九州のほぼ中央,阿蘇火山西麓の熊本(肥後)台地およびそこから西方有明海(島原湾)に向かって広がる沖積低地からなる平野。面積約775km2で,筑紫平野に次いで九州第2の広さをもち,中心に白川をはさんで熊本市の市街地が発達する。この平野は台地が約7割を占めることが特徴で,台地面は,標高100m,30~40m,10mの3段に分かれて沖積低地に臨む。台地の末端には水前寺,江津湖,八景水谷(はけのみや)などの湧水帯があり,公園や上水道の水源になっている。おもに阿蘇火砕流の堆積物からなる台地は表層が黒色ローム,赤土,下層が軽石,火山礫(れき)などである。台地上に神園(こうぞの)山,小山山,戸島山など中生代白亜紀の岩質からなる丘陵が島状に点在し,西部にはおもに安山岩質の集塊岩からなる自然公園の立田山丘陵がなだらかに横たわっている。
沖積低地の北部は白川を中心に井芹(いせり)川,坪井川,南部は緑川を中心に加勢川,御船(みふね)川,浜戸川の流域からなっている。低地北部は阿蘇火山灰を主とした堆積作用が盛んで,白川流域には自然堤防がよく発達し,旧水路,道路,集落などが立地している。海岸からほぼ2km以内は藩営を中心とした近世の干拓地で,御内家開,御一門開,手永開(てながびらき)など大規模なものが多い。これらの干拓地は慶長年間(1596-1615)加藤清正が創設したと伝えられる渡鹿(とろく)堰(白川から取水),六間石樋(加勢川から取水)やその後の天明新川,1936年建設の白川補給水によって灌漑され,メロン,スイカ,トマト,ナスなどの施設園芸や野菜づくりが盛んである。
台地の開発は,16世紀末白川から取水して加藤清正の築造したという瀬田下井手,17世紀の初め細川時代に完成した瀬田上井手に始まる。近世初頭細川氏肥後入国のとき,台地の黒石,堀川,津久礼などに屯田兵として下級武士を入植させ,熊本城の防衛に当たらせた。台地上ではその後も水不足に悩まされたが,第2次世界大戦後の1965年ころ始まった台地の深層地下水の揚水によって解消した。以後開田が進み,畑地灌漑がいきわたってそれまで陸稲,サツマイモ,雑穀などやタバコを主としていた畑作は,スイカ,メロンなどのハウス施設園芸や酪農,養鶏などを組み合わせた近郊型農業に変わった。また近年電機,オートバイなどやその関連の企業が内陸や空港周辺に立地する一方,熊本市とその周辺に住宅団地が次々に建設され,都市化が進んでいる。かつて一部にナラ,クヌギなどの茂っていた黒石原の雑木林もその面影を失いつつある。
執筆者:岩本 政教
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九州のほぼ中央にある平野。地形区分では、狭義の熊本平野である熊本低地を中心に、広義の場合に加える北の菊池平野(玉名平野)、菊鹿盆地(きくかぼんち)(菊池盆地)、隣接の肥後台地(ひごだいち)のほかに、南の八代平野(やつしろへいや)も含める。面積約775平方キロメートル、九州第二の熊本平野と称する場合には、沖積層からなる熊本低地と、段丘礫(れき)層からなる肥後台地とに限る。熊本県人口の42%強が居住し、産業、文化、行政の中心地となっている。熊本低地の北半は白川、井芹川(いせりがわ)、坪井川などの、南半は緑川、加勢川(かせがわ)、浜戸川(はまどがわ)などの河川堆積(たいせき)物によって形成されたもので、それぞれの地先に18世紀以降の干拓地を伴っている。北から東の肥後台地との境界部には豊富な湧泉(ゆうせん)があるほか、海岸に至るまで各所に自噴泉がみられ、一部は上水道水源に利用されているほか、水田、花卉(かき)、養殖など多目的に活用されている。他方、阿蘇(あそ)火山起源の堆積物が覆って形成された肥後台地には、堆積環境の異なりからか、群(むれ)山、戸島(としま)山、神園(こうぞの)山などに代表される中生代白亜紀岩質の小山が点在しているほか、台地面も大まかに標高10メートル前後、40メートル前後、100メートル前後の3段に分かれている。いずれの表層も黒色ローム、赤土で、深層地下水の揚水が普及するまでは桑園・雑穀地帯であったが、現在は水稲、スイカ、メロンの施設園芸、乳牛、肉牛、ブタ、ニワトリなどの畜産が多様な組合せで行われている。しかし、熊本市ならびにその周辺地域への人口集中が衰えないうえ、高度技術工業集積地域開発促進法(1983~1998年)による地域指定も加わって、県下ではもっとも農地潰廃(かいはい)(宅地化・工業化による)の進行している台地となっている。
[山口守人]
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