(読み)にわ

精選版 日本国語大辞典 「庭」の意味・読み・例文・類語

にわ には【庭】

〘名〙
① 何かを行なうための場所。何かの行事の行なわれるその場所。「かりにわ(狩庭)」「さにわ(清庭)」などと熟して用いることが多い。現代語の場(ば)にあたる。
※書紀(720)神武四年二月「乃ち霊畤(祭の庭)を鳥見の山の中に立つ。〈略〉用て皇祖の天神を祭りたまふ」
※平家(13C前)四「僉議の庭にすすみいでて申けるは」
② 水面。海面。
※万葉(8C後)三・二五六「飼飯(けひ)の海の庭(には)よくあらし苅薦(かりこも)の乱れて出づ見ゆ海人の釣船」
③ 家屋の周りの空地。のち、草木を植え、築山、泉水をしつらえた所をさしていう。庭園。前栽。
※書紀(720)雄略即位前・歌謡「臣(おみ)の子は 栲(たへ)の袴を 七重をし 儞播(ニハ)に立たして 足結(あよひ) 撫だすも」
④ 土間(どま)。家の入り口、台所、店先などの土間。
※浮世草子・好色二代男(1684)六「庭(ニハ)に追おうして、下女のごとくに遣へども」
[語誌](1)家などの生活空間の周辺にあって、狩猟、農事などを行なう地域を表わすのが原義。語源は諸説あるが、「ニ(土。丹と同根)+ハ(場)」が考えられる。
(2)②の挙例の「万葉」の海面を指す用例も、眼前の一部の海面であり、海人にとっての生活の場・作業場・漁場としての意味と解される。
(3)屋前の平坦地から邸内の平坦地に変化して現代語の「庭」の意味となり、さらにその範囲を狭めて、家の中の土の面であり、ある種の作業場でもある④の意を生んだ。

てい【庭】

〘名〙
① にわ。建物に囲まれたあき地。屋敷内のあき地。
色葉字類抄(1177‐81)「庭 テイ ニハ」 〔儀礼‐燕礼〕
② 朝廷。宮中。役所。また、その一室。〔張衡‐東京賦〕

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デジタル大辞泉 「庭」の意味・読み・例文・類語

にわ〔には〕【庭】

屋敷内で、ある広さをもって空けてある地面。草木を植えたり、泉水や築山を設けたりする。「手入れ」「を造る」「をいじる」
物事の行われる場所。神事・行事などの行われる場所。「学びの」「いくさの」「祭りの
家の中の土間。
波の平らな海面。
武庫むこの海の―良くあらしいざりする海人の釣舟波の上ゆ見ゆ」〈・三六〇九〉
[下接語]石庭内庭裏庭奥庭教えの庭こけ小庭裁きの庭戦いの庭造り庭坪庭中庭箱庭平庭広庭学びの庭露地庭
[類語]庭園ガーデン名園林泉庭先外庭内庭中庭坪庭前庭まえにわ前庭ぜんてい裏庭石庭箱庭御苑神苑内苑外苑花園梅園花壇前栽築山

てい【庭】[漢字項目]

[音]テイ(漢) [訓]にわ
学習漢字]3年
〈テイ〉
にわ。「庭園庭前径庭校庭石庭
家族の中。「庭訓ていきん家庭
宮廷。禁中。「掖庭えきてい禁庭
〈にわ〉「庭石庭先裏庭中庭箱庭
[名のり]なお・ば

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「庭」の意味・わかりやすい解説


にわ

古くは家屋の前後にある空地、転じて祭祀(さいし)の行われる場をさした。いまでは築山(つきやま)泉水ないしは植え込みを設けて観賞の目的とする空間の呼称となっている。

 農家では、入口の土間の部分をニワという。ドマあるいはウスニワ、ドジ、トオリなどとよぶこともある。唐臼(からうす)を設置し、穀物の調製をしたり、藁(わら)打ち石をその一隅に埋めて、工作用の藁を打って藁工品の製作をしたりする一種の作業場でもある。居住部分からの延長として、一部を板張りとし、炊事場や食事場、ないしは養蚕期の桑葉の整理場とする。イタニワとよぶこともあり、いろりを装置することもある。かまどを置いて床上から焚(た)くようにしたりもする。土間の一隅を火焚き場とし、炊事用のかまどや地炉を設けない地方もある。内井戸を設け、流しやかまど(くど、へっつい)を備え、炊事場や食事場に利用する地方もある。このようにニワを用途によって区別する場合、中間に格子戸を建てたり、通路だけを残して板の間を張り出すこともある。厩(うまや)は主屋(おもや)内にニワに面してつくる地方と、屋外に向けてつくる地方とがある。厩に隣接して便所や風呂(ふろ)場を設け、また入口のわきに小便壺(つぼ)だけを埋めておくこともある。ニワの上足部とは反対側に小部屋を設けて、雇い人や若夫婦の寝所に使うこともある。

