(読み)チョウ

デジタル大辞泉 「牒」の意味・読み・例文・類語

ちょう【牒】[漢字項目]

人名用漢字] [音]チョウテフ)(漢)
書き付け。書きもの。「牒送移牒通牒度牒符牒

ちょう〔テフ〕【×牒】

文字を書き記す札。簡札
律令時代公文書形式の一。主典さかん以上の官人諸司に出すもの。また、所属系統の異なる官庁機関の間で交わす文書
文書による通告。また、その文書。
「各兵を出して―を通はす」〈今昔・二五・三〉

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精選版 日本国語大辞典 「牒」の意味・読み・例文・類語

ちょうテフ【牒】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「ぢょう」とも )
  2. 文書を書きつけるうすい木のふだ。また、そのかきつけ。ふつうの紙に書くかきつけをいうこともある。簡札。
    1. [初出の実例]「最澄上人は六宗の人々の所立一々牒を取りて」(出典:日蓮遺文‐報恩抄(1276))
    2. [その他の文献]〔春秋左伝‐昭公二五年〕
  3. 古文書様式の一つ。互いに所管・被管関係のない官司、または官司に準ずる所の間でとりかわす文書。太政官と寺社の間の太政官牒(略して官牒)は牒の代表的なものである。ふつう太政官牒を典型とし、これに準ずる様式の図牒・符牒、あるいは家牒・院庁牒・女院庁牒・蔵人所牒・検非違使庁牒・雑訴決断所牒などの相互文書を広く牒と総称している。〔令義解(718)〕
  4. 文書で通告すること。また、その文書やその使い。
    1. [初出の実例]「各(おのおの)(つはもの)を出して牒を通はす。其兵の返る時に、定れる事にて箭(や)を射懸(かけ)ける也」(出典:今昔物語集(1120頃か)二五)

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普及版 字通 「牒」の読み・字形・画数・意味


人名用漢字 13画

[字音] チョウ(テフ)
[字訓] ふだ・かきもの

[説文解字]

[字形] 形声
声符は(よう)。に喋・蝶(ちょう)の声がある。は木の葉。木の葉のようにひらひらするものをいう。〔説文〕七上に「札なり」とあり、竹簡・木簡の類をいう。〔論衡、量知〕に「竹を截(き)りてと爲し、破りて以て牒と爲し、筆の迹を加へ、乃ちを爲す」とあり、紙が生産される以前は、おおむねこの種のものであった。書状・書類の意に用いて、牒状・牒牘という。

[訓義]
1. ふだ、木や竹の薄片、文書をしるすのに用いた。
2. かきもの、官の文書、通牒、辞令、記録、証明、上申書、訴訟の書類など。
3. 系譜、誓約書、名簿など。

[古辞書の訓]
〔新字鏡〕牒 布弥太(ふみた)〔立〕牒 コラス・タタム 〔字鏡集〕牒 タタム・フンタ・マウス

[語系]
牒dyap、(葉)jiapは声近く、ひらひらするような薄片のものをいう。また札tzheatもこの系統の語である。

[熟語]
牒案・牒挙・牒書・牒照・牒状・牒籍・牒訴・牒送・牒牘・牒譜・牒文・牒報
[下接語]
按牒・移牒・家牒・戒牒・官牒・簡牒・記牒・玉牒・軍牒・獄牒・史牒・書牒・条牒・牒・族牒・勅牒・陳牒・通牒・逓牒・度牒・符牒・譜牒・文牒・編牒・簿牒

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改訂新版 世界大百科事典 「牒」の意味・わかりやすい解説

牒 (ちょう)

文書様式の一つ。

(1)公式令では上申文書の一形式として,律令制官人の主典(四等官制の四等官)以上の者が諸官司に上申する場合に用いるものとして,牒を定めた。たとえば欠勤するときに届けでる仮文(けもん)もこの様式によった。はじめ高位高官の者でも自筆で書くべきものであったが,804年(延暦23)9月23日の官符によって,四品以上の親王・内親王および三位以上の職事官は家司の書いたものでも認められるようになり,家牒を成立させた。この家牒は荘園制の発展にともない,(2)の用法に使われるようになった。

