出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
文書様式の一つ。
(1)公式令では上申文書の一形式として,律令制官人の主典(四等官制の四等官)以上の者が諸官司に上申する場合に用いるものとして,牒を定めた。たとえば欠勤するときに届けでる仮文(けもん)もこの様式によった。はじめ高位高官の者でも自筆で書くべきものであったが,804年(延暦23)9月23日の官符によって,四品以上の親王・内親王および三位以上の職事官は家司の書いたものでも認められるようになり,家牒を成立させた。この家牒は荘園制の発展にともない,(2)の用法に使われるようになった。
(2)公式令の規定で僧綱(僧尼の管理機関),三綱(寺院の寺務機関)と官司とがとりかわす文書を牒といった。ただし文書の様式は公式様文書のなかで互通文書といわれた〈移〉の様式を用いて〈移〉の文字を〈牒〉にかえて発するものであった。太政官から寺院への太政官牒が多く残されている。蔵人所,記録所など令制にない新設の役所は官司間の上下関係がはっきりしないところから,僧綱以外の官司あてでもこの牒の様式を用いた。後醍醐天皇親政時の雑訴決断所が発した牒の中には下達文書としてのものもあった。
執筆者:飯倉 晴武
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古文書の一様式。直接の上下関係にない機関と機関の間で取り交わされる。養老公式令(ようろうくしきりょう)は、〔1〕主典(さかん)以上の官人個々が諸司に差し出す場合、〔2〕僧綱(そうごう)・三綱(さんごう)などの寺院機関と諸司の間で用いる場合、の二つを用法としてあげているが、律令制の文書システムにおいては、牒は傍流の存在であった。しかし、律令制解体期において、蔵人所(くろうどどころ)や検非違使庁(けびいしのちょう)などの令外官司(りょうげのかんし)や貴族の家政機関が活発に「蔵人所牒」「家牒」などを発給し、文書様式としての牒の位置は増大した。このため、中世に入っても牒の利用例は多く、記録所牒、雑訴決断所(ざっそけつだんしょ)牒から、在地の荘園政所(しょうえんまんどころ)の牒まで、さまざまな例が残されている。これは、牒が、官僚制的上下関係の不明瞭(めいりょう)な中世社会に適合的であったためといえよう。
[保立道久]
公式令(くしきりょう)に定める文書様式。養老公式令では内外の主典(さかん)以上の官人が諸司に上申する文書の形式。書出文言は「牒」,書止文言は「謹牒」で,年月日の下に官人が「官位姓名牒」と署した(三位以上は名を略す)。大宝公式令での存否は不明。実例はほとんど残らず,772年(宝亀3)8月11日の出雲国員外掾大宅朝臣船人牒(「薬師院文書」)などのまれな例でも,「謹牒上」の書出・書止文言であるなど,公式令の書式とは異同がある。実際の官人個人の上申文書としては,奈良時代以来,解(げ)の形式の文書が多く用いられた。別に僧綱(そうごう)・三綱(さんごう)が俗官と相互に文書伝達を行うとき,「移」を「牒」の文字におきかえて移の書式を用いた移式準用の牒もあった。
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…(c)符(ふ)は所管(上級の役所)から被管(下級の役所)に下す公文書であり,(d)解(げ)は被管から所管への上申文書である。(e)移(い)は対等の役所間に交わされる文書で,(f)牒(ちよう)は本来は主典以上の役人が役所へ申達する文書であるが,後には役所から役所に準ずる所に出される文書として用いられた。これら公式様文書には,共通するいくつかの特色がみられるが,いずれも発給手続が複雑で,すべて楷書で書かれている。…
※「牒」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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