院政期~江戸時代に見られる古文書様式の一つ。上皇の仰(おおせ)を奉(うけたまわ)った側近がその意を体して発信する書札様文書。〈院の宣旨〉の略で,もともとは上皇の口頭命令ないしその内容を示す語であるが,転じて側近が院の宣旨を当事者に伝える文書を指すようになる。院宣の初見は《朝野群載》に載せる1093年(寛治7)ころの白河上皇院宣で,政務文書としては同院政期から多用され,14世紀末の後円融院政の終焉(しゆうえん)に至る。白河,鳥羽,後白河,後鳥羽院政の院宣は奉者がほとんど院司であり,内容的にも直接政務を決裁するものでなく,これをもって太政官や国司等の文書の発信を導き出すにすぎなかった。これに対し13世紀半ばにはじまる後嵯峨院政ころ以降の院宣は,従来の官符,官牒,官宣旨等にかわり,直接所領の寄進・安堵,相論裁許,国家租税の徴収・停止等の政務までを決裁するようになる。また奉者も院司の立場を超えた政務機関としての奉行がこれにあたった。奉行は政務を執る上皇が任意に任命し,上皇の政務を分担して奏聞・執行したが,奉行の奏事を上皇に取り次ぎ,上皇の仰を奉行に伝えるのは,伝奏である。院宣の内容と奉行には相関関係があり,例えば所領の寄進・安堵等の院宣は伝奏みずから奉行となり,国家租税の催免の院宣は弁官帯職者が奉ずる慣例である。この場合,前者のごとく恒久的権利の保障となる内容のときは日付に年号が加わり,後者のごとく臨時的,手続的効果しか期待できないときは月日のみで年号を書かない。また奉者が蔵人頭,蔵人を兼帯しているときは,料紙に宿紙(薄墨紙)が用いられる。後円融院政の終焉後,政務は上皇,天皇から足利義満に移るが,それとともに所領の安堵,相論裁許,租税の催免等は院宣,綸旨から,義満の御判御教書(みぎようしよ)以下の武家文書で決裁されるようになる。以後寺社への祈禱依頼,節会等宮廷行事の招集等手続的な用法に限られ,近世まで使用された。
→院庁下文(いんのちょうくだしぶみ)
執筆者:富田 正弘
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上皇に近侍する院司が,上皇の意向をうけて,自分を形式上の差出人として発給する奉書形式の文書。「東大寺要録」に収める928年(延長6)の「宇多院宣旨書」が院宣の初見とみられるが,文書として様式が整うのは院政期である。書式は本文中に「院宣かくのごとし」「院の御気色により」などの文言をいれて,院の意向をうけたものであることを示し,最後に月日の下に奉者の署名に「奉」字を添えて記し,末行に充所を記す。本来私状形式の文書であるが,院政時代に上皇の政治力が強くなるにしたがい,院宣の影響力も増大した。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
院司などが上皇、法皇の意を受けて発行する文書。したがって本文末尾に「院宣如此(かくのごとし)」「院御気色所候也(いんのごきしょくそうろうところなり)」あるいはただ「御気色所候也」というような文句を入れ、院の意向を伝えるものであることを示している。院宣は多く白紙に書かれるが、蔵人(くろうど)が院宣を奉ずる場合には宿紙(しゅくし)(薄墨紙(うすずみがみ))を用いたこともある。院宣は院政時代に始まり、鎌倉・室町時代を通じて、院政が行われている時期に多い。
[百瀬今朝雄]
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…天皇と摂政ないし関白とは,制度的にも慣習的にも密接な関係をもっていたのに対し,それらに拘束されない上皇の立場は,院政に専制的な色彩を与えた。政務はほぼ従前の機構と方式によって運営され,上皇はその背後にあって最終的な裁断と指示を与えたのであるが,その間に大きな機能を果たしたのが院宣である。院宣は上皇の側近が命を奉じて書く書状形式の文書で,内容にも用途にも制約がなかったが,院政は院宣によって国政機関を運用するところに成り立ったということもできる。…
…院庁から管下の機関に下す下文様の文書。院宣が天皇,太政官の政務や知行国主,受領の国務に口入する文書であり,直接の政務文書として用いられたのに対し,院庁下文は院領,院御願寺領,女院領および院分国の支配のために発信される。初行上段に差出書,下段に宛所を書く。…
…令外様文書は公式様文書に起源を有するもので,これもすべて楷書体で書かれている。(e)書札様文書 平安末期に院政が成立し,鎌倉中期以降それが本格化するとともに,本来は私信であった書札から出発した院宣・綸旨(りんじ)などの書札様文書が,やがて国政の最高の文書として用いられるようになる。それとともに公家・寺社の間にも御教書(みぎようしよ)が行われるようになり,武家においても関東・六波羅・鎮西の御教書が用いられた。…
※「院宣」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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