徒人(読み)タダビト

デジタル大辞泉 「徒人」の意味・読み・例文・類語

ただ‐びと【徒人/直人/×只人】

《古くは「ただひと」》
普通の人。常人凡人
「げに―にはあらざりけりとおぼして」〈竹取
天皇皇族に対して、臣下の人。
二条の后のまだ帝にも仕うまつり給はで、―にておはしましける時」〈伊勢・三〉
官位の低い人。貴族に対して、身分の低い人。
「―の、上達部かんだちめの北の方になり」〈・二三六〉
世俗の人。俗人。僧に対していう。
聖人…初め、―にましましける時には」〈今昔・四・二四〉

いたずら‐びと〔いたづら‐〕【徒人】

役に立たない人。無用の人。徒者いたずらもの
「忠雅らも―になりぬべくてなむ」〈宇津保・俊蔭〉
落ちぶれた人。
「―をば、ゆゆしきものにこそ思ひ捨て給ふらめ」〈明石
死んだ人。死者
「わが君、かくて見奉るこそ、―見奉りたる心地すれ」〈宇津保・国譲下〉

あだ‐びと【徒人】

浮気者。移り気な人。
「この君もいとものうくして、すきがましき―なり」〈帚木
風流を解する人。
「―と樽をひつぎのみほさん/重五」〈冬の日

ず‐にん〔ヅ‐〕【徒人】

律令制で、に処せられ、労役に服する人。

かち‐びと【徒人/歩人】

徒歩の人。歩いて行く人。かちんど。
「この内に入り満ちたる、車、―、数知らず多かり」〈栄花・御裳着

ただ‐うど【人/人/×人】

ただびと」の音変化。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「徒人」の意味・読み・例文・類語

ただ‐びと【徒人・只人・直人・常人】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 神仏、また、その化身などに対して、ふつうの人間。また、特別の能力や才能を持っている人に対して、あたりまえの人間。つねの人。ただのひと。多く、打消の表現を伴って、すぐれていること、ただの人間でないことなどを評価していう。
    1. [初出の実例]「顔(かほ)色、甚だ美(よ)く、容貌(かたち)且閑(みやび)たり。殆に常之人(タタヒト)に非(あら)す」(出典日本書紀(720)神代下(兼方本訓))
    2. 「凡はさい後の所労のありさまこそうたてけれ共、まことにはただ人ともおぼえぬ事共おほかりけり」(出典:平家物語(13C前)六)
  3. 天皇・皇族などに対して、臣下の人。
    1. [初出の実例]「二条の后のまだ帝にも仕うまつり給はで、ただ人にておはしましける時」(出典:伊勢物語(10C前)三)
  4. 身分ある人に対して、身分・地位の低い人。なみの身分の人。摂政・関白に対して、それ以下の人、上達部(かんだちめ)殿上人(てんじょうびと)などに対して、それ以下の人など、場合により異なる。
    1. [初出の実例]「土庶(タダヒト)の百千万なるい 亦王に随ひて城を出でぬ」(出典:西大寺本金光明最勝王経平安初期点(830頃)一〇)
    2. 「一の人の御有様はさらなり、ただ人も、舎人など給はるきははゆゆしと見ゆ」(出典:徒然草(1331頃)一)
  5. 僧侶に対して、俗人をいう。
    1. [初出の実例]「夫れ道(おこなひする)人も尚法を犯す。何を以て俗(タタ)人を誨(をし)へむ」(出典:日本書紀(720)推古三二年四月(岩崎本平安中期訓))

いたずら‐びといたづら‥【徒人】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 元の職務、地位などを離れた人。用のなくなった人。
    1. [初出の実例]「いたづらびとにて侍れば、官(つかさ)、位のようも侍らねど」(出典:宇津保物語(970‐999頃)国譲上)
  3. おちぶれた人。見るかげもなくなってしまった人。
    1. [初出の実例]「親の人なみなみにていたはるにこそ、女は人とも見ゆめれ。かかるいたづら人の子をば何にせん」(出典:宇津保物語(970‐999頃)国譲下)
  4. 身体的・精神的に問題があって、世の中の役に立たない人。
    1. [初出の実例]「かのさうじみは、とてもかくてもいたづら人と見え給へば」(出典:源氏物語(1001‐14頃)真木柱)
  5. 死んだ人。死人
    1. [初出の実例]「影のごとなり給はむ人は、まいてかけても聞き給なば、いたづら人になり給なんものを」(出典:宇津保物語(970‐999頃)国譲下)
  6. 無法な行い、わるさをする人。
    1. [初出の実例]「うでこぎだてをめさるる人でいたづら人であったぞ」(出典:寛永刊本蒙求抄(1529頃)六)

あだ‐びと【徒人】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 心に実のない、移り気な人。浮気者。
    1. [初出の実例]「秋といへばよそにぞ聞きしあだ人の我をふるせる名にこそありけれ〈よみ人しらず〉」(出典:古今和歌集(905‐914)恋五・八二四)
  3. 風流を解する、粋な人。また、恋人
    1. [初出の実例]「襟(えり)高尾片袖(そで)をとく〈芭蕉〉 あだ人と樽(たる)を棺(ひつぎ)に呑(のみ)ほさん〈重五〉」(出典:俳諧・冬の日(1685))

かち‐びと【徒人・歩人】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「かちひと」とも )
  2. 馬や車に乗らないで足で行く人。徒歩で行く人。また、路を行く人。
    1. [初出の実例]「仍りて皆米を棄てて、〈略〉歩者(カチヒト)を乗らしむ」(出典:日本書紀(720)天武元年六月甲申(北野本訓))
  3. ( 騎馬で戦う人に対して ) 徒歩で戦う人。
    1. [初出の実例]「其れ馬有らむ者をば騎士(むまのりひと)とせよ。馬無からむ者をば歩卒(カチヒト)とせよ」(出典:日本書紀(720)天武一三年閏四月丙戌(北野本訓))

ただ‐うど【徒人・只人・直人】

  1. 〘 名詞 〙 「ただびと(徒人)」の変化した語。
    1. [初出の実例]「たた人(うと)にて大やけ 凡俗〔日本紀〕、直仁〔伊勢物語真名本〕、王道補佐の臣とおぼしめすなり」(出典:岷江入楚(1598)桐壺)

徒人の補助注記

「源氏物語」「栄花物語」などの「たた人」の用例は「日葡辞書」などにより「ただびと」の項に入れた。


ず‐にんヅ‥【徒人】

  1. 〘 名詞 〙 徒罪(ずざい)に処せられた人。令制で、有期の使役刑に処せられ苦役に服している人。
    1. [初出の実例]「凡徒人年限者、従役日始計」(出典:延喜式(927)二九)

かち‐ど【徒人】

  1. 〘 名詞 〙 舟を用いないで、磯場へ泳いで行き、もぐって貝などをとる海女(あま)。また、海岸近くで樽を使う海女をいうこともある。

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普及版 字通 「徒人」の読み・字形・画数・意味

【徒人】とじん

召使い。

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