治・修・納・収(読み)おさめる

精選版 日本国語大辞典「治・修・納・収」の解説

おさ・める をさめる【治・修・納・収】

〘他マ下一〙 をさ・む 〘他マ下二〙
[一] (治・修) ものごとを安定した状態にする。整った状態にする。
① 主権者として国の政治をとる。国民や国土を統率・制御する。
書紀(720)孝徳・大化二年三月(北野本訓)「万の民を宰(オサムル)ことは、独り制(おさ)む可からず」
※徒然草(1331頃)一八四「世ををさむる道、倹約を本とす」
② 混乱した状態をしずめる。平定する。また、物事を穏やかにかたづける。落ち着いた状態にする。収拾する。
※万葉(8C後)一七・三九七三「あまざかる ひなも乎佐牟流(ヲサムル) ますらをや」
※浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉三「成る可くは叔父に告げずして事を収めたい」
③ 自分の行ない、態度、心などを整え正す。
※書紀(720)持統五年六月(北野本訓)「其れ公卿・百寮の人等をして、酒完を禁断ちて、心を摂(ヲサメ)、過ちを悔ひ令めよ」
※徒然草(1331頃)一一〇「身を治め、国を保たん道も、またしかなり」
④ (病気、飢えなどを)なおす。治療する。
※西大寺本金光明最勝王経平安初期点(830頃)九「能く衆の病と四大の増損とを療(ヲサメ)たまふと雖も」
⑤ 建物を整え造る。造営する。
※書紀(720)天武一〇年正月(北野本訓)「畿内及び諸国に詔して、天社、地社の神宮を修理(ヲさ)む」
⑥ (こわれた所、乱れている所などを)なおし繕う。修理する。
※東大寺諷誦文平安初期点(830頃)「鬢髪の蓬乱(ふくだ)めるをもかきも収(ヲサ)めず」
※随筆・折たく柴の記(1716頃)上「壁の土くづれ落しあまた所あれば、くづれしつち水にひたして、そのやぶれを修め塗らしむ」
⑦ 川などが氾濫しないようにする。
※日本読本(1887)〈新保磐次〉六「人民に工業を教へ、或は川を修め、溝を開きて農業の便利を興し給ひき」
⑧ 責任をもって世話をする。
※古事記(712)中「若し此の御子を、天皇の御子と思ほし看(め)さば、治(をさめ)賜ふべし」
⑨ 気持を落ち着かせる。
(イ) (多く「心(を)おさめる」の形で) 乱れた心をしずめる。こらえる。
※観智院本三宝絵(984)上「閑(しづ)かなる所に念を収て心を閑て不姦(さわがしから)ず」
※源氏(1001‐14頃)桐壺「さるまじき人のうらみを負ひしはてはては、かううち捨てられて、心おさめん方なきに」
(ロ) (目的語をとらないで自動詞的に用いる) のんびりする。落ち着く。とりすます。
※浮世草子・好色万金丹(1694)二「かの男おさめたる声つきにて」
⑩ 学問、技芸などを正統な形で身につける。修業する。
※大唐西域記長寛元年点(1163)五「節倹を努め修(ヲサム)」 〔和英語林集成(初版)(1867)〕
[二] (収・納) 物事をあるべき所に落ち着かせる。
① 他への働きかけのために出していたものをもとの場所へもどす。
(イ) 武器や道具などをひっこめる。しまいこむ。片付ける。
