国営企業労働関係法(読み)コクエイキギョウロウドウカンケイホウ

デジタル大辞泉 「国営企業労働関係法」の意味・読み・例文・類語

こくえいきぎょう‐ろうどうかんけいほう〔コクエイキゲフラウドウクワンケイハフ〕【国営企業労働関係法】

国営企業の職員の労働条件に関する苦情または紛争の平和的解決を目ざし、団体交渉の慣行と手続きを確立することで、国営企業の正常な運営を確保する法律。昭和61年(1986)公共企業体等労働関係法を改正して成立。平成11年(1999)「国営企業及び特定独立行政法人の労働関係に関する法律」に、平成14年(2002)「特定独立行政法人等の労働関係に関する法律」に改題。国労法。

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精選版 日本国語大辞典 「国営企業労働関係法」の意味・読み・例文・類語

こくえいきぎょう‐ろうどうかんけいほうコクエイキゲフラウドウクヮンケイハフ【国営企業労働関係法】

  1. 〘 名詞 〙 国営企業(郵便事業国有林野事業・印刷事業・造幣事業の四現業)の職員の労働関係について規定した法律。昭和六一年(一九八六公共企業体等労働関係法を改正して成立。国労法。現在は「特定独立行政法人の労働関係に関する法律」に引き継がれている。

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改訂新版 世界大百科事典 「国営企業労働関係法」の意味・わかりやすい解説

国営企業労働関係法 (こくえいきぎょうろうどうかんけいほう)

国営企業の労使関係を規律する法であって,国企労法と略称する。国営企業とは,(1)郵便,郵便貯金,郵便為替,郵便振替および簡易生命保険の事業,(2)国有林野事業,(3)日本銀行券,紙幣,国債,印紙,郵便切手,郵便はがき等の印刷事業,(4)造幣事業の4事業を行う国の経営する企業をいう。このうち(1)は郵政事業と略称する。国営企業は国の現業部門である。国営企業に勤務する職員は,一般職の国家公務員である。国企労法は,国営企業の職員の労働条件に関する苦情または紛争の友好的かつ平和的調整を図るように団体交渉の慣行と手続とを確立することにより,国営企業の正常な運営を最大限に確保し,公共の福祉を増進し,擁護することを目的としている。この目的に沿って,この法律の定める手続に関与する関係者は,経済的紛争をできるだけ防止し,かつ主張の不一致を友好的に調整するために,最大限の努力を尽くさなければならないとされている。

第2次世界大戦後の官公労働運動は,当初は,労働三法(労働基準法労働組合法労働関係調整法)の適用の下にあった。公務員にも団結権が存在していた。争議権も,警官,消防士,刑務官,非現業職員や裁判官などを除き,現業職員には認められ(労働関係調整法旧38条),労働協約の締結を伴う団体交渉権(団交権)も認められていた。ここにいう現業の概念は,現在の四現業とは異なり,その後の三公社や官庁の研究所などの機能をも含む広い意味のものであった。この労働基本権の状況は,鉄道事業,郵政事業などの領域に組織された現業官庁労組を,戦後の労働攻勢の主力部隊へと押し上げた。

 二・一ストの失敗の翌年の1948年7月の労働攻勢は,現業官庁労組の主導により,全国的なゼネストへと展開させられることになっていた。7月22日の芦田均首相宛マッカーサー元帥書簡は,公務員は全体の奉仕者であり,争議行為を行うことができないこと,争議行為の圧力を伴う団体交渉はできないこと,鉄道および専売の事業を公務から除外して,公共企業体public corporationを創設すべきことを述べていた。これに基づき政府は,政令201号を発し,公務員は争議行為を伴う拘束的な団体交渉権を有しないとし,争議行為を禁止した。その結果,現業部門の労働協約は失効させられた。

 1948年に制定された公共企業体労働関係法は,公社とされた二つの公共企業体,国鉄および専売公社の労働関係を規律することを目的としていた。52年の法改正は,新たに公社とされた電電公社五現業(上記の4事業とアルコール専売事業)とを規律の対象に加えることとし,法律の名称も公共企業体等労働関係法となった(公労法と略称する)。こうして,公務員でない三公社の職員と公務員たる五現業の職員の労使関係が,公労法の下に統一的に規律されることとなったが,本法の制定には国家公務員法の改正をも伴った。

