河尻(読み)かわじり

日本歴史地名大系 「河尻」の解説

河尻
かわじり

平安―鎌倉時代、京都から淀川を下り、西国に向かう途中、必ず船をつないだといわれる泊。「河尻」の地名やその様子は当時の日記・紀行文・物語・和歌など多くの史料にみることができる。「河尻」は本来「河の末」の意であるから当該史料によってその比定地が異なる場合や、また特定地名と考えられない場合もあるが、「高倉院厳島御幸記」の「川しりのてら江といふ所につかせ給ふ」や、「山槐記」治承四年(一一八〇)三月一九日条に「今日可着御河尻寺所也、前大納言邦綱卿山庄在件所也」とみえる河尻などは、現在の兵庫県尼崎あまがさき市の南東部、大物だいもつ町辺りに比定される場合が多い。


河尻
かわじり

神崎かんざき川河口部にあり、延暦四年(七八五)よど川と三国みくに(神崎川)をつなぐ水路が開かれたことから都と西国を結ぶ要津として発達した。延喜一四年(九一四)三善清行意見十二箇条に西国からの航路の終着地として「河尻」があげられ、承平四年(九三四)に任国の土佐から都に帰還した紀貫之は、同年一二月二七日船出して翌年二月六日「かはじり」に着き、川をさかのぼっている(土佐日記)。ただしこの「かはじり」は淀川の河口をさすとする説もある。康保三年(九六六)四月には官米九一石を積みむろ(現御津町)から河尻に向かっていた船が、輪田わだ(現神戸市兵庫区)と河尻の間で風波を受けたために積荷の官米三〇余石を捨てて無事入港しているが、船頭が残りの米九一石を河尻辺りの人々に売却しており(同年五月三日「清胤王書状」九条家本延喜式裏文書)、平安時代中頃には活発な経済活動が行われるようになっていた。


河尻
かわじり

[現在地名]亀田郡戸井町字弁才町

享保十二年所附にみえる地名。現戸井町域のほぼ中央を流れて津軽海峡に注ぐ戸井川の河口一帯にあたる。同所附には「与茂木内 河尻 しすん」とみえる。天明元年(一七八一)の「松前志」にも「ヨモキナイ カハシリ ミスシ」と続けて記される。「蝦夷巡覧筆記」によると川尻は「山近々木ナシ大ワシリアリ」であった。松浦武四郎は東から横泊よこどまり、川尻沢と進み、川尻沢について「平磯、川有。

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百科事典マイペディア 「河尻」の意味・わかりやすい解説

河尻【かわじり】

平安〜鎌倉時代,京都から淀川を下り,西国に向かう途中,必ず船をつないだといわれる泊(とまり)。河尻の地名やその様子は当時の日記・紀行文・物語・和歌など多くの史料にみることができる。〈河尻〉は本来〈河の末〉の意であるから,当該史料によってその比定地が異なる場合や,また特定地名と考えられない場合もあるが,《高倉院厳島御幸記》や《山槐記》治承4年(1180年)3月19日条などにみえる〈川しり〉〈河尻〉などは,現在の兵庫県尼崎市の南東部,大物(だいもつ)町辺りに比定される。一方,《吾妻鏡》文治1年(1185年)11月5日条や《玉葉》同年11月4日条などにみえる〈河尻〉は,大物浜とは別の地であり,現在の大阪市東淀川区の江口(えぐち)をさすのではないかと推定される。
→関連項目難波津

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改訂新版 世界大百科事典 「河尻」の意味・わかりやすい解説

河尻 (かわじり)

平安時代に栄えた大阪湾沿岸の港。行基(ぎようき)が開いたと伝える五泊の一つで,摂津国河辺郡の神崎川河口にあった。平安京から海路で西へ下る官人や,西国からの租税年貢等の運送船は,主として河尻を発着点とし,その一帯に神崎長洲,大物,杭瀬,尼崎などの港町が発展した。鎌倉初期,東大寺重源ちようげん)によって港湾修築が企てられたが,地形の変遷とともに機能が低下し,やがて兵庫や堺にその地位を奪われていった。
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世界大百科事典(旧版)内の河尻の言及

【尼崎[市]】より

…尼崎城は明治維新の際に取りこわされ,付近は官庁・学校区となっている。【小森 星児】
[歴史]
 摂津国尼崎の地名がみえるのは中世からで,それ以前は三国川(神崎川)の河口付近は河尻と呼ばれ,平安時代以来,瀬戸内海航路の起点として発展し,神崎,杭瀬,大物(だいもつ)などの諸港が開けた。神崎の遊女は《遊女記》にえがかれて有名。…

【瀬戸内海】より

…律令制下,北九州の大宰府と京とを結ぶ陸路の山陽道が全国唯一の大路(駅ごとに20匹の駅馬を置く)とされたが,難波津から海路での遣唐使・遣新羅使の派遣なども行われた。播磨以東には河尻,大輪田,魚住,韓(から),檉生(むろう)の五泊とよばれる1日行程の停泊地が設けられた。9世紀になると,山陽道諸国の新任国司まで海路での赴任が定められ,また官米などの物資の輸送にも海路のほうが安価なため,海上交通の重要度が増した。…

※「河尻」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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