(2)公式令の規定で僧綱(僧尼の管理機関),三綱(寺院の寺務機関)と官司とがとりかわす文書を牒といった。ただし文書の様式は公式様文書のなかで互通文書といわれた〈移〉の様式を用いて〈〉の文字を〈牒〉にかえて発するものであった。太政官から寺院への太政官牒が多く残されている。蔵人所,記録所など令制にない新設の役所は官司間の上下関係がはっきりしないところから,僧綱以外の官司あてでもこの牒の様式を用いた。後醍醐天皇親政時の雑訴決断所が発した牒の中には下達文書としてのものもあった。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「牒」の意味・わかりやすい解説


ちょう

古文書の一様式。直接の上下関係にない機関と機関の間で取り交わされる。養老公式令(ようろうくしきりょう)は、〔1〕主典(さかん)以上の官人個々が諸司に差し出す場合、〔2〕僧綱(そうごう)・三綱(さんごう)などの寺院機関と諸司の間で用いる場合、の二つを用法としてあげているが、律令制の文書システムにおいては、牒は傍流の存在であった。しかし、律令制解体期において、蔵人所(くろうどどころ)や検非違使庁(けびいしのちょう)などの令外官司(りょうげのかんし)や貴族の家政機関が活発に「蔵人所牒」「家牒」などを発給し、文書様式としての牒の位置は増大した。このため、中世に入っても牒の利用例は多く、記録所牒、雑訴決断所(ざっそけつだんしょ)牒から、在地の荘園政所(しょうえんまんどころ)の牒まで、さまざまな例が残されている。これは、牒が、官僚制的上下関係の不明瞭(めいりょう)な中世社会に適合的であったためといえよう。

[保立道久]

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「牒」の解説


ちょう

公式令(くしきりょう)に定める文書様式。養老公式令では内外の主典(さかん)以上の官人が諸司に上申する文書の形式。書出文言は「牒」,書止文言は「謹牒」で,年月日の下に官人が「官位姓名牒」と署した(三位以上は名を略す)。大宝公式令での存否は不明。実例はほとんど残らず,772年(宝亀3)8月11日の出雲国員外掾大宅朝臣船人牒(「薬師院文書」)などのまれな例でも,「謹牒上」の書出・書止文言であるなど,公式令の書式とは異同がある。実際の官人個人の上申文書としては,奈良時代以来,解(げ)の形式の文書が多く用いられた。別に僧綱(そうごう)・三綱(さんごう)が俗官と相互に文書伝達を行うとき,「移」を「牒」の文字におきかえて移の書式を用いた移式準用の牒もあった。

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百科事典マイペディア 「牒」の意味・わかりやすい解説

牒【ちょう】

律令制下の公文書。官司から官司に準ずる所,または官司でない所に出す文書。日付の下と日付の次行とに文書取扱者の署名があり,書き止めは〈以牒(もってちょうす)〉〈故牒(ことさらにちょうす)〉と記す。平安時代以後太政(だいじょう)官から寺院に対しては多く太政官牒が出された。
→関連項目古文書

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「牒」の意味・わかりやすい解説


ちょう

律令制下,主典 (さかん) 以上の官吏が役所に申達する際に用いる文書および役所と寺院関係機関との間で取りかわす文書の様式と規定されていたが,役所と寺院関係との間および上下支配関係の明確でない役所間で多く用いられた。太政官牒,蔵人所牒,社寺牒などがある。

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旺文社日本史事典 三訂版 「牒」の解説


ちょう

古代,官庁間の公文書の一形式
直接の上下関係がない官庁の間,または官庁に準ずるところから官庁でないところへ出す文書などに用いられた。主典 (さかん) 以上のものが官庁に出す公文書も牒という。

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【古文書】より

…(c)(ふ)は所管(上級の役所)から被管(下級の役所)に下す公文書であり,(d)(げ)は被管から所管への上申文書である。(e)(い)は対等の役所間に交わされる文書で,(f)(ちよう)は本来は主典以上の役人が役所へ申達する文書であるが,後には役所から役所に準ずる所に出される文書として用いられた。これら公式様文書には,共通するいくつかの特色がみられるが,いずれも発給手続が複雑で,すべて楷書で書かれている。…

※「牒」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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