※書紀(720)景行四〇年是歳(北野本訓)「甲(よろい)を巻(ま)き、戈(ほこ)を戢(ヲサメ)て、愷悌(いくさと)けて還(かへ)れり」
※歌舞伎・毛抜(1742)「うろたへもの、コリャ何(どう)する。相手がさやへ納(オサメ)るは丸腰も同前、さやへ納めぬか」
(ロ) 手や翼などを内に曲げ縮める。
※私聚百因縁集(1257)三「病者涙を流し、喜びて手を刄(ヲサメ)て領状(りゃうじゃう)す」
※即興詩人(1892‐1901)〈森鴎外訳〉血書「一隻は翅を近き巖の頂に斂めて」
② 物を整頓された状態で中にしまい入れる。
(イ) (品物、農作物などを)ある場所にしまう。貯蔵する。たくわえる。
※万葉(8C後)九・一七一〇「吾妹子(わぎもこ)が赤裳ひづちて植ゑし田を苅りて蔵(をさめ)む倉無しの浜」
※徒然草(1331頃)一八「孫晨は冬月に衾(ふすま)なくて、藁一束ありけるを、夕にはこれにふし、朝にはをさめけり」
(ロ) 記憶したり記録したりする。
※彼岸過迄(1912)〈夏目漱石〉停留所「彼は其輪廓と、長いコートに包まれた恰好の可い彼女の姿とを胸に収(ヲサ)めて」
※渋江抽斎(1916)〈森鴎外〉八「後に五弓雪窓が此文を事実文編巻の七十二に収(オサ)めてゐるのを知った」
(ハ) (農作物を)取り入れる。収穫する。
※平家(13C前)五「兵粮米つきぬれば、田つくり、刈りおさめてよせ」
③ 人のものを自分の所有にする。受け取る。
(イ) (公の機関が、物、人、官位などを)強制的にとりたてる。取りあげる。没収する。
※書紀(720)神功五年三月(熱田本訓)「悉に妻子を没(ヲサメ)て孥(つかさやっこ)と為」
(ロ) (物や金銭などを)受け取って自分のものにする。また、(意見、忠告などを)受け入れる。
※観智院本三宝絵(984)上「願くは我が志を納て我が罪を免せ」
※虎寛本狂言・八句連歌(室町末‐近世初)「夫程(それほど)におしゃる成らば納て置う」
④ (物や金銭などを)受け取り手にさし出す。納入する。
※書紀(720)雄略九年三月(前田本訓)「朝聘(まうてき)既に闕きて、貢職(みつき)(オサムル)(〈別訓〉たてまつる)こと莫し」
⑤ 死体を埋葬したり、火葬にしたりして始末する。
※書紀(720)神代下(水戸本訓)「因りて日向の吾平(ひら)山上の陵(みささき)に葬(ヲサメ)まつる」
※源氏(1001‐14頃)桐壺「限りあれば、例の作法におさめ奉るを、母北の方、同じけぶりにのぼりなんと泣きこがれ給て」
⑥ 物事を終わらせる。(多く他の動詞に付いて)その動作を終わりにする。
※曲附次第(1423頃)「息ながくたふやかにのこる内にて云ひをさむべし」
⑦ よい結果を得る。
※手紙(1911)〈夏目漱石〉一「思ひがけなく或実際上の効果を収め得たのであるから」
[語誌]首長の意の「ヲサ(長)」を動詞化したものといわれ、本来、統率安定させる意を持ったものと考えられる。類語の「しる(領)」、「すぶ(統)」とは異なり、対象をしかるべき静態的位置・状態に置くという意味あいをふくむ。この「ヲサ」の原義が拡大し、広範囲に使われると、(一)②以下の用法となり、また、安定してものなどをしかるべき所にもたらす、落ち着けるべき所に落ち着けるというふうに発展すると(二)の用法となる。

