・金融債・国債・投資信託・外債等を加えた広義流動性である。マネーサプライが重要視されるのは、実体経済や物価の動向と密接な関係を持っていると考えられるためである。一般に、経済活動に用いられる通貨を幅広く網羅し、速報性もあるM2+CDが利用されるが、近年ではM2+CDがカバーしていない金融商品との間での資金シフトが見られ、広義流動性等と併せて分析する必要性が高まっている。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

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ASCII.jpデジタル用語辞典 「マネーサプライ」の解説

マネーサプライ

現実の経済に出回るお金の量。毎月、日本銀行が調査結果を発表している。好況時に、企業は設備投資を増やし、銀行借り入れも増やす。銀行から世の中にお金が流れるため、マネーサプライは上昇。逆に不況時は、企業は設備投資を減らし、銀行返済を急ぐため、マネーサプライは低下。日本銀行はマネーサプライの適正水準を保つために、不況時には金利を引き下げ、マネーサプライを増加させることで景気を刺激。逆に景気過熱感が高まった場合、公定歩合などの金利を引き上げてマネーサプライの伸びを鈍化させ、インフレの過剰進行を防ぐ。

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世界大百科事典(旧版)内のマネーサプライの言及

【貨幣】より

… いずれにしても,今日では,金融当局の公式の定義においても,狭く定義された貨幣から,かなり包括的な貨幣までいく通りかの定義が存在している(M1,M2,M2+CD,M3など。〈マネー・サプライ〉の項参照)。どの貨幣の定義が最も重要かは,この場合,絶対的なものではなく経済政策上の便宜に従って判断されることとなる。…

【銀行券】より

… 現在の発達した金融組織のなかで,貨幣ないし通貨としての機能は,銀行券・補助貨幣といった現金通貨のみならず,当座預金・普通預金などの預金通貨,さらに定期預金などの準通貨ももっている。これらは統計用語でマネー・サプライとよばれ,その範囲によってM1,M2,M3などの種類がある。銀行券はマネー・サプライ全体のなかではその一部分にすぎないが,最終の支払手段として通貨流動性の立体構造においては中核的な地位にある。…

【金融政策】より

…しかし70年代に入り変動為替相場制に移行するとともに,73年秋の第1次石油危機後のインフレーションの苦い経験を踏まえ,物価の安定を最優先する考え方がしだいに定着するに至った。 なおこの過程で,金融政策の運営にあたっては究極目標と政策手段との間に中間目標ないし運営目標を設け,この運営目標を達成することによって究極目標の実現を図るべきだという考え方が主張され,運営目標としてマネー・サプライを重視する考え方が各国の政策当局で採用されるに至った。これは,金融政策の諸手段によって直接,究極目標を達成することは必ずしも容易ではないからである。…

※「マネーサプライ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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