 公労法により,政令201号で失った団体交渉権と労働協約締結権とが回復されるとともに,争議行為が禁止された。三公社五現業の労使関係を統一的に公労法の規律の下に置いた理由は,三公社の行う事業の公共性と独占性とから生ずる職務の継続性の要請が,三公社の労働関係を民間の労働関係から区別され,五現業の事業は一般行政事務には関係がなく,むしろ三公社の事業に似ているという点にあった。

 公労法による争議行為の禁止は憲法28条に違反するとの主張が強固なものとなり,特に三公社五現業の職員の労働組合によるスト権の奪還は長年の闘争目標となった。ストライキ-処分-処分撤回闘争と循環する労使対立が顕著となった。官公労組による裁判闘争とILO闘争が展開された。最高裁はストライキの禁止は公共の福祉のための措置で合憲としていたが,禁止されていないストライキもあるとの立場を打ち出したこともある。しかし,最高裁は,再びストライキ禁止規定を全面的に合憲であるとした。

 スト権付与の是非をも検討してきた公務員制度審議会は,1973年答申で統一見解を提示することができなかった。75年のスト権スト(スト権奪還闘争)は,三木武夫内閣を条件付スト権付与論(スト予告,争点の公表,調停および仲裁の手続とその間のスト禁止,内閣総理大臣のストップ令などの条件の下でのストライキ権の付与)へと傾斜させ,三公社の労使もまたこの論を支持した。閣僚協の75年意見書は,公社の民営化と国鉄分割をスト権付与の条件であるとした。その後,第2臨時行政調査会(第2臨調)での議論も,莫大な国鉄の赤字を考慮し,鉄道組織を維持するための民営化論へと論点を変えていった。五現業の一つアルコール専売は,国の総合的なエネルギー政策の観点から,84年に資源エネルギー庁へと吸収された。この時点で,公労法は三公社四現業の労使関係を規律する法となった。85年から87年にかけて,公社民営化法により三公社が民営化された。電電公社と専売公社は,民営され,それぞれNTT,JTとなった。国鉄は分割民営され,JR東海などの6会社,新幹線保有機構,貨車輸送会社となり,国鉄清算事業団が組織された。旧国鉄債務は,1997年現在で約28兆円であり,株式上場利益を考慮しても,解決のめどは立っていない。

 この過程の中で,民営化反対を唱えた国鉄労働組合の組合員に対する不当労働行為事件が続発し,現在でも最終的な決着を見ていない。旧三公社は,それぞれ民間会社となったため,その労使関係については労働組合法の適用を受けることとなった。その結果,1986年に公共企業体等労働関係法は国営企業労働関係法へと名称を変更され,国営企業たる四現業の労使関係のみを規律する法律となった。

国企労法の内容は次のとおりである。

(1)団結権 オープン・ショップ制である。労組法7条1号但書のユニオン・ショップの定めは,適用がない。中央労働委員会(以下委員会)は,職員のうち労組法2条1号に規定する者の範囲を認定,告示しなければならない。職員である者が組合の役員として組合業務にもっぱら従事する在籍専従(〈組合専従者〉の項目参照)は,原則として禁止され,国営企業の許可を要する。期間は職員としての在職期間を通じて,5年を超えることができない。在籍専従期間は休職となり,いかなる給与も支給されない。公労法時代には,解雇された者が組合の役員であるという理由で団体交渉を拒否されたことがあったほか,ヤミ専従の存在も指摘されたことがあった。

(2)団体交渉等 団体交渉の対象は,賃金その他の給与,労働時間,休憩,休日および休暇に関する事項,昇職,降職,転職,免職,休職,先任権および懲戒の基準に関する事項,労働に関する安全,衛生および災害補償に関する事項であり,管理運営事項を除く。公労法時代には,管理運営事項だという理由による団体交渉の拒否があった。管理運営事項であっても,労働条件に関係のあるものについては団体交渉の対象となる。国営企業および組合は交渉委員を指名し,その名簿を相手方に提示しなければならない。交渉委員の第三者委任は許されない。交渉委員の数,任期その他団体交渉の手続に必要な事項,苦情処理共同調整会議の組織その他苦情処理に関する事項も,団体交渉の対象となる。

 国営企業の予算上または資金上,不可能な資金の支出を内容とする協定は政府を拘束しないが,国会の審議権を擁護する趣旨である。政府は協定の内容を実現する政治的義務を負うこととなるほか,実現されない場合には契約としての効力が残ることになる。協定をしたときには,政府は,締結後10日以内に,事由を付し国会に付議(国会が閉会中であるときは,国会召集後5日以内に付議)して国会の承認を求めなければならない。国会の承認があったときには協定は,協定に記載された日付にさかのぼって効力を生ずる。