 主屋の前の空き地もニワとかソトニワ、ホシニワなどと称し、屋内のウチニワと区別してよぶこともある。穀物の干し場や脱穀調製などの屋外作業をし、堆(にお)(稲むら)を積んだり、苗床をつくるのに利用する。地主階層の家になると、座敷の外に築山泉水の庭園をつくる。ソトニワとの間は、垣や土塀で仕切り、適当なところに木戸を設ける。この門を中門(ちゅうもん)とよぶ。内側の庭園を前栽(せんざい)とか露地(ろじ)とよぶ。

[竹内芳太郎]

庭のつくり方

一般住宅で庭をつくる場合のポイントは以下のとおりである。

 まず、初めにしっかりとした計画をたて、これに従って年々庭を整えていくことがたいせつである。あまり広くない庭では、なるべく単純な図案にとどめ、要所要所に立体的なものや小工作物を置き、調和する色調でまとめたほうがよい。次に、図面をもとに地割をする。敷地の中の住宅を除いた部分が庭だが、これを前庭、主庭、勝手回りの庭、側庭、中庭とそれぞれの部分に分割することを地割という。庭の地割は、建物の間取りの延長とみられるから、建物の間取りを決める際、庭の設計者もこれに立ち会うのが望ましい。

 庭の地割が済んだら、地面の形づくりに入る。以下の作業手順に従って庭づくりを行う。

 (1)盛り土、掘り下げ。(2)材料を運び込む。(3)置き石、灯籠(とうろう)などの添景物の配置。(4)池の護岸作業。(5)庭木の植え込み。(6)池の防水、コンクリート工事。(7)芝生コケの植え込み。(8)垣根づくり。

 このような庭づくりを庭師に依頼する場合は、下調べを慎重にする庭師を選ぶことがたいせつである。庭づくりで最初に考えなければならないのは排水である。とくに郊外の宅地は、田んぼや沼地を造成したものが多く、しばしば水はけの悪さが問題になる。このような条件を克服するには、盛り土が効果的である。庭全体に20~30センチメートルくらいの高さに良質の土を盛り、庭のどちらか一方に傾斜をつけるようにし、低いほうにU字溝などを設けるとよい。

 庭は部分によってまとめ方が異なる。

[中村 仁・三橋一也]

前庭

門から玄関までの通路としての実用性と、第一印象をたいせつにする風趣性とを同時に満たすことが求められる。門を玄関の正面からやや斜めにずらす、あるいは玄関と直角の側に門をつくるなどのくふうで、奥ゆかしい感じの前庭になる。

[中村 仁・三橋一也]

主庭

建物の南か東側になることが多く、面積がいちばん広く、庭のなかではもっともたいせつなところである。なによりも、十分な日光と空気を与えられるようくふうしたい。

[中村 仁・三橋一也]

勝手回りの庭

台所に接する実用的な庭だが、物置やごみ箱、物干し場などが集まっているため、狭くても使うのに便利で、いつも清潔にしておけるよう注意する必要がある。

[中村 仁・三橋一也]

側庭

前庭から勝手回りの庭や主庭へと、庭の各部分を結んでお互いの連絡をつける庭である。幅のない狭いスペースだけに左右の壁や垣根が重要な要素となる。

[中村 仁・三橋一也]

中庭

周りが建物に囲まれているため、日照や風通しの面で、植物の生育には好ましくない庭である。壁や窓、障子、垣根などで趣(おもむき)を出すだけでも庭として眺められる。

[中村 仁・三橋一也]

屋上の庭

地盤が平らで眺望もよく、十分な日光と風通しが得られるが、自然味に乏しい欠点がある。したがって、眺めをできるだけ生かし、床を敷石で模様どったり、灯籠、花壇、噴水、彫刻、鉢、壺(つぼ)などを配置し変化をつけたほうがよい。

[中村 仁・三橋一也]


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改訂新版 世界大百科事典 「庭」の意味・わかりやすい解説

庭 (にわ)

