立てる(読み)タテル

デジタル大辞泉 「立てる」の意味・読み・例文・類語

た・てる【立てる】

[動タ下一][文]た・つ[タ下二]
ある場所にものを縦にして位置させる。
㋐起き立った状態にする。「書棚に本を―・てる」
㋑長いものを直立させて据える。「煙突を―・てる」「屏風びょうぶを―・てる」
㋒とがったものを刺し込む。「猫がつめを―・てる」
㋓突き上がった形のものをつくる。「けばを―・てる」「角を―・てる」
座ったり横になったりしているものを起こす。「片ひざを―・てる」「襟を―・てる」
ある現象や作用を目立たせたり生じさせたりする。
㋐煙や蒸気などを立ちのぼらせる。「湯気を―・てる」
㋑風・波などを起こす。「白波を―・てて走る」
人を差し向ける。出発させる。「使いを―・てる」
表明した決意で身を律する。「誓いを―・てる」「願を―・てる」
(「閉てる」とも書く)戸や障子をしめる。「ぴったりふすまを―・てる」

㋐ある立場や状況に置く。「間に人を―・てて交渉する」
㋑重要な役目・地位につかせる。「証人に―・てる」「候補に―・てる」
㋒高位につかせる。「后に―・てる」
度合いを強めて、明らかにする。
㋐はっきり耳目に認められるようにする。「足音を―・てる」
㋑世に知れ渡らせる。「浮き名を―・てる」
事物や状態を新たにつくり仕立てる。
㋐物事を新たにつくり示す。「新記録を―・てる」「学説を―・てる」
㋑目標などを考え定める。「見通しを―・てる」「対策を―・てる」
㋒縦目の線をつくり示す。「髪に櫛目を―・てる」
10
㋐盛んに気泡を生じさせる。「泡を―・てる」
㋑湯などを沸かす。「風呂を―・てる」
㋒(「点てる」とも書く)抹茶に湯を注いでまぜ合わせる。「お薄を―・てる」
11 感情を高ぶらせる。「腹を―・てる」
12 注意を向ける。「聞き耳を―・てる」
13 物事を好ましい形で成り立たせたり維持させたりする。
㋐目的にかなって使用価値のあるものとする。「役に―・てる」
㋑損なわずに保つ。「顔を―・てる」「暮らしを―・てる」
㋒世間に認められた存在とする。「文学で身を―・てる」
㋓すぐれたものとして尊重する。「年長者を―・てる」
㋔矛盾なく認められるようにする。道理・順序を正しくする。「筋道を―・てて話す」
14 (「経てる」とも書く)時を経過させる。月日を過ごす。
愛妻つまのことを思い悩んでわびしい月日を―・てて来た」〈近松秋江・青草〉
15 進行をとめて、そのままの状態におく。
「もとの位置に馬車を―・てて待っていた」〈大仏・地霊〉
16 鳥などを飛び立たせる。
朝狩あさがり五百いほつ鳥―・て夕狩に千鳥踏み―・て」〈・四〇一一〉
17 動詞の連用形に付いて、物事を盛んに行う意を表す。「書き―・てる」「騒ぎ―・てる」
[下接句]青筋を立てる頭から湯気を立てる異を立てる伺いを立てるを立てる顔を立てるかどを立てる聞き耳を立てる義理を立てる煙を立てる後家を立てる志を立てるじょうを立てる世間の口に戸は立てられぬ・茶を立てる・腹を立てる人の口には戸が立てられない人を立てる身を立てるみさおを立てる耳を立てる目に角を立てる目くじらを立てる
[類語](1立つ佇む立ち尽くす突っ立つ起立起こす起きる引き起こす起き上がる立ち上がる直立仁王立ち棒立ち/(6塞ぐ閉ざす閉める閉じる閉め切るふうずるさえぎはば遮断する封鎖する閉鎖する閉塞へいそくする

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精選版 日本国語大辞典 「立てる」の意味・読み・例文・類語