(3)争議行為 ストライキ等の争議行為および争議行為に対抗するためのロックアウトは,禁止されている。職員ならびに組合の組合員および役員は,ストライキ等の禁止行為を共謀,教唆,煽動してはならない。これらの禁止行為を行った職員は解雇される。争議行為に関するこれらの法的規律を違憲であるとする意見は,依然として多数説である。解雇制裁規定は,限定的に解釈されるべきである。労組法の民事免責規定は適用除外されているが,刑事免責規定は適用除外されていない。そのため,禁止違反の争議行為であっても,刑事面ではなお正当と評価されることができるかという特有な問題が生じた。争議行為の根本的な解決は,立法府の責任である。国営企業たることと争議権の保障は,財政民主主義および議会制民主主義の擁護を考慮しても,理論的にはなお両立することができる。解雇が不当労働行為に該当するときには,委員会は救済しなければならない。なお,公労法時代に,条件付きスト権付与の構想との関わりにおいて,当局側からロックアウトの解禁が求められたことがある。実務の面では,財政民主主義および勤務条件法定主義が強調されるようになり,争議行為の禁止と労働協約の規律がこれに服すると考えられるようになっている。

(4)紛争の調整 国営企業とその職員の間に生ずる紛争は,団体交渉により解決されるべきである。その行き詰まりを打開するため,委員会が紛争を調整する手続がある。あっせん(斡旋),調停および仲裁である。

 あっせんは,紛争の解決を手助けするもっとも簡易な手続であって,当事者の双方もしくは一方の申請または委員会の決議により行われる。あっせんは,あっせん員により行われる。あっせんに参与する者は,委員会の会長(以下会長)が指名する公労使の国営企業担当委員,調停委員候補者名簿に記載されている者のうちから会長が指名するあっせん員または委員会の同意を得て会長が委嘱するあっせん員であり,労組法により置かれる地方調整委員のうちから会長が指名する者が参与することもある。あっせん員は,双方の主張の要点を確かめ,事件が解決されるよう努めるべきであるが,解決の見込みがないときには,手を引くことになる。

 調停は,当事者の双方が申請したとき,当事者の一方が労働協約に基づいて申請したとき,当事者の一方の申請により,委員会が調停を行う必要があると決議したとき,委員会が職権により調停を行う必要があると決議したとき,主務大臣が調停の請求をしたときに行われる。調停は,国営企業担当の公益委員,使用者委員および労働者委員のうちから会長が指名した者(各側3名以内で,労使は同数)で組織する調停委員会が行うが,地方調整委員が調停委員に指名されることがあるほか,会長は,必要があると認められるときには,労働大臣があらかじめ委員会の同意を得て作成した調停委員候補者名簿に記載されている者のうちから,調停委員を委嘱することができるようになっている。調停委員会は,期日を定めて当事者の出頭を求め,その意見を聴取した後に調停案を作成し,これを当事者に示し,その受諾を勧告することができる。調停案は理由を付して公表することができ,公表についてはマスメディアに協力を要請することができる。紛争の早期の解決のために,世論の圧力を利用するのである。調停案の受諾後に,その解釈または履行について当事者に意見の不一致が生ずることもある。当事者は,調停案を提示した調停委員会に解釈または履行に関する見解を明らかにするよう申請しなければならず,調停委員会は申請のあった日から15日以内に見解を示さなければならない。

 仲裁は,当事者の双方が申請したとき,当事者の一方が労働協約に基づき申請したとき,あっせんまたは調停の開始後2ヵ月を経過しても紛争が持続しているときに,当事者の一方が申請したとき,委員会が,あっせんまたは調停を行っている事件について,仲裁を行う必要があると決議したとき,主務大臣が仲裁を請求したときに行われる。仲裁は,仲裁委員会が行う。仲裁委員会の示す裁定は,最終的なものとして当事者を拘束する。政府は,裁定が実施されるようできる限りの努力をしなければならない。国営企業の予算上または資金上,不可能な資金の支出を内容とする裁定の取扱いについては,団体交渉の妥結の内容が国営企業の予算上または資金上,不可能な資金の支出を内容とする場合と同じである。

 調停委員会も仲裁委員会も常設の委員会ではない。調停委員会および仲裁委員会は事件ごとの,その都度の委員会である。また,あっせんと調停は,外国においてはしばしば互換的であるが,調停が世論の圧力を利用して当事者に調停案の受諾を当事者に迫ることができる点において,区別されることができる。

