久保栄(くぼさかえ)の戯曲。2部7幕。1937年(昭和12)12月に第1部(4幕)、翌年7月に第2部(3幕)が『新潮』に発表され、同月新潮社より刊行。38年6月新協劇団が築地(つきじ)小劇場で久保演出により初演。プロレタリア演劇運動解体後ではあったが、演劇運動そのものがまだ大きなエネルギーをもっていた時代に上演され、「日本人と真正面から関係を結ぼう」(野間宏(のまひろし))とした戦前最後の戯曲で、観客に与えた衝撃は大きく、多くの人に絶賛された。
初め十勝(とかち)地方の炭焼き一家を中心に構想されたが、たび重なる実地踏査を経て、50余名が登場する大作となった。1930~37年までの日本現代史の激動期を背景に、十勝の亜麻(あま)生産と肥料を研究する科学者雨宮を主軸に、農民や炭焼きたちの生きるための闘いを描き、肥料会社や農業組合の抱える矛盾を明らかにし、他方で作者の個的な苦悩(妻子との別離)をもひそかに書き込んでいる。久保独自の理論である「科学理論と詩的形象の統一」を目ざして、「つくる喜びと生きる呪(のろ)い」を込めた重い主題を詩情豊かに表現した戯曲である。
[井上理恵]
『『久保栄全集3』(1961・三一書房)』
久保栄の戯曲。2部7幕。1937-38年(昭和12-13)《新潮》に発表,38年新潮社刊。久保の演出で同年新協劇団初演。リアリズム演劇のみならず,戦時下抵抗芸術の最高峰と評価された。北海道十勝平野の火山灰土への不在地主や資本の浸潤と科学技術発展の経路を客観的にとらえ,そこに日本農業のはらむ普遍的問題をえぐり出した。妻の父でもある師の説にそむき学問と生産の正しい関係を追求する科学者の良心が,国策を背景とする資本とぶつかるという主筋に,地主と農民,炭焼き,木工場の白系ロシア人や学生など多彩な群像を織りなし,家庭悲劇や農民運動の残照をも描き出している。その抵抗の潜熱により知識人観客層に強烈な感銘を与えた。
執筆者:小笠原 克
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…東部の十勝川河畔には日本で唯一というモール泉(植物性)の十勝川温泉が,北部の駒場には広大な敷地の農水省十勝種畜牧場(1910開設)があり,観光客も多い。久保栄の戯曲《火山灰地》の舞台となった地で,文学碑もある。【奥平 忠志】。…
※「火山灰地」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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