た・てる【立・建】

  1. 〘 他動詞 タ行下一段活用 〙
    [ 文語形 ]た・つ 〘 他動詞 タ行下二段活用 〙
  2. [ 一 ] 物、人などを、目立つように動かす。
    1. 煙、湯気などを上方にのぼらせる。また、花火をあげる。灯をともす。
      1. [初出の実例]「かまどには 火気(ほけ)ふき多弖(タテ)こしきには 蜘蛛の巣かきて」(出典:万葉集(8C後)五・八九二)
    2. 風、波などを起こす。
      1. [初出の実例]「明日香川七瀬の淀に住む鳥も心あれこそ波立(たて)ざらめ」(出典:万葉集(8C後)七・一三六六)
    3. 横になっているものを起こす。起きあがらせる。
      1. [初出の実例]「ヒザヲ tatçuru(タツル)」(出典:日葡辞書(1603‐04))
    4. ( からだを起こす意から ) 出発させる。ある所へ行かせる。
      1. [初出の実例]「大久米の ますらたけをを 先に多弖(タテ)(ゆき)とり負せ 山川を 磐根さくみて 踏みとほり」(出典:万葉集(8C後)二〇・四四六五)
      2. 「春日明神となづけたてまつりて、いまに藤氏の御氏神にて、公家、男女使たてさせ給ひ」(出典:大鏡(12C前)五)
    5. 人や動物を追いたてる。鳥を飛び立たせる。
      1. [初出の実例]「天なるや神楽良(ささら)の小野に茅草(ちがや)刈り草(かや)刈りばかに鶉を立(たつ)も」(出典:万葉集(8C後)一六・三八八七)
  3. [ 二 ] 作用、状態などを、はっきりわかるようにする。
    1. 音や声を高くひびかせる。
      1. [初出の実例]「高山の石本(いはもと)たきちゆく水の音には立(たて)じ恋ひて死ぬとも」(出典:万葉集(8C後)一一・二七一八)
    2. 人に知れわたるようにする。
      1. [初出の実例]「後の代の 語り継ぐべく 名を多都(タツ)べしも」(出典:万葉集(8C後)一九・四一六四)
    3. はっきりわかるようにあらわす。
      1. [初出の実例]「世の人の 多都流(タツル)言立(ことだて)」(出典:万葉集(8C後)一八・四一〇六)
      2. 「いみじうみえ聞えて、をかしき筋などたてたることはなう」(出典:枕草子(10C終)四九)
    4. 特に誓いや願いを神仏などに表わし示す。
      1. [初出の実例]「貴人(うまひと)の 多菟屡(タツル)言立(ことだて) うさゆづる 絶えば継がむに 並べてもがも」(出典:日本書紀(720)仁徳二二年正月・歌謡)
      2. 「此人々家にかへりて物をおもひ、いのりをし、願をたつ」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
    5. 注意や力を集中する。
      1. [初出の実例]「げすなどのほども、親などのかなしうする子は、目たて耳たてられて、いたはしうこそおぼゆれ」(出典:枕草子(10C終)二六七)
    6. ( 建 ) 建造物などを造る。また、国や都市、会社などを建設する。
      1. [初出の実例]「橘の下照る庭に殿(との)多弖(タテ)て酒みづきいますわが大君かも」(出典:万葉集(8C後)一八・四〇五九)
      2. 「神武天皇より景行天皇まで十二代は、大和国こほりごほりにみやこをたて」(出典:平家物語(13C前)五)
    7. 催す。
      1. [初出の実例]「其の後、毎年に此の墓に祭を立てて、国挙て崇めけり」(出典:今昔物語集(1120頃か)五)
      2. 「イチヲ tatçuru(タツル)」(出典:日葡辞書(1603‐04))
    8. 水を十分に熱して湯気やあわを生じさせる。湯や風呂をわかす。
      1. [初出の実例]「夕けぶり民のかまどにたつる湯のかけても誰か身を祈るらん」(出典:順徳院御集(1220頃か))
    9. ( 「腹を立てる」などの形で ) 怒りを外に表わす。立腹する。
      1. [初出の実例]「入道あまりに腹をたてて、教盛にはつひに対面もし給はず」(出典:平家物語(13C前)二)
    10. ある気持や状態を生じさせる。
      1. [初出の実例]「目に角をたててにらむ」(出典:咄本・昨日は今日の物語(1614‐24頃)下)
    11. ( 点 ) 粉などを液体に入れてかきまわし、味や香を発揮させる。かきまわして作る。転じて、抹茶を入れる。茶の湯を行なう。
      1. [初出の実例]「竈(かまど)の土を立(たて)て呑せ、吉き酢を呑せて」(出典:今昔物語集(1120頃か)二九)
      2. 「チャヲ tatçuru(タツル)〈略〉ミソヲ tatçuru(タツル)〈訳〉ミソを溶かす」(出典:日葡辞書(1603‐04))
    12. 匂いなどを放つ。
      1. [初出の実例]「猫の死骸は腐って、悪臭を立てるだらう」(出典:街の物語(1934)〈榊山潤〉)
  4. [ 三 ] 物や人を、縦にまっすぐな状態にする。また、ある位置や地位を占めさせる。
    1. 足などでからだをまっすぐに支えさせる。立たせる。
      1. [初出の実例]「鳰鳥(にほどり)葛飾早稲(かづしかわせ)を饗(にへ)すともその愛(かな)しきを外に多弖(タテ)めやも」(出典:万葉集(8C後)一四・三三八六)
    2. 下の面に垂直にすえたり、刺し込んだりする。
      1. [初出の実例]「その鼓(つづみ)臼に多弖(タテ)て」(出典:古事記(712)中・歌謡)
