金属材料などの物体に引張応力を加えた場合,材料によっては弾性限度を超えるとすぐに破壊に至るものもあれば,塑性的に引き延ばされ,いわゆる塑性変形を生じた後,破壊に至るものもある。この塑性的に引き延ばされる性質のことを延性という。一般には,延性とは定量的な言葉ではなく,破壊を生じさせるのに要するひずみの目安である。すなわち,物体が破壊することなく塑性的に変形しうる性質のうち,引張応力による変形に注目したものが延性であり,圧縮応力によって板状,あるいは箔状に広げられる性質に対する言葉として展性malleabilityが用いられる。それゆえ,この両者は塑性変形しうる性質という意味で本質的にはなんら相違はないが,変形様式の違いに注目して使い分けられている。延性が工学的に重要であるのは,延性のある金属を機械,構造物などに利用すると局部的にかかった応力を分散させ,破壊させにくくすることによる。延性を定量的に示す場合には,材料の引張試験で,伸び率(伸び)または断面収縮率(絞り)を測定し,これによって表すことが行われているが絶対的なものではない。平行部とつかみ部とからなる棒状あるいは短冊状の引張試験片をつくり,平行部にあらかじめ標点距離を定め,試験機で引張り,破断させる。破断後,試験片の中心線が一直線となるように破断面でつき合わせ,標点間の長さを測定する。そのときの標点間距離の増加分を引張前の標点間距離で割ったものを%で表したものが伸び率である。すなわち,引張前の標点間距離をl0,破断後のそれをl1とした場合に,伸び率εは,{(l1-l0)/l0}×100で表される。これに対し,試験前後の断面積変化に注目したものが断面収縮率である。引張りによって試験片が伸長すると断面積は減少する。引張前の平行部の断面積をA0,破断後のそれをA1としたとき,断面収縮率ψは{(A0-A1)/A0}×100で表される。また,引張試験の場合,試験片の平行部全体が均一に伸びるのではなく,局部的にくびれを生ずることがある。この現象をネッキングnecking,あるいは局部収縮と呼ぶが,この現象が起きた場合の断面収縮率は,くびれによって最も細くなった部分の断面積をA1として測定される。延性材料では,くびれがいったんできると,その後は破断するまで応力は連続的に減少し,変形はくびれのところだけに集中する。その後,ある変形以上になるとネッキング部が破壊する。ある条件下では,ネッキングを起こさないで大きな塑性変形を示すことがある。このように強さが低く,大きな塑性変形を伴う現象を超塑性super plasticityという。これは,非常に小さな変形強度で非常に大きなひずみまで塑性的に変形できるということを意味している。アルミニウム-亜鉛合金,鉛-スズ合金などの共晶または共析変態を示す二相合金および純ニッケルなどの純金属でも観察されているが,その機構については不明な点が多い。たとえばアルミニウム-亜鉛合金では,単相域(約270~280℃)以上の温度で均質化加熱後,急冷すると約500~600%の伸びを示すことが確認されている。
金属の結晶系の違い,応力が加わる場合の方向性およびひずみ速度,同じ材質のものでも加工および熱処理の有無によって,延性は大きく変化する。
延性とは逆に金属材料などの物体がほとんどあるいはまったく塑性変形しないで破壊した場合には〈もろい〉という。この性質に対する言葉として脆性(ぜいせい)brittleness(もろさ)が用いられる。脆性は,前述のような伸び率,断面収縮率だけでは不十分なので,衝撃試験により他の材料と比較測定される。もろい材料は圧縮荷重下においても破壊することができる。このようにして破壊する材料は,一般に引張強さよりも圧縮強さのほうが大きく,鋳鉄,コンクリートなどがこれである。陶器,ガラス(常温において)のような材料は塑性変形をまったく伴わないで脆性的に破壊(脆性破壊)するが,銅,金,アルミニウム,鉄鋼のような金属材料は大小はあるにせよ塑性変形が伴い延性的に破壊(延性破壊)する場合もある。現在では塑性変形の大きいものを延性破壊,小さいものを脆性破壊というが,はっきりとした区別は難しい。
