(読み)トウ

デジタル大辞泉 「沓」の意味・読み・例文・類語

とう【沓】[漢字項目]

人名用漢字] [音]トウ(タフ)(漢) [訓]くつ
重なる。重なり合う。「雑沓

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「沓」の意味・読み・例文・類語

くつ【沓・靴・履・鞋】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 履き物の一種。皮革、藁、糸、麻などを用いて足先全体を覆うように作った履き物。古くは、浅沓(あさぐつ)、深沓(ふかぐつ)、靴(かのくつ)、半靴(ほうか)(せきのくつ)、烏皮靴(くりかわのくつ)、物射沓(ものいぐつ)挿鞋(そうかい)、錦鞋(きんかい)、線鞋(せんかい)、糸鞋(しかい)、麻鞋(おぐつ)、藁沓(わらぐつ)などがある。現在は、皮革のほか、布、ゴム、合成皮革などを材料とした長靴、短靴、編上靴などの種類がある。
    1. [初出の実例]「又其の履(クツ)を投ぐ。是を道敷(みちしき)の神と謂ふ」(出典:日本書紀(720)神代上(水戸本訓))
    2. 「素足に沓(クツ)はいて道中せらるべし」(出典:浮世草子・傾城色三味線(1701)京)
  3. 下駄や足駄、草履のこと。特に僧が法会にはくものは、木製漆塗りのものを鼻高(びこう)といい、帛をはったものを草鞋(そうかい)という。
    1. [初出の実例]「水取や氷の僧の沓の音」(出典:俳諧・野ざらし紀行(1685‐86頃))
  4. くつもち(沓持)」の略。
    1. [初出の実例]「沓(クツ)の次良〈略〉其の比三野のしゃれ者なり」(出典:浮世草子・好色二代男(1684)五)
  5. 和歌俳句の終わりの文字。折句(おりく)の際に用いられる。
    1. [初出の実例]「歌の初め終りに、いろはの文字を置かる。かぶりはらりるれろ、くつはいうあ」(出典:春のみやまぢ(1280))
  6. 漢字を構成する部分を上下に分けたとき、下の部分をいう。脚(あし)
    1. [初出の実例]「沓とは志の心〈略〉の類にして文字の下部に在る者なり」(出典:小学読本(1884)〈若林虎三郎〉四)
  7. ( 「沓手鳥」とも書くところから ) 鳥「ほととぎす(杜鵑)」の異名

沓の語誌

( 1 )隋書‐倭国伝」に、漆塗りのくつを履いているが庶民裸足が多いとの記述があり、紀元六〇〇年前後の日本の事情が分かる。奈良・平安時代にはくつの種類が豊富になり、官位・身分によって着用するくつの種類が定められた。
( 2 )「沓」には「鞜」の省文としてクツという国訓が生じた。クツの意で用いる「沓」の例は、古く「播磨風土記揖保」「新撰字鏡」などに見え、「色葉字類抄」では、「鞜」の注に「沓」を「俗用」するとの説明が見える。

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普及版 字通 「沓」の読み・字形・画数・意味


人名用漢字 8画

[字音] トウ(タフ)
[字訓] けがす・かさなる・むさぼる

[説文解字]

[字形] 会意
水+曰(えつ)。曰は祝を収めた器。その器に水を加えるのは、その祝をけがし、効果を失わせるための行為である。〔説文〕五上に「語多くして沓沓たるなり」といい、水の流れるような多弁の意とするが、それは(とう)の字義である。〔国語、語〕「其の民は沓貪にしてなり」の〔注〕に「黷(けが)すなり」とあり、沓は祝を黷すことを原義とする字である。多言の意は、〔子、正名〕に「愚の言は然として沸(さわ)がし」とみえる。

[訓義]
1. けがす、けがれる、みだす、おかす。
2. かさなる、くわえる、あう、むさぼる。
3. ことばが多い。
4. 水がながれる、わきあふれる。
5. もののかさなるさま。
6. 鼓の音。

[古辞書の訓]
名義抄〕沓 アフ・カサナル・カサヌ・タタム・クラシ 〔字鏡集〕沓 カサヌ・クツ・オモシ・アフ・タタム・クラシ

[声系]
〔説文〕に沓声としてなど七字を収める。擬声的な語が多い。

[語系]
沓・dpは同声。沓は祝の器にくりかえしくりかえし水を加えてけがし、その祝を妨げる意。語を以てそのように行為することをという。臼を舂き終わって、また舂きなおすことをという。dpは同声。は涙の象形。涙を流しつづけることを、語の多いことを「(とうとう)」という。

[熟語]
沓合沓颯沓舌・沓貪沓潮・沓沓・沓風沓冒・沓沓来沓猥
[下接語]
会沓・驕沓・合沓・颯沓・雑沓・積沓・蹙沓・叢沓沓・貪沓・波沓・紛沓

出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「沓」の意味・わかりやすい解説

沓/履 (くつ)

足を覆い包む形の日本の履物。皮革や錦,糸,麻,わらなどで作られた。縄文時代後期の遺跡から長沓形の土器が出土,また,古墳時代の人物埴輪も長沓や短沓をはいており,皮を縫いとじた沓と思われる。江田船山古墳(熊本県)からは金銅沓が出土しており,地方豪族が権威の象徴として儀礼の際に足を通したものと思われる。

 奈良時代には舃(せきのくつ),履,靴(かのくつ),鞋(かい)等のくつが中国から伝来し,大宝律令にも定められた。黒い漆を塗った烏皮(くりかわ)舃は皇太子や諸臣の礼服(らいふく)用,緑舃は内親王や三位以上の内命婦(ないみようぶ)がはいた。履には浅履と深履があり,浅履は浅い木彫りのくつで,天皇や文官の朝服に,深履は皮の長ぐつで,雨天や積雪のとき貴族がはいた。わら製の長ぐつは藁深履といい,天皇や上皇が雪見に,毛皮製の毛履(けぐつ)は(つらぬき)ともいい,検非違使(けびいし)や鎌倉時代の武将が乗馬や軍陣で用いた。靴は立てあげのあるなめし革のくつで,武官の礼服に用いた。半靴(ほうか)は靴を簡略にしたもので,靴先をとがらせ,靴帯(かたい)を省き,平安時代から武士が乗馬に用いた。鞋には,錦鞋(きんかい),挿鞋(そうかい),糸鞋(しかい),草鞋(わらぐつ)がある。牛皮底の紫色綾布のくつは挿鞋といい天皇や皇后が上ばきに,表を錦,内側を絹布で張った錦鞋は女官が,糸を編んだ糸鞋は幼帝や皇太子,舞楽の舞人が用いた。麻で編んだ麻鞋(まかい)は諸衛の宮人が,わらの草鞋は衛士がはいた。これが平安時代中ごろには鼻緒式のわらじに作り変えられた。
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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【束帯】より

…武家も将軍以下五位以上の者は大儀に際して着装した。束帯の構成は(ほう),半臂(はんぴ),下襲(したがさね),(あこめ),単(ひとえ),表袴(うえのはかま),大口,石帯(せきたい),魚袋(ぎよたい),(くつ),(しやく),檜扇,帖紙(たとう)から成る。束帯や十二単のように一揃いのものを皆具,あるいは物具(もののぐ)といった。…

※「沓」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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