行財政改革のなかで郵便,貯金および簡易保険(郵政三事業と略す)の業務の民営化が問題となっている。郵政三事業のうち,貯金および簡易保険により集められた資金は,第2の予算ともいわれる財政投融資の財源として,実質的に大蔵省の管轄に属してきた。郵政三事業の民営化の構想は行財政改革の一環として登場したが,他方,2001年に行うことになっている〈金融ビッグバン〉との関係において,郵政省による資金の自主運用の要求が高まる一方,政府が実質的に巨大銀行を保持することの是非が問われ,郵政三事業を民営分割すべきであるとの意見も強力に主張されるようになった。郵政三事業の組織形態については,株式会社と独立行政法人(エージェンシー)の対立が顕著である。郵政三事業の完全民営化(株式会社化)が実現されるならば,郵政三事業は国企労法の規律から外れ,労組法の規律に服するようになる。独立行政法人化は,職員を公務員としつつ,郵政省からは独立の主体とするというものであって,公社または公団を連想させるであろう。職員を公務員とするといっても,業務の遂行については公務とみなすという意味なのか,一般職としての地位を維持するということなのか,はたまた特別な公務員の概念を捻り出すということなのか,現段階(1997年末)では不明であり,国企労法の規律に服させるのかどうかも明らかであるとはいえない。法的な議論は,まだ煮詰まっているとはいえないであろう。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「国営企業労働関係法」の意味・わかりやすい解説

国営企業労働関係法
こくえいきぎょうろうどうかんけいほう

国営企業の職員の労働条件に関する苦情または紛争の友好的かつ平和的調整を図るように団体交渉の慣行と手続とを確立することによって、国営企業の正常な運営を最大限に確保し、もって公共の福祉を増進し、擁護することを目的とする、とされていた法律。略称、国労法。1986年(昭和61)に公共企業体等労働関係法から改称された。さらに、2001年(平成13)「独立行政法人」制度の導入に伴い、国営企業・独立行政法人労働関係法(正式名称「国営企業及び特定独立行政法人の労働関係に関する法律」)と改められた。その後、改正や改称が行われ、2015年以降の法律名は「行政執行法人の労働関係に関する法律」となっている。

[編集部 2017年7月19日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「国営企業労働関係法」の意味・わかりやすい解説

国営企業労働関係法
こくえいきぎょうろうどうかんけいほう

昭和 23年法律 257号。かつては公共企業体等労働関係法 (公労法) と呼ばれ,三公社 (国鉄,電々公社,専売公社) および四現業 (郵便,国有林野,印刷,造幣) の労働関係を規律していたが,三公社が民営化され適用対象外となったのを受けて,1986年の改正で現在の名称に変更された。政府経営事業である四現業の職員は,身分上は国家公務員であるが,その職務の性質はより民間企業の労働者に近いため,この法律によって労働組合の結成承認と不当労働行為制度による保護,労働協約締結を含む団体交渉権など国家公務員法よりも柔軟な労使関係規制がなされている。同時に争議行為の禁止をはじめ,団体交渉の範囲の限定,予算上不可能な支出を内容とする労働協約の効力の制限・強制仲裁など,一般私企業にはみられない制約もある。公労法時代には独自の紛争処理機関として公共企業体等労働関係委員会 (公労委) が設けられていたが,現在では中央労働委員会に統合されている。

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百科事典マイペディア 「国営企業労働関係法」の意味・わかりやすい解説

国営企業労働関係法【こくえいきぎょうろうどうかんけいほう】

公共企業体等労働関係法

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世界大百科事典(旧版)内の国営企業労働関係法の言及

【スト権奪還闘争】より

…こうした状況のなかで総評は中期的展望に立った立法化闘争に戦術転換した。公務員国営企業労働関係法【氏原 正治郎】。…

【労働法】より

…1953公布),あるいはこれを禁止し特別の調整手続を設ける(公共企業体等労働関係法。1948公布,1986年〈国営企業労働関係法〉と改称)。日本の集団的労働関係法は,一方において産業別労働協約の最低労働基準としての役割が確立していた大陸国協約法を採り入れ,他方,企業レベル交渉における全国組合の主導権が確立しつつあったアメリカにおける団体交渉推進政策を導入したが,企業別組織を中心に展開する日本の労使は,法が設定するこれら労使対立を前提とした二つの制度のいずれも選択せず,利益の一致を目ざした話し合いとコンセンサスを核とする日本独特の制度を確立させるに至った。…

※「国営企業労働関係法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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