強制履行の執行方法の一つで、債務者の意思とは関係なく執行機関が債務者の財産に直接権力を加えて、給付内容の実現を図るもの(民法414条1項)。たとえば、金銭債権について、債務者の財産を換価し、これを債権者に与えたり、あるいは、動産・不動産の引渡しまたは明渡しを目的とする債権について、債務者の占有を解いて債権者の占有に移すなどである。直接強制による執行方法においては、国家権力が直接的に発動されるが、その反面として債務者が執行に積極的に協力することが要求されないので、債務者の身体や意思が圧迫されることが少なく、人格尊重を理想として人的執行を排除した近代法の精神にかなった方法といえる。現行法も、金銭債権の執行(民事執行法43条以下)、不動産または人の居住する船舶の引渡しまたは明渡しを求める債権の執行(同法168条)、特定の動産の引渡しを求める債権の執行(同法169条)、第三者の手中に存する目的物の引渡しを求める債権の執行(同法170条)は、この原則的な直接強制の方法によっている。
執行方法からみた強制履行の分類として、直接強制、代替執行、間接強制の3種がある。この3種の相互関係は、まず直接強制が原則的執行方法であり、直接強制ができない代替的作為不作為義務の執行の場合には、代替執行(民法414条2項、民事執行法171条)により、さらに代替執行も不可能な不代替的作為不作為義務執行の場合に初めて間接強制(民事執行法172条)が許されるとするのが通説である。
[内田武吉]
行政機関が直接的・物理的方法で義務者の身体・財産に実力を加え、義務に適合した状態を実現するための行政強制手段。第二次世界大戦前の旧行政執行法ではこれを一般的に認めていたので、たとえば営業停止命令違反の営業所を実力で閉鎖することなどが認められていた。しかし、この制度はあまりに包括的で、人権侵害を招くので、戦後は一般的に廃止され、例外的に、検疫法による患者などの隔離・停留(経過観察のために一定期間隔離すること)の例がみられるにすぎない。
[阿部泰隆]
(1)民事執行において,執行機関が債務者の財産に対して実力を行使し,直接に請求権内容を実現する強制執行をいい,代替執行や間接強制と区別する。直接強制は,請求権実現の手段として最も効果的であり,債務者の身体や意思に圧迫を加えない点で人格尊重の理念に適合するから,近代における執行手続の原則的方法とされ,現行法上,金銭債権の執行(民事執行法43~167条),不動産,人の居住する船舶等の引渡し・明渡しの執行(168条),動産引渡しの執行(169条)が直接強制によって行われる。
(2)行政上の強制執行のうち,作為,受忍,不作為の義務内容を実現するため,人の身体や財産に実力を加えて,義務が履行されたのと同様の状態を実現するもので,代執行以外のものをいう。現行法上,人権尊重のため,直接強制は一般的な形では認められず,特別法でわずかに認められるにすぎない(例えば,精神保健福祉法29条以下の規定による入院措置)。
→強制執行
執筆者:広岡 隆
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…(2)非金銭執行は,以上に比較すると,実現されるべき請求権が種々であるだけに,執行の方法にも特色がある。物の引渡執行では,執行官が強制的に占有を移転させることが可能であるが(168条,169条),作為義務の執行では,債務者の人身の自由という視点から,直接強制は不適当とされる。そこで,代替性のある作為義務については,代替執行の方法がとられるし,非代替義務の場合には,債務者に金銭の支払いを命じることによって間接的に履行を強制するという,間接強制の方法が適している。…
※「直接強制」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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