延性の異なる材料の棒状試験片を引張り破断させると,破壊過程によりその切断部分の形状は異なる。この形状と破面の観察(フラクトグラフィー)により,ある程度の破壊様式の区別が可能である。その判断の目安は以下のようである。脆性破壊を示すものは,応力方向と垂直にほとんど塑性変形なしに切断する(垂直破壊)。延性破壊を示すものは,応力方向と45度方向に塑性変形を伴って切断する。両方の破壊様式が観察されるものとしてカップアンドコーンcap and cone型がある。これは,局部収縮の後,中心部に亀裂が発生して周辺部へ伝わり,周辺部は応力方向と45度にせん断破壊して,ちょうど破断部の片方がカップ状,他方が円錐状になる様式である。さらに延性側に属する切断面として二重カップ型があり,これは,局部収縮の後,中心部に亀裂が生じて周辺部に伝わるが,せん断破壊はせず,伸びて破断面の両側ともカップ状に破断するものである。
これに対して,材料のねばり強さを表す言葉に靱性(じんせい)toughnessがある。靱性は,破壊を起こすのに要する単位体積当りの仕事量などを目安として示される。靱性材料として定性的に取り扱われているものは,引張強さが大きく,かつ衝撃値の大きいものである。一般には面心立方格子金属は脆性破壊を起こさず,温度によらないでいつも高い靱性をもつ。しかし軟鋼などの強度の低い体心立方格子金属では靱性が急激に低下する温度がある。これを脆性遷移温度という。
金属材料は一般に延性が大きいが,鋳鉄のようにもろい金属材料もある。また延性は,前述のように温度によって変化し,多くの場合,温度が高くなると増加する。伸び率と断面収縮率によって表される金属材料の延性の例を表に示す。
→材料試験 →塑性 →弾性
執筆者:岸 輝雄+今井 八郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
塑性の一種で、材料の延ばしやすさをいう。これを示すもっとも一般的な方法は、断面形状一定の丸棒や板の試験片を軸方向に一定速度で引っ張り、破壊後の延び量で示すことである。純金属は一般に延性が大きい。これは金属の結晶(原子配列の規則性)が密充填(じゅうてん)構造で、すべりやすい原子面が多いことによる。延性が高い金属でもその伸び率はおよそ40%以下であるが、鉄やチタンの合金には100%以上の延び率を示すものもあり、これを超延性もしくは超塑性という。これらの合金では、ある応力以上でより硬い別の結晶に同素変態して、破断の前におこる局部収縮がおこりがたくなるためである。同素変態するセラミックスにも高温で超塑性を示すものがある。このような加工誘起変態をおこす物質で、その変態の応力依存性が可逆的に近い場合は除荷後に元の長さに戻る超弾性を示し、不可逆的なものは再加熱によって元の形状に戻る形状記憶性を示す。非結晶質の高分子材料でも局部超延性、形状記憶、超弾性(無反発)等の類似の性質を示す材料があるが、これらにおける異常性質は分子鎖の配列状態に起因する。
[須藤 一]
材料が破壊に至るまでに変形しうる塑性ひずみ量をいう.このためには変形方法,試験片を定義しなければ数値的な比較ができない.たとえば,引張試験による場合は,規格で定められた試験片を用いて,伸びまたはしぼりをもって表す.丸棒試験片の場合は,直径が2~3 mm から20~30 mm の場合は幾何学的に相似の試験片ならば相似則が成立するので,数値的な比較も可能である.真ひずみを用いると,より広い範囲で数値による評価が可能になる.そのほか,単純な変形を対象とした場合でも,ねじり延性,曲げ延性などがある.成形性を対象としてはさらに多くの試験法があり,張り出し成形性におけるエリクセン値や,深しぼり性を表すコニカルカップ値などがある.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
… 物性とひとくちにいっても,密度や間隙率のような物理量だけでなく,強度など各種の力学量も含まれる。岩石の変形しやすさの目安としては,これらを複合したダクティリティductility(延性度)という概念を使うと便利である。これは岩石の圧縮試験において,破壊するまでに要したひずみ(%)と定義される。…
※「延性」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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