商慣習法とは商事(企業関係)に関する慣習法であって,商法の重要な法源をなすものである。
商法は沿革的には,企業関係の需要に応じて断片的な商慣習法として発達してきたものであるが,近代に入って商取引がいっそう活発になり,また中央集権国家が成立するや,漸次制定法化されるに至ったものである。しかし,商法の規律の対象である企業生活は,利潤を求める商人の合理的精神により絶えず新しい創意工夫が求められ,進歩発展してやまない。ここに商事に関する成文法をもつに至った後にも,経済の新しい需要に応じて成文法を補うものとしての商慣習ないし商慣習法が不断に発生してくる理由がある。このように商慣習法は沿革的にも,また現在においても,商法の法源として重要な意味を有する。商法第1条によれば,商事についてはまず商法典を適用し,商法典に規定がないときは商慣習法を適用し,商慣習法もないときは民法を適用することとなっている。
このように商慣習法は法典の不備を補充しあるいは法典を改廃していく基礎をつくっている。日本の裁判所が確認した顕著な例としては,白紙委任状付記名株式の譲渡,株式払込金領収証の流通,白地手形,再保険の場合における代位権行使に関する商慣習法等があり,とくに海商法の,領域においては世界的に妥当する多くの商慣習法の発生をみている。
商慣習法は慣習法として〈事実たる慣習〉としての商慣習とは異なる。事実たる商慣習は単に意思表示の材料である事実上の慣行にすぎないので,当事者がこれによる意思を有するものと認められる場合にのみ考慮されるのに対し,商慣習法は法規範たる性質を有するものであるから,当然にその適用がなされる。事実たる商慣習は法的確信が加わるとき,つまり民衆の慣行(くり返し)によって規範として確定されたときに,その慣習は慣習法となる。しかし実際には,私的自治の認められる範囲内では,諸般の事情からみて慣習に従うのがもっともだと認められるときは,当事者がとくに排除しないかぎり,事実たる慣習も任意法規に優先して当事者の意思解釈の基準とされる。商慣習法も法であるから,商法の強行法規に反しても成立することができるし,裁判所が商慣習法に違反して判決がなされたときは,法の解釈を誤ったものとして上告理由となる。
→慣習法 →事実たる慣習
執筆者:菅原 菊志
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
商事に関する慣習(事実たる商慣習)がその取引界で法的確信に達し、法としての効力を認められたもの。事実たる商慣習は、意思表示の解釈につき一つの材料となる事実上の慣行にすぎず、任意規定と異なる慣習がある場合に、法律行為の当事者がこれによる意思を有するものと認められる場合に、この慣習が拘束力をもつにすぎない(民法92条)。これに対し、商慣習法は法としての性質を有し、法律行為の当事者がこれによる意思を有すると否とにかかわらず拘束力をもつ。商法はもともと慣習法の形で発達し、それが成文化されたものであるが、商事現象が複雑化し、進展するに伴って、成文法だけでは処理できなくなり、また、成文法は弾力性を欠き固定性を有するために、法と実際の経済活動との間に断層ができ、企業の発展を阻害するという欠陥を生ずる。これを埋める意味で、商慣習法が商法の法源として重要な地位を占める。
商慣習法は、原則として商法典その他の商事制定法に規定がない場合に、その適用が認められるが、民法典その他の民事制定法には優先して適用され(商法1条2項)、後者については制定法優先主義(法例2条)の例外とされている。しかし、商事制定法に対する商慣習法の改廃力を認め、強行規定たると任意規定たるとにかかわりなく、商法の規定に反する商慣習法の成立を認める説が有力である。事実、判例で、商法の強行規定を変更した商慣習法を認めた例が多くみられる。
[戸田修三]
『大隅健一郎著『商事法研究 上』(1992・有斐閣)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新