    3. 刀、矢、とげ、針など、細長いものをからだや物に刺す。
      1. [初出の実例]「熊谷あまりにいとほしくて、いづくに刀をたつべしともおぼえず」(出典:平家物語(13C前)九)
      2. 「アルトキ ヲウカメ ノドニ ヲウキナ ホネヲ tatete(タテテ)」(出典:天草本伊曾保(1593)鶴と、狼の事)
    4. 大きな物や重い物をすえる。
      1. [初出の実例]「淡路島 中に立(たて)置きて 白波を 伊予に廻(もとほ)し」(出典:万葉集(8C後)三・三八八)
    5. 乗物などを、ある場所にとめる。休むために、駕籠、輿などをおろす。また、途中で休息する。
      1. [初出の実例]「住吉(すみのえ)の名児の浜辺に馬立(たて)て玉拾ひしく常忘らえず」(出典:万葉集(8C後)七・一一五三)
      2. 「むかひにたてたりける車の」(出典:古今和歌集(905‐914)恋一・四七六・詞書)
    6. ある位置につける。ある立場に身を置かせる。また、重要な地位につける。
      1. [初出の実例]「人々〈略〉此の人を立(たてて)我が功と成さむと念ひて」(出典:続日本紀‐天平宝字八年(764)一〇月一四日・宣命)
      2. 「鍵屋の方でも辯護士を立てて」(出典:医師高間房一氏(1941)〈田畑修一郎〉四)
    7. ( 閉 ) 門、戸、襖、障子などをとざす。しめる。
      1. [初出の実例]「門立(たて)て戸もさしたるを何処(いづく)ゆか妹が入り来て夢に見えつる」(出典:万葉集(8C後)一二・三一一七)
    8. のこぎりの歯ややすり、臼(うす)の目などを鋭くする。
      1. [初出の実例]「角たてず丸く取りなす市ノ正」(出典:雑俳・柳多留‐一一四(1831))
    9. 花を活(い)ける。活花をさす。
      1. [初出の実例]「つくりたる八重桜の一間には余るばかりなるを、瑠璃の瓶にたてられたりしを」(出典:たまきはる(1219))
  5. [ 四 ] ある状態を保たせる。また、物事を成立させる。
    1. 使ったり仕事をしたりするのに十分な働きをさせる。
      1. [初出の実例]「いかな不才な者も、其時によりて、用に立つる也」(出典:中華若木詩抄(1520頃)中)
    2. 一段高いものとして大切にする。
      1. [初出の実例]「諸大将の被立たる秘蔵の名馬共を」(出典:太平記(14C後)一八)
      2. 「比田さん比田さんって、立てて置きさへすりゃ好いんだ」(出典:道草(1915)〈夏目漱石〉二七)
    3. 面目などを、そこなわないように保たせる。
      1. [初出の実例]「聟をもとめて此家をたつべし」(出典:浮世草子・世間娘容気(1717)三)
    4. 生活をしていけるようにする。
      1. [初出の実例]「算用に浮世を立る京ずまひ〈芭蕉〉 又沙汰なしにむすめ産(よろこぶ)〈野坡〉」(出典:俳諧・炭俵(1694)下)
    5. ある物事を専門・職業とする。
      1. [初出の実例]「吾立てし道なれば、人の上とも覚えず」(出典:平松家本平家(13C前)一)
    6. 物事をはっきりと成立させる。確立させる。また、心を定める。意志・決意などをつらぬく。
      1. [初出の実例]「中の品になん、人の心々おのがじしのたてたる趣も見えて」(出典:源氏物語(1001‐14頃)帚木)
      2. 「此の二人墓无(はかな)き田畠の事を諍て、各道理を立(たて)て」(出典:今昔物語集(1120頃か)二五)
      3. 「之が首領を撰び之が規則を立つるも皆な自ら行へり」(出典:日本開化小史(1877‐82)〈田口卯吉〉一)
    7. 賭け金を出す。金銭を張る。
      1. [初出の実例]「博奕をして遊びけるに、一立てに五貫十貫立ければ」(出典:太平記(14C後)三三)
    8. 金銭、年貢などをさし出す。支弁・弁償する。
      1. [初出の実例]「夏ねんぐは五月端午の日より六月晦日にたてきるべし。中のねんぐ六月一日たてべし」(出典:結城氏新法度(1556)一〇一条)
    9. 遊興費などを負担する。おごる。ふるまう。
      1. [初出の実例]「潔白を立てるといふはおらが小半酒(なから)を立てると同じことで」(出典:浄瑠璃・本朝二十四孝(1766)二)
    10. 遊興・散財する。
      1. [初出の実例]「青楼街を通りてはたてん事をおもふとかや」(出典:談義本・つれづれ睟か川(1783)五)
  6. [ 五 ] 時を経過させる。
    1. [初出の実例]「その月をたてて六月一日寅の時に」(出典:栄花物語(1028‐92頃)花山たづぬる中納言)
  7. [ 六 ] 補助動詞として用いる。動詞の連用形に付いて、さかんに…する、しきりに…するの意を表わす。
    1. [初出の実例]「大夫(ますらを)の呼び多天(タテ)しかばさを鹿の胸分け行かむ秋野萩原」(出典:万葉集(8C後)二〇・四三二〇)

たて・る【立】

  1. 〘 自動詞 ラ行四段活用 〙 立つ。
    1. [初出の実例]「某もたてらうやうがあってこそ、ああしないたるなりかなやれ」(出典:虎明本狂言・花子(室町末‐近世初))
    2. 「まづ君臣のみちなくては此世に一日もたてりがたし」(出典:仮名草子・清水物語(1638)下)

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