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歌舞伎の演技様式。やわらか事,やわら事ともいい,これを得意とする役者を和事師,やわらか事師,やわら事師,また,やつし方,色事師,濡れ事師などという。濡れ事を中心として展開される柔弱な男性の行動を表すもの。一般には荒事と対照的に用いられているが,〈実事仕は和事をせず〉(《舞曲扇林》)といわれるように,実事に対する呼称と見るのが正しい。初期歌舞伎における〈茶屋遊びの踊り〉から,島原狂言や傾城買狂言を経て,元禄歌舞伎のお家狂言における廓場の〈やつし〉によって完成された。初世中村七三郎に代表される江戸和事と,初世嵐三右衛門,初世坂田藤十郎に代表される上方和事との2系列があるが,和事はおもに上方で発展し,実事を加味した〈和実〉(《双蝶々》の南与兵衛),きわめて女性的な〈つっころばし〉(同,与五郎),いくらか強味のある〈ぴんとこな〉(《伊勢音頭》の福岡貢)などの別を生じた。
執筆者:今尾 哲也
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歌舞伎(かぶき)演出用語。優美な色男の恋愛描写を中心にした、柔らかみのある演技様式をいう。やわらか事、やわら事ともよぶ。この種の演技を主体にした役柄のことでもあり、これを得意とする俳優を「和事師」という。堅実な男子の写実に近い演技を中心にした「実事(じつごと)」に対するもので、初世嵐三右衛門(あらしさんえもん)(1635―90)や初世坂田藤十郎(1647―1709)ら京坂の名優が基礎をつくり、江戸でも同時代の初世中村七三郎(1622―1708)が『浅間嶽(あさまがたけ)』の巴之丞(ともえのじょう)、『曽我(そが)』の十郎など、この種の役柄を確立させたが、おもに江戸の荒事に対する上方(かみがた)歌舞伎の特色として発達、近年まで伝わってきた。『廓文章(くるわぶんしょう)』の伊左衛門、『河庄(かわしょう)』の治兵衛、『封印切(ふういんきり)』の忠兵衛などが代表的な役。なお、『双蝶々(ふたつちょうちょう)』の与五郎のようなとくに柔弱な役は、突けば転ぶという意味から俗に「つっころばし」とよばれ、ほかに和事・実事の中間を意味する「和実」、若干強みのある役をいう「ぴんとこな」などの名称がある。
[松井俊諭]
歌舞伎の演技術およびその演技術を用いる場面や演目をさす。元禄期の名優坂田藤十郎らによって創始されたが,当初は濡事(ぬれごと)・やつし事とよばれた。廓(くるわ)で遊女と痴話(ちわ)喧嘩をしたり戯れたりする演技が原型で,没落した若殿がかつての馴染みの遊女にあう場面が多い。享保期に至り,その演技の質を表現して和らか事,さらに和事の名称が成立。和事は色男の役だが,喜劇的な側面が不可欠で,若旦那の「突っころばし」なども和事から派生した演技・役柄である。元禄期には江戸にも中村七三郎のような和事の名人がいたが,もっぱら上方の和事が伝承されたことから,一般に江戸の荒事と対比されるようになった。
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…江戸では,初世市川団十郎が創始したとされる荒事(あらごと)が,武士階級を中心に形成された新興都市の荒々しい気風に合致して喜ばれ,非常な人気を獲得した。一方,京都では,初世坂田藤十郎を代表として,初期歌舞伎の傾城買の狂言の伝統を受け継ぐ和事(わごと)の演技様式が確立する。この時代の狂言のおおよその内容は,こんにちに残された狂言本と役者評判記によって知ることが可能である。…
…歌舞伎の芸のかたち,およびその役柄。本来は〈和事(わごと)〉または〈やつし〉と呼び,優美な男性が色恋を演じる芸のかたちである。白粉(おしろい)を塗っている色男の役で,この役柄の中に,〈つっころばし〉というコミカルな味わいのより濃い役柄(たとえば《双蝶々曲輪日記》の与五郎)も含まれる。…
※「和事」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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