朝鮮,李朝の太祖(1392年7月)から哲宗(1863年12月)に至る各王代の事跡を政府が編纂した編年体の記録。25代1706巻。韓国では《朝鮮王朝実録》と呼ぶ。太祖以下3代のみは綱目体であり,廃王(燕山君,光海君)のものは〈日記〉と呼ばれる。《実録》の編纂は国王の死後に始められ,国王に近侍する史官が記録した〈日記(史草)〉と,時政とよばれる政務記録を保管する春秋館が〈日記〉や各官庁の重要書類をもとに年月日順に編纂した〈時政記〉の二つを根本資料として行われる。はじめ編纂事業は高麗の制度を引き継いで春秋館が行っていたが,のちに特設の実録庁に移った。《実録》ははじめ手写本1部を作成して忠州の史庫に保管するのみであったが,1439年の全州・星州史庫増設後,春秋館の内史庫と合わせ,4部の手写本を作成して分置した。のちに梁誠之の献議に従い,清書本1部と活字印刷本3部を作成して4史庫に分置した。1592年の豊臣秀吉軍の侵入(壬辰倭乱)で3史庫本が焼失したため,乱終結後,焼失を免れた全州史庫本をもとに4部を活字で復元し,内史庫と,要害の地に新設された4外史庫(摩尼山のち鼎足山,妙香山のち赤裳山,太白山,五台山)に分置し,孝宗代以後は5部すべてを活字印刷に付した。日韓併合後,散逸した内史庫本を除き,4外史庫本が朝鮮総督府の命令で中央に集められ,また五台山本は東京大学に寄贈されたが関東大震災でほとんど焼失した。また京城大学が太白山本(一部鼎足山本)を縮印出版し,第2次大戦後,これを学習院大学と韓国国史編纂委員会が縮印出版した。王朝の公的史書である《実録》は政争の具となることが多く,党争の激化とともに,完成したものの改修さえ行われた(宣祖,顕宗,景宗の各実録)。《李朝実録》は《承政院日記》《備辺司謄録》(〈承政院〉〈備辺司〉の項参照),《日省(につせい)録》と並び,李朝の政治・経済・社会・文化の根本資料であるばかりでなく,日本,琉球,中国など東アジアの国際関係についても豊富な内容をもっている。
執筆者:吉田 光男
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別称 朝鮮王朝実録
解説 朝鮮李朝(一三九二―一九一〇年)の太祖から二七代純宗にいたる実録の総称。太祖実録一五巻など合計で一九〇〇余巻。年代にして五一八年に及ぶ膨大な記録。琉球関係記事は琉球・朝鮮の交流を反映して琉球使節の派遣、漂流関係など、二〇〇余件を数える。なかでも一四世紀末―一五世紀初頭の山南関係の記録(一三九四年山南王子の亡命、九八年山南王温沙道の死亡)や、一五世紀―一六世紀中葉の朝鮮漂流民の記録(一四五三年丁禄・朴万年、六二年肖得誠、七九年金非衣らの見聞記)などは、他史料にほとんどみえない貴重な記録となっている。なお「李朝実録」から琉球関係記事を抜粋したものに和田久徳・高瀬恭子編「李朝実録の琉球国史料」(南島史学第四五号)など、日本庶民生活史料集成二七に「李朝実録抄」がある。
活字本 学習院東洋文化研究所
出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
朝鮮、李朝の政治、社会、経済、文化に関する基本史料。李朝25代(太祖~哲宗)各王代の史実を政府がそのつど編纂(へんさん)した、編年体を主とする全1706巻に及ぶ膨大な記録である。韓国では『朝鮮王朝実録』とよぶ。哲宗以後の高宗・純宗実録は植民地統治下の1935年に完成され、これを含めてよぶこともある。初めは一部、やがて四部、のち五部が作成された。学習院大学東洋文化研究所と韓国国史編纂委員会から、それぞれ縮刷本が出版されている。日本、中国との関係資料も多く、そのほか琉球(りゅうきゅう)、南方諸島、欧米との関係記事もあり、東アジア国際関係の記録としても重要な意味をもっている。
[矢澤康祐]
…朝鮮の高麗・李朝時代,《李朝実録》や国家の重要文献を保存するために設置された書庫。1227年(高麗の高宗14),王宮内の史館と慶尚北道の海印寺に《明宗実録》を分置したことが内史庫・外史庫分化の起源である。…
※「李朝実録」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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