(読み)ナツメ

デジタル大辞泉 「棗」の意味・読み・例文・類語

なつめ【×棗】

クロウメモドキ科の落葉高木。葉は卵形で、3本の脈が目立ち、互生する。夏、黄緑色の小花をつけ、楕円形の実を結び、暗赤褐色に熟す。実は食用に、また漢方で乾燥させたものを大棗たいそうといい、強壮薬に用いる。中国北部の原産。名は、初夏になって葉の芽を出すことによる。 実=秋 花=夏》「竿をもて―をたたく巡査かな/素十
染料の一。1の実を乾燥し、刻んだものをせんじて染め汁を作る。茶系統の色。
薄茶器の一。木製漆器の容器で、形状が1の実に似ている。古くは棗形茶入れといい、室町中期に京都妙覚寺法界門付近に住んでいた羽田五郎はねだごろうが始めたという。

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精選版 日本国語大辞典 「棗」の意味・読み・例文・類語

なつめ【棗】

  1. 〘 名詞 〙
  2. クロウメモドキ科の落葉小高木。ヨーロッパ南東部からアジア東部原産で、古くから栽培され、日本へも古く渡来し、家庭果樹として人家に植えられている。高さ六メートルぐらい。幹にはまばらにとげがあり、一節から二~三本の小枝が出る。葉は短柄をもち、長さ二~四センチメートルの先のとがった卵形または長卵形で三脈がめだち、縁に細鋸歯(きょし)がある。初夏、葉腋に淡黄色の小さな五弁花が集まって咲く。果実は長さ約二センチメートルの楕円形で中に紡錘形の大きな核があり、暗紅色に熟し甘酸っぱい味がする。生食するほか、乾果や砂糖漬にしてから干した蜜棗が愛用される。漢方では果実を解熱・強壮剤に用いる。漢名、棗。《 季語・秋 》
    1. [初出の実例]「合水瓶〈略〉仏物卅六口之中〈略〉十九口棗瓶」(出典:大安寺伽藍縁起并流記資財帳‐天平一九年(747))
  3. 染料の一種。棗の果実を乾燥させ、刻み煎じて染汁を作ったもの。茶系統の色。
  4. 薄茶器の一種。漆工の容器で、形状が棗の実に似るので棗形茶入ともいう。室町中期に羽田五郎が創案したといわれる。〔松屋会記‐久政茶会記・天正六年(1578)一〇月二七日〕
    1. 棗<b>③</b>

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普及版 字通 「棗」の読み・字形・画数・意味


12画

[字音] ソウ(サウ)
[字訓] なつめ

[説文解字]

[字形] 会意
朿(し)+朿。〔説文〕七上に「羊棗(やうさう)なり。重朿に從ふ」という。〔爾雅、釈木〕に棗の十一名をあげ、その中に羊棗の名がある。棗は神饌として用い、また婦人が舅姑に会うときの礼物として、棗脩(そうしゆう)を持参する定めであった。脩は細長く切った乾肉で、わが国の「のし」にあたる。棗は棘(きよく)と字の要素は同じであるが、声義ともに異なる別の字である。

[訓義]
1. なつめ、なつめの木。
2. あか、なつめいろ。

[古辞書の訓]
和名抄〕棗 奈米(なつめ)〔名義抄〕棗 ナシ・ナツメ・スミヤカ/酸棗 サネブト

[熟語]
棗核棗紅・棗・棗子・棗児・棗脩棗仁棗脯・棗本棗栗・棗棗林
[下接語]
火棗・乾棗・酸棗・桑棗・樗棗・肉棗・羊棗・梨棗

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改訂新版 世界大百科事典 「棗」の意味・わかりやすい解説

棗 (なつめ)

ナツメの実の形状に由来する抹茶の容器をいう。中国(宋代)から渡来した抹茶の製法と喫茶の習俗は,茶の湯の成立の中で,濃茶(こいちや)と薄茶の二様の点茶法に分立した。濃茶は儀式的な,薄茶は寛潤な雰囲気を伴っている。そこで濃茶の容器としては中国伝来の陶製の小壺が用いられたのに対し,薄茶器は漆塗の和製の容器がくふうされた。棗は広義には,この和製の薄(茶)器の別称といえる。つまり形状が必ずしも棗型でなくても,薄器と同義語として,むしろ茶の湯になじむ語として用いられている。例えば,珠光棗,甲赤棗,尻張(しりはり)棗の類である。これらはいずれも棗型をしていない。

