デジタル大辞泉 「巣」の意味・読み・例文・類語
そう【巣】[漢字項目]
[学習漢字]4年
〈ソウ〉
1 鳥のす。「営巣・
2 ある物が集まっている所。「精巣・病巣・卵巣」
3 隠れ家。「
〈す〉「巣箱/古巣」
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
動物が隠れたり、休息、交尾、産卵(子)、子育てなどをするために、かなり恒常的に使用する場所をいう。とくに鳥類で巣をつくる習性が発達している。これは、乾燥した陸上で卵生・抱卵という特異な繁殖形態を採用し、卵や雛(ひな)を外敵や悪天候から保護しなければならなかったことと関連があるだろう。
鳥類のほとんどの巣はこのように産卵・育雛(いくすう)のためのものであるが、それらは単なる既存の場所の利用から、動物自身がなんらかの手段でつくりあげる方向へ進化してきたものであろう。たとえば、古いタイプの非スズメ目の鳥の多くが、地上や岩棚や樹洞で巣材を使わないでそこを巣としたり、小枝や草の茎だけで単純な構造の巣をつくるものが多く、一方、スズメ目で造巣技術が多岐にわたり高度化していることは、先の仮説をよく裏づけている。
しかし、鳥類でも、旧世界のカッコウ類に代表される托卵(たくらん)性の鳥はまったく巣をつくらないし、腹と足で一卵を挟んで抱卵するコウテイペンギンやオウサマペンギンも巣をつくらない。さらに、オーストラリアやニュージーランドのニワシドリ類は交尾のためだけの場所として雄が飾りたてた巣をつくり、産卵・育雛のための巣は、雌が別につくる。
鳥の巣は水面(カイツブリなど)、地上(キジなど)から、地上30メートルもの高さまでつくられるが(ツバメなど)、大部分は地上1.8~2.4メートルの間にある。形は上部が開いた椀(わん)形(ホオジロなど)のものが代表的であるが、なかには朽ち木に穴を掘るもの(キツツキなど)、既存の樹洞に巣材を詰めるもの(シジュウカラなど)、土手に深い横穴を掘るもの(カワセミなど)、土や腐植質で塚をつくるもの(ツカツクリ)、つり巣をかけるもの(オオツリスドリなど)がある。
一般に鳥は産卵のたびごとに新しい巣をつくるが、これは、雛がすでに巣立った巣に残された病原菌や寄生虫を避けるためであろう。しかし、繁殖シーズンが短いなどの理由で旧巣を利用するものも少なくない。
哺乳(ほにゅう)類では、オランウータン、チンパンジーが樹上につくる寝場所(ベッド)も巣とよばれている。一般にかなり成熟した子を産む種(大形草食獣、ノウサギなど)は巣をつくらないが、未熟な子を産む種(肉食獣)は産室・育児室としての巣をつくる。リスは樹上に、ムササビ、モモンガは樹洞内に、カモノハシ、モグラ、ハタネズミ、アナグマ、アナウサギなどは地中のトンネル内に、ビーバー、マスクラットなどは水上に巣がつくられる。
両生類では、南米産のスゴモリガエルが浅い池などの水底に泥を使って巣をつくる。
魚類では、トゲウオ類の雄がイネ科の茎や根の切れ端で球形の鳥の巣に似た巣をつくり、雌がその中に産卵する。カワスズメ科のある魚は、雄が砂粒を運んで噴火口状の巣をつくり、そこで雌に産卵させる。こうした魚では、受精卵や稚魚は雌が口内で育てる。
昆虫では、アリ、ハチ、シロアリの巣がその階層化した社会性とともによく知られている。これらの巣は育房、貯蔵室、通路などを含み、トックリバチのとっくり形の巣のように、育児室だけの働きをもつ巣とはすこし構造が異なる。社会性ハチ類の巣は、女王が娘バチを働かせて大きくしていく場合と、血縁のない複数の雌(女王)たちが共同して創設し始める場合があり、後者は外敵の多い環境で進化したと考える人もいる。また、クモの巣は、クモがかけた網状のわなにすぎず、これまでみてきたような産卵(子)、育雛(子)に関する巣とは異なっている。
[山岸 哲]
鋳物に生じる孔状欠陥の総称。溶融金属が凝固するときには一般に大きな体積減少を伴うが、これを十分に補給しないと鋳物の内部に空洞を生ずる。これを収縮巣あるいは引け巣とよぶ。また溶融金属のガス吸収量は固体金属のそれよりも一般に大きいので凝固時にガスが放出されることがあり、これが鋳物の内部に閉じ込められると空洞を生じ、これを気泡巣とよぶ。これらの巣のない鋳物をつくることがたいせつである。
[井川克也]
一般には,動物がみずから造って産卵,抱卵,育児または休息,就眠に使用する構造物や穴をいう。このことばは本来鳥獣を対象として用いられたと思われるが,それ以外の動物についても拡張して用いられており,巣の概念はひじょうにあいまいである。典型的な巣は多くの小鳥やキツネなどに見られるもので,繁殖期にのみ使用される。鳥類の中には,天然の穴や樹洞や他種の動物が掘った穴をそのまま利用し,しかも巣穴内になんの材料も持ち込まないで産卵するものがある。つまり,みずからは何も造らない。これは厳密にいえば単なる巣穴であって巣ではないのだが,ふつうにはこの場合も巣と呼んでいる。その一方で,ツカツクリの〈塚〉やオトシブミの〈ゆりかご〉は,上記の条件を満たしているにもかかわらず,ふつう巣とは呼ばない。
多くの中・小型獣,とくに夜行性のものは,育児期以外にも一定の穴を隠れ場として使用するが,これもふつうには巣と呼ぶ(英語ではdenと呼んでnestと使い分ける)。繁殖期の巣がそのままこの意味の巣として使い続けられる場合もあって,ふつうにはこの区別はされないことが多い。ネズミのように同じ穴で継続して繁殖するものからモグラのように地中性のものに至ると,この区別は不可能になり,巣概念は拡張せざるをえなくなる。こうして拡張された概念はアリ,シロアリ,ミツバチなどにも適用されることになる(多くのハチの巣は繁殖用のものであるが)。このイメージはさらに干潟のカニや貝やゴカイの〈巣穴burrow〉にまで広げられている。
また,ゴリラやチンパンジーは毎日夕方に樹枝で就眠用の〈巣〉を造る(鳥についてはこのようなものは〈ねぐら〉または〈ねぐら穴〉と呼んで巣とはいわない)。このように,繁殖とは関係がなくとも,みずから造る構造物であれば巣と呼ぶことも一方では行われて,アリジゴクの巣,クモの巣web,トビケラの巣caseなどにまで概念が拡張されている。動物の中で手の込んだ顕著な巣を造るものは,哺乳類(カヤネズミ,ビーバーなど),鳥類(ハタオリドリが有名),魚類(トゲウオなど),昆虫類(シロアリ,ミツバチなど),クモ類などであるが,これらの動物が示す造巣行動(造巣技術nest-building)は古くから博物学者の注目を浴びてきた。近年になって動物行動学が改めてそれに注目してきている。彼らの造巣行動の中には,驚くほど込みいって精巧なものがあるが,そのほとんどすべてが遺伝的にプログラムされたもの(いわゆる本能的行動)であることが明らかにされている。
執筆者:浦本 昌紀
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