おさま・る をさまる【治・修・納・収】

〘自ラ五(四)〙
[一] (治・修・収) 物事が安定した状態になる。ととのった状態になる。
① 乱れや騒ぎなどがしずまる。
(イ) 平穏な状態になる。平和が保たれる。
※書紀(720)雄略二三年八月(前田本訓)「百姓乂(ヲサマリ)(やす)く、四夷(よものひな)の賓服(まうできしたが)ふ」
※徒然草(1331頃)一四二「世をさまらずして、凍餒(とうたい)の苦しみあらば、とがの者絶ゆべからず」
(ロ) 乱れ、騒ぎなどがおだやかにかたづく。
※歌舞伎・毛抜(1742)「短冊は出る、御家は納(ヲサマ)る、姫君の御病気は平癒する」
※浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉二「お前さんさへ我(が)を折れば、三方四方円く納まる」
(ハ) 風雨、波、寒暑などが激しくなくなる。しずまる。
※大慈恩寺三蔵法師伝院政期点(1080‐1110頃)一〇「邪風ここに頓かに戢(ヲサマリ)
※十六夜日記(1279‐82頃)「八嶋の外の よつのうみ 波もしづかに おさまりて」
② 苦痛などがしずまる。病気がなおる。
※秋成本落窪(10C後)二「いみじく痛き程は、起きて押へたるなむ、少しをさまる心地する」
③ 乱れた気持がしずまる。落ち着く。
※源氏(1001‐14頃)賢木「たれもたれも、ある限り心おさまらぬほどなれば、おぼす事どももえうちいで給はず」
④ 行ない、態度、心などがととのってよくなる。
※源氏(1001‐14頃)若菜上「れいの、ことにおさまらぬけはひどもして」
※いさなとり(1891)〈幸田露伴〉七九「美男だけに伝太の品行(みもち)(ヲサマ)らず」
[二] (収・納) 物が整頓された状態で中にはいる。また、物事があるべき所に落ち着く。終わりになる。
① (物や金銭などが)受け取られる。納入される。「税金が納まる」 〔日葡辞書(1603‐04)〕
※父の婚礼(1915)〈上司小剣〉四「手付けは三年も昔に納(ヲサマ)ったるんやもん」
② ある範囲内に全部が残らずはいる。また、神仏などが、ふさわしい場所に位置を占める。
※百座法談(1110)六月一九日「仏舎利は龍宮にこそおさまり給ふなれ」
③ もとあった所にきちんとはまる。「もとの鞘(さや)におさまる」
※浄瑠璃・用明天皇職人鑑(1705)一「ますらが左の眼の玉、光とともに飛帰り、もとの眼に治りしは、ただ流星のごとくなり」
④ 外に現われ出たものがひっこむ。消える。弱まる。
※源氏(1001‐14頃)帚木「月は有明にて光おさまれるものから」
※旅日記から(1920‐21)〈寺田寅彦〉二「涼しい風が吹いて汗が収まった」
⑤ 物事が無事にすむ。終わりになる。決着がつく。
※増鏡(1368‐76頃)一「又奉れるにも、なに事とかやありて、三度奏して後こそおさまりにけれ」
⑥ 生命の活動が停止する。死ぬ。
※落語・思案の外幇間の当込み(1889)〈三代目三遊亭円遊〉「眼と鼻の間を殴られちゃア一遍で絶息(ヲサマ)っちまひますが」
⑦ (比喩的に) うまくあてはまる。適当する。似つかわしい状態である。
※滑稽本・浮世床(1813‐23)初「『てめへの面(つら)で幽霊はをさまらねへ』『あれは音羽やの様に好(いい)男でなくっちゃアはへねへ』」
⑧ 歌舞伎のト書き用語。鳴り物などとともに、俳優の所作、舞台転換などの一連の動きが終わることをいう。
※歌舞伎・名歌徳三舛玉垣(1801)三立「ト是より下座へ取、楽の入たる誂への所作に成(なる)。両人面白き振(ふり)有って、めでたけれと納る」
⑨ 歌舞伎で、俳優が奥役から交渉された役を承諾する。
※南水漫遊拾遺(1820頃)四「納る、得心」
⑩ (⑨から転じて) 物事を承知する。納得する。
※当世花詞粋仙人(1832)「承知するしゃうちせん、おさまるおさまらん」
⑪ ある地位や状態に満足して落ち着く。ゆうゆうと落ち着いている。
※都会の憂鬱(1923)〈佐藤春夫〉「自分の目の前に結城紬(ゆふきつむぎ)を二枚重ねて納ってゐるこの男を」

おさめ をさめ【治・修・納・収】

〘名〙 (動詞「おさめる(治)」の連用形の名詞化)
[一] (治・修) ものごとを安定した状態にすること。
① 国などを統治すること。
※史記抄(1477)一二「国をば治めせいで死士を養ば仇にならうぞ」
② 自分の行ない、心などを整え正すこと。
※仮名草子・身の鏡(1659)上「生れつきに科(とが)はあらじ、身の修(ヲサ)めなき故なるべし」
[二] (納・収) 物をきちんと中にしまい入れること。また、ある行為や状態を終わらせること。
① ある場所にしまい入れること。収納。多く名詞に付けて、「蔵納め」のように用いられる。〔コリャード羅西日辞書(1632)〕
② 取り入れること。収穫。多く名詞に付けて「秋収め」のように用いられる。
③ 受け取り手にさし出すこと。納入。多く名詞に付けて「月納め」のように用いられる。
④ 自分の領地から取り立てる高(日葡辞書(1603‐04))。
⑤ 物事を終わらせること。最後。仕上げ。名詞や動詞の連用形に付けて「仕事納め」「し納め」「見納め」のように用いられる場合もある。
※宇治拾遺(1221頃)一「此のたび、俄(にはか)にて、おさめの手も、わすれ候ひにたり」
⑥ 「おさめ(納)の杯」の略。
※二人女房(1891‐92)〈尾崎紅葉〉中「一盃の酒に親子三人の涙を酌交して、納(ヲサメ)を父親に献(さ)し」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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