俳諧撰集。宗鑑(そうかん)編。慶長(1596-1615)ころ刊。1冊。《新撰犬筑波集》の略称で,《菟玖波集(つくばしゆう)》などの連歌撰集に対して卑俗な俳諧の連歌の撰集の意。宗鑑編纂当時の書名は《誹諧連歌抄》《誹諧連歌》であったことが確実で,1524年(大永4)ころから40年(天文9)ころまでの間に編纂されたと推定される。逐次改編増補されたらしく,古写本は伝本によって内容の異同がはなはだしい。収録句の作者名はすべて無記名で,なかには宗祇,宗長,宗碩(そうせき),兼載などの著名な連歌師の作品や,守武(もりたけ)および編者宗鑑自身の作品も含まれているが,大半は作者不明のままであり,《新撰菟玖波集》成立(1495)後まもない当時の俳諧の盛行ぶりを推察するに足る。俳諧の撰集としては1499年(明応8)成立の《竹馬(ちくば)狂吟集》(編者不明)に次ぐが,一般に流布して俳諧の独立に寄与するとともに表現の題材や技法の面で後世に大きな影響を与えた点については《守武千句》とともに筆頭にあげられ,たとえば貞徳は批評書《新増(しんぞう)犬筑波集》を刊行している。部立は勅撰集以来の四季・恋・雑を踏襲しているが,雑の部が過半を占めることは,この書物における人事重視の傾向の一端を示しており,〈忍ぶとすれど声のたかさよ 春日野の若紫のすりこ鉢〉〈今朝のお汁の鳥はものかは いつ食ふも飽かぬはかれの鱠(なます)にて〉のような和歌のもじりや縁語仕立てによる転換の妙,〈内はあかくて外はまつくろ 知らねども女のもてる物に似て〉のような放埒さ,〈夫婦ながらや夜を待つらん まことにはまだうちとけぬ中直り〉〈切りたくもあり切りたくもなし ぬす人をとらへてみればわが子なり〉のような一種のうがちなど,のちの貞門俳諧から談林俳諧を経て川柳に至るまでの近世の笑いの多くが,すでにここに胚胎しているといえよう。
執筆者:光田 和伸
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室町後期の俳諧(はいかい)集。宗鑑(そうかん)編。1530年前後(享禄・天文初年)に成る。書名は、宗鑑自筆本や古写本には「誹諧連歌抄(れんがしょう)」などとあり、江戸初期の刊本に至って『新撰(しんせん)犬筑波集』と題された。主として編者と同時代人の発句(ほっく)、付句(つけく)を収録した撰集で、室町時代の俳諧を知る文献として『守武(もりたけ)千句』と双璧(そうへき)をなす。編者は卑俗、滑稽(こっけい)という俳諧の本質にかなった傑作を精選したらしく、そこには、技法的にみれば縁語、掛詞(かけことば)、もじり、比喩(ひゆ)見立て、非論理反常識などの言語機知による笑いがあり、素材的にみれば卑俗語の自由な使用や、卑猥(ひわい)、不道徳による闊達(かったつ)な笑いが満ちて、日本語による滑稽表現のあらゆる可能性がすでに出尽くしている観さえある。
[今 栄蔵]
『鈴木棠三校注『犬つくば集』(角川文庫)』
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室町時代の俳諧句集。宗鑑(そうかん)撰。1530年(享禄3)前後の成立。書名は「新撰犬筑波集」の略称で,古写本には「誹諧連歌抄」などとみえる。「犬」は連歌の「新撰菟玖波集(しんせんつくばしゅう)」に対する俳諧としての卑称。俳諧撰集としては1499年(明応8)成立の「竹馬狂吟集」についで古く,写本・古活字本・整版本として広く流布。諸本によって句数や本文に異同が多い。大部分の句の作者は不明だが,他の史料により宗祇(そうぎ)・宗長・兼載・宗鑑らの作と知られる句もある。作風は和歌的優美さを付句(つけく)で卑俗に逆転したり,卑猥な描写をよみこんだ句が多い。「古典俳文学大系」所収。
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