庭の意から転じて法廷,さらに特定の手続または内容の訴訟をいう。鎌倉末・南北朝期,朝廷の記録所や院の文殿(ふどの)に庭中と呼ぶ訴訟手続があり,暦応雑訴法の規定では,手続の過誤の救済を求めるものと思われる。鎌倉・室町両幕府法では,手続の過誤の救済を求める特別訴訟手続をいい,内容の過誤の救済を求める越訴(おつそ)=再審請求とは厳密に区別される。鎌倉幕府の場合,(1)関東では評定の座で訴える御前庭中と引付の座で訴える引付庭中とがあるが,いずれも口頭で訴える,(2)六波羅探題には庭中奉行があって,庭中申状を提出する,の二つの制度があった。御前というのは評定会議に執権連署が出席するからで,鎌倉殿の御前ということではない。庭中では原判決の記録を用意し,担当奉行と訴論人を召喚して対決させたようである。内容的には,提訴したのに奉行が手続を進行させず20日以上を経過した,相手方が一事両様の訴(同一案件の二重訴訟)を提起した,当事者にあてるべき召文を最初から使節あてにした,などの事例があるが,庭中は関東では口頭だから,もともと史料の残る可能性が少なく,不明の点が多い。
室町幕府の場合は庭中方が設けられ,庭中方管領が責任者である。一般的な手続過誤のほか,(1)賦(くばり)奉行が訴状を受け取りながら所定の手続をとらず,他の奉行に訴えたがなお進行しない(訴が裁判所に係属しない)場合,庭中方管領から担当奉行に命じて手続を進行させる,(2)寺社本所領に関する訴訟で,幕府の執行命令が20日以上停滞した場合,庭中方管領から担当引付方に厳重に督促する,という制度であった。なお室町幕府では正式の手続をとらない将軍への直訴を庭中ということがあり,原則として禁止されていた。16世紀ころには,庭中と越訴の厳密な区別は失われ,ともに正規の手続を経ない権力者への直訴を意味するようになり,《日葡辞書》では主君を路上に待ちうけて請願書を提出すること,と説明している。
執筆者:羽下 徳彦
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中世の法律用語で、元は法廷を意味する語。(1)朝廷の場合、親政下では記録所、院政下では文殿(ふどの)の法廷、またそこで行われた訴訟手続をいう。鎌倉末・南北朝期の朝廷での一般訴訟は、記録所・文殿のいずれでも、庭中とよばれる手続によった。(2)鎌倉幕府では、裁判の手続の不備を理由とする過誤救済制度をいう。たとえば奉行人(ぶぎょうにん)(訴訟事務担当者)の不正、証拠書類の紛失などの場合に行われたが、これは判決内容の過誤を理由とする覆勘(ふくかん)、越訴(おっそ)とは区別される。庭中には評定(ひょうじょう)の座に訴える御前(ごぜん)庭中と、引付(ひきつけ)の座に訴える引付庭中とがあり、六波羅(ろくはら)探題には庭中奉行があった。また室町幕府では初期に庭中方という部局があった。(3)16世紀には、正当な手続によらず主君を路上に待ち受けて請願書を提出する行為(日葡(にっぽ)辞書)とされている。
[羽下徳彦]
…寺院の衆徒の僉議(せんぎ)も庭で行われ,鎌倉幕府,室町幕府にも大庭と呼ばれた訴訟の場があったのである。当時,裁判手続上の誤り,奉行人の偏頗な審理のしかたを訴えることを庭中(ていちゆう)といったのも,この庭と関係がある。それは一種の直訴(じきそ)制度で,奉行人,代官などを経ずに,直接,裁判権者(将軍,大名など)に訴える点に特徴があり,1458年(長禄2),〈無縁の仁に於ては庭中すべきの由〉ともいわれている。…
※「庭中」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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