人が何かを行うための広い場所。広場。狩庭(かりば)/(かりにわ),網庭,稲庭,草庭,塩庭など,狩猟,漁労,稲作,草刈り,製塩などを行う場所,軍庭(いくさば),市庭(いちば),売庭(うりば),乞庭(こつば),舞庭(まいば),さらに〈祭りの庭〉や〈講の庭〉のように戦闘,交易,芸能,仏神事の行われる場所は,みな庭であった。自然のある部分を庭にする場合,後年のことであるが,関料(せきりよう)の一種〈庭銭(にわせん)〉が初穂であったことからみて,人はあるいは初穂をささげ,また狩りや市の祭文(さいもん)にみられるように,神事を行ったのである。

 集会や裁判の行われる共同体の広場も庭であったが,日本の場合,それは早くから首長の宅と結びつき,その管理下におかれていた。天皇の前に官人,百姓などが列立した〈朝庭(ちようてい)〉はこうした庭であり,平安時代,官庭,国庭,公庭(底の字が用いられることも多い)などの語によって知られるように,太政官,国衙などの公的機関にも,訴訟のさいの対決,裁判の行われる庭が存在した。寺院の衆徒の僉議(せんぎ)も庭で行われ,鎌倉幕府,室町幕府にも大庭と呼ばれた訴訟の場があったのである。当時,裁判手続上の誤り,奉行人の偏頗な審理のしかたを訴えることを庭中(ていちゆう)といったのも,この庭と関係がある。それは一種の直訴(じきそ)制度で,奉行人,代官などを経ずに,直接,裁判権者(将軍,大名など)に訴える点に特徴があり,1458年(長禄2),〈無縁の仁に於ては庭中すべきの由〉ともいわれている。室町時代,天皇家,将軍家に直属して作庭,造園に携わり〈禁裏御庭者(庭者)〉〈仙洞御庭者〉〈公方御庭者〉といわれた河原者,江戸時代,将軍直属の密偵,隠密で,幕府の諸機関を通さず,後庭から出入りして直接将軍の命をうけた御庭番(おにわばん)のあり方も,こうした庭の特質と関係がある。

 現在でも農作業を行う平らな場としての〈庭〉は,広く民俗語彙の中に残っており,脱穀,調整をする家の外の仕事場,家の中の土間を庭というが,なかには共同作業を行う組織そのものを意味している場合もある。このように,家の中および周囲にとりこまれてからも,庭は共同の広場の特質をまったく失ってはいないのである。
庭園
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「庭」の意味・わかりやすい解説


にわ

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【組】より

… 村組は一般に組と呼ばれるが,同時に全国各地にさまざまな村組を示す名称が分布している。主要なものを示せば,東北地方のヤシキ(屋敷),北関東のツボ(坪),南関東のニワ(庭),ニワバ(庭場),サト(里),中部地方のコウチ(耕地),近畿地方を中心に広く分布するカイト(垣内,垣外,貝戸,海戸等),中国・四国地方のドイ(土居),ホウジ(榜示),北九州のコガ(空閑),南九州のカド(門),沖縄本島北部のバーリ,同島南部のダカリなどである。これらのうち,東北地方,関東地方あるいは九州に分布する屋敷,坪,庭,門などの名称は,他方では個別の家においてその居住空間やその一部を示すものとして一般的に使用されている語である。…

【庭園】より

…広く美観,慰楽,実用の目的で,ある敷地内で建造物以外に計画された区域をさし,通常,泉水や水路,池を設け,植栽などが施される。
【日本】
 庭園という言葉は新しいもので,もともと庭と園は別の意味をもっていた。〈(にわ)〉は仕事や行事をするための場所をいい,平坦な土地を指した。…

【土間】より

…住宅などの建築で,床板(ゆかいた)を張らず,地面がそのまま床になっている部屋の総称。土間という呼称が用いられだした時期はわからないが,1600年ころには,台所の土床の部分を土間と呼んでいる。庶民住宅では,奈良時代までは床を張らず,土の上に草や籾(もみ)を敷き,その上に筵(むしろ)を敷いて生活した。北陸地方から東北地方では,18世紀まで土床の住いが多くあり,〈土間ずまい〉とも呼ばれている。江戸時代の住宅では,台所に広い土間がとられ,竈(かまど)や流しを設け下働きの人々の作業場になっていた。…

【露地(路地)】より

…おおいのない土地・地面のこと。また家と家との間の狭い道,敷地内に設けられた狭い通路,のことであるが,山梨県南巨摩郡,愛知県北設楽郡,飛驒の民家では屋内の土間,北陸,北信,奥羽地方の民家では庭,京都では町屋内の庭園,東北・北陸地方では庭園,大阪府,和歌山県,香川県の民家では裏木戸門,関西地方で路地の奥にある裏長屋を意味する。いっぽう茶道では茶室(座敷)に至る通路が,庭園として整備されたのちも露地と呼ばれる。…

※「庭」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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