 棗の起源は,一般的には濃茶入を保護するために納める器,挽家(ひきや)から出たとされる。挽家は挽物の意で,堅木(黒檀,黒柿など)の材質のもの,また漆塗のものもある。この説に符合するのは,棗の古体といえる紹鷗(じようおう)棗が大ぶりで挽家に近い姿をしていることであろう。次に棗の文字を使うものは,中国で別の用途に使われていたものの応用と思われる。また,金輪寺(きんりんじ)棗(蔦(つた)材の木地)というのがあり,これは御醍醐天皇が吉野の金峰山寺で一字金輪の法を修し,衆僧に茶を賜ったときの容器とされ,初期には濃茶入として用いられていた。しかしこれは小型の経筒であったと考証されている。これが江戸中期になって,外側を溜塗,中を黒塗で小ぶりにした頭切(ずんぎり)とも呼ばれる薄茶器に転進する。桃山から江戸初期に嵯峨嵐山辺りで土産物として作られた枝垂桜,柳,藤などの図柄を蒔絵にした雅趣にとむ嵯峨棗と呼ばれるもの,また利休時代以後,無名の漆工により町棗と呼ばれる粗野なものが作られたが,これらは棗が大衆化した証拠といえる。

 茶の湯として規範となる棗は利休型で,大・中・小のうち利休型中棗が棗の標準となっている。この寸法は千家の職方である中村宗哲家に伝来するもので,きびしく管理される。利休によってわび茶が進行すると,陶製の濃茶入に代替するものとして,中棗(鷲棗)を仕覆(しふく)(袋)に入れる仕覆棗や,帛紗(ふくさ)で包む包帛紗,また縮緬(ちりめん)の大津袋に入れるなど,中棗が濃茶入に替えて用いられ,棗の茶器としての重みが増した。
茶入
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「棗」の意味・わかりやすい解説


なつめ

抹茶(まっちゃ)を入れる茶器。薄茶器(うすちゃき)の一種で、主として薄茶を入れる漆塗り製の茶入であるが、黒塗りのものは袋に入れて濃茶(こいちゃ)を入れることがある。その形姿が植物のナツメの実に似ているところからの呼称。総体は楕円(だえん)形であるが、だいたい上部3割のところで蓋(ふた)と身が分かれるようになっている。

[筒井紘一]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「棗」の意味・わかりやすい解説


なつめ

薄茶を入れる漆器。茄子茶入の挽家 (ひきや。茶器を保存する容器) を応用したものが始めといわれ,形がなつめの実に似ることによる名称。東山時代からとされるが作品は桃山時代以後が多い。形のうえでは大,中,小,平,尻張,胴張,長丸その他がある。素地は木材 (挽物) ,乾漆,竹,紙など。塗りには黒ろう,朱,溜,潤 (うるみ) ,掻合,春慶,根来 (ねごろ) ,変り塗,摺漆などがあり,木地のままのものもある。

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百科事典マイペディア 「棗」の意味・わかりやすい解説

棗【なつめ】

茶道具の一つ。薄茶用茶入。形はナツメの実に似る。室町時代に創始。印籠(いんろう)造で,中央よりやや上で蓋と身に分かれる。木製で漆塗のものが多い。茶人の好みにより,紹鴎(じょうおう)型,利休型などがある。

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動植物名よみかた辞典 普及版 「棗」の解説

棗 (ナツメ)

学名:Ziziphus jujuba var.inermis
植物。クロウメモドキ科の落葉低木・小高木,園芸植物,薬用植物

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食器・調理器具がわかる辞典 「棗」の解説

なつめ【棗】

茶道で、薄茶器(薄茶を入れる容器)の一種。縦に長い球形で、クロウメモドキ科の落葉小高木・なつめの果実に似る。

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