水理気象学(読み)すいりきしょうがく(英語表記)hydrometeorology

日本大百科全書(ニッポニカ) 「水理気象学」の意味・わかりやすい解説

水理気象学
すいりきしょうがく
hydrometeorology

大気中の水の存在、運動、変化に重点を置いて研究する気象学の一分野。水文気象学ともいう。水理学者がこのことばを使うときは、さらに意味を狭くとり、大気と地表の間の水のやりとりの研究としての意味に用い、これはさまざまな水利施設の設計などの基礎として調べられることが多い。水理気象学で取り扱う問題のなかには、降水蒸発、自然物の表面からの蒸発散なども含まれる。これらが地域的にどのように変わっているかなどがとくに調べられることも多い。

 水が大気中に気体として存在するのは水蒸気である。水蒸気は、高さとともに、また高緯度に向かうにつれて平均値としては減少しているが、それはまた季節や地表の状態にしたがって大きく変わる。単位面積の気柱(細長い空気の柱)の中の地表から上方極限までの中に含まれる水蒸気の全量が凝結したときの水の量として可降水量というものが定義されている。可降水量を降水量と同じように単位面積当りの深さで表す。可降水量は、熱帯では40ミリメートル(以下ミリ)以上あり、極地方は5ミリ程度、地球全体の平均では約25ミリである。この水蒸気量の約半分が地表から1.6キロメートル以内の高さに、80%は3キロメートル以内の高さの中に存在する。

根本順吉青木 孝]

大気中の水の循環

前述したように、大気中の水蒸気量は平均して25ミリの降水量に相当するほどしか存在しないが、地球全体の年降水量は1000ミリもある。25ミリ相当の水しかないところからなぜ1000ミリも雨が降るかといえば、それは地表と大気中を水が循環しているからである。その循環は
  1000÷25=40
であるから、1年で40回ほど循環していることになる。1年の365日をこの40で割ると、およそ9日になるから、大気中の水蒸気の寿命はおよそ10日ということになる。

 これに対して、地表から地中に浸透していった水の場合は、循環するのに非常に桁(けた)違いに長い時間を要する。地下水を放射性炭素14Cなどを使って年代測定(1960年リビーが完成した年代測定法など)すると、数千年の長さのものがみつかる場合があるが、これは、大気中の水と比較した場合、ほとんど循環していないとみるべきである。以上の認識は、水を資源の一つと考えた場合、きわめて重要なことである。砂漠地帯などにみられる地下水は何千年もかかってため込んだ水であり、上方からの補給がなければ、資源としての石油と同様、くみ上げて使えばなくなってしまうのは当然である。

[根本順吉・青木 孝]

降水とその解析

水理気象の分野でとくに行われるのは降水の測定とその解析である。降水は普通次の三つの場合におこる。(1)地形性降雨(たとえば気流が山岳を越えるとき)、(2)温帯低気圧に伴われて降る場合、(3)同一気団内の擾乱(じょうらん)に伴われる場合(たとえば夏の積乱雲に伴われた夕立など)。これらの条件によって、どれほどの雨が降るかを調べると降水量の記録は持続時間が短くなるほど激しくなっている。

 水理気象学の一つの典型的な問題は、ダムにおける放水量の見込みをたてるために降水量とその継続時間、その強さなどの見積りをすることである。また砂漠地帯の蒸発量・蒸散量などの量的見積りをすることなども、水理気象学の一つの重要な課題である。

[根本順吉・青木 孝]

『川畑幸夫編著『水文気象学』(1969・地人書館)』『丸山利輔・三野徹編『地域環境水文学』(1999・朝倉書店)』『吉野文雄著『レーダ水文学』(2002・森北出版)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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