ユズを用いた加工食品。室町時代から文献に見られるもので,〈柚干〉とも書いていた。ユズの頭部を水平に切り,その切口から中の果肉をかき出したものを柚釜(ゆがま)と呼ぶが,その柚釜の中へ米の粉を主材とする詰物をして,切りとった頭部でふたをする。これをわらなどで縛ってよく蒸し,蒸し上げたものを日干しにする。中の詰物はうるち米,もち米を8:2ほどにまぜ,クルミやカヤの実の刻んだもの,ゴマなどを加えて,みそやしょうゆでこねる。ショウガやトウガラシを入れることもあり,蒸して干す操作を再度行うこともあった。以上はだいたい《料理塩梅集》(1668)の記述によったものだが,こうして固く乾燥させたものを薄切りにして酒のさかななどにする。外見,食味ともに上品で,淡泊な和風サラミソーセージといったものである。とにかく,こうしたものであったが,上記《料理塩梅集》には砂糖を加えてつくる別法も記載されている。それから約1世紀半後の《料理談合集(だんごうしゆう)》(1822)になると,〈柚餅子〉はユズの皮と種を除いて,果肉だけを用いてみそと砂糖を加え,これを米の粉とまぜて蒸すものとなった。それから1世紀半余,現在のゆべしはほとんどが甘味の菓子になった。石川県輪島の名物菓子であるそれは,昔ながらの柚釜を用いているが,ほかはおおむね,もち米粉にクルミを加え,しょうゆをまぜた砂糖液でこねて蒸した餅菓子である。
執筆者:鈴木 晋一
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柚干(ゆびし)、柚圧(ゆべし)とも書く。丸柚餅子が本来で、蒸し菓子の一種。室町時代には柚醤(ゆびしお)、柚味噌(ゆみそ)などとともに酒席の佳肴(かこう)とされ、柚味噌釜(がま)とも称した。1643年(寛永20)刊の『料理物語』によると、「柚味噌のごとく口をきり実をすて、味噌、生姜(しょうが)、胡椒(こしょう)などよくすりて、かや、ごま、あんにん、そのまま入まぜて、ふたを合わせからげ、よくむしてほし、あまにつり候てよし」とある。この仕法が菓子に移行してからは、みそ、糯(もち)米粉、砂糖をこねたものを柚釜に詰め、蒸して乾燥させる製法にかわった。保存のきく珍菓である。岡山県高梁(たかはし)市、石川県輪島市、長野県飯田(いいだ)市、奈良県吉野地方、和歌山県龍神温泉などに、ユズを原形のまま蒸して乾燥させる丸柚餅子が伝えられている。和菓子のなかではもっとも高価な菓子である。このほか柚餅子の名品には新潟市西蒲(にしかん)区福井に棹物(さおもの)柚餅子がある。糯米粉に柚汁(ゆじる)、砂糖、みそをあわせて蒸し上げた棹物で、1829年(文政12)に本間楢右衛門(ほんまならえもん)により完成した。また東北地方には「くるみゆべし」などの平柚餅子が多い。
[沢 史生]
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