蔓脚亜綱Cirripediaに属する甲殻類の総称。海産で,成体が固着生活をし,剛毛を密に生じた蔓脚(つる状に変形した胸脚,つるあし)をもち,つるあし類とも呼ぶ。背甲は体と肢を包む外套(がいとう)に変わり,その外面に石灰質の殻板を分泌し,補強されている。第1触角は広い殻底または肉質の柄部の先にあって固着器となる。第2触角はふつう退化し,消失している。前体部は頭胸部に当たり,体の分節は不完全。ちょうど,エビが頭を基盤につけ,逆立して,頭胸部を後方に強くそり返らせたような形をとっている。したがって,口器と6対の2枝形の蔓脚が前体部の上面についている。複眼はない。腹部に当たる後体部は退化し,痕跡的となり,無肢,末端に1本の尾叉(びさ)をもつ。
多くは雌雄同体。寄生生活をする種類では,程度に応じ,体制に退化と変化を生じ,幼生をみないかぎり甲殻類の仲間とは考えられないほどになったものもある。卵はノープリウスで孵化(ふか)する。ノープリウスには逆三角形状の背甲があり,その前側角に各1棘(きよく)と尾端に1尾棘,尾棘下に2枝状の腹突起がある。メタノープリウスを経て,この類に特有なキプリスCypris幼生となる。これは初め自由浮遊生活をしているが,のちに他物に付着し,脱皮と同時に変態して,成体になり固着,あるいは寄生生活に入る。
約900種が知られ,4目に分類される。(1)完胸目Thoracica 成体が6対の蔓脚をもち,体は殻板をもつ外套に包まれている。岩石などのほか,動物の骨格,体表にも固着し,カニの鰓腔(さいこう)やサメの皮膚などに埋もれて共生生活するものもある。柄部の有無,殻板の配列などによって次の3亜目に分類される。(a)エボシガイ亜目Lepadomorpha 成体の体は頭状部と肉質の柄部とに分かれている。300種以上で,カメノテ,ミョウガガイ,エボシガイがある。(b)ハナカゴ亜目Verrucomorpha 成体は一見フジツボのようだが,周殻板の配列はフジツボと異なり左右不相称。柄部はない。深海に広く分布し,巻貝や海綿などの骨格に着生する。約60種以上。(c)フジツボ亜目Balanomorpha 4~8枚の周殻板が癒合して円錐状の周殻をつくる。それらの配列は左右相称的。イワフジツボ,クロフジツボなど約300種が知られる。
(2)尖胸目Acrothoracica 成体は巻貝の殻やイシサンゴ類に穿孔(せんこう)し,共生する。外套には殻板がなく,蔓脚も退化的で数も少ない。最大約2cm。ルリツボムシ,ハベヤドカリツボムシなど約30種。
(3)囊胸目Ascothoracica 成体は六放サンゴ類(イシサンゴ,スナギンチャクなど)や棘皮動物(ウミユリ,ヒトデ,クモヒトデなど)の外部および内部寄生虫。体を包む外套は二枚貝状の袋形に,あるいは樹枝形などに変形しているものがある。キンチャクムシ,ウミユリヤドリムシ,オカダシダムシなどが知られている。
(4)根頭目Rhizocephala おもに十脚甲殻類の腹部などに寄生する袋状の寄生虫。フクロムシなど200種以上が知られる。
蔓脚亜綱にはもう一つ無脚目Apodaというのがあった。進化論で有名なC.ダーウィンは蔓脚類の研究も熱心に行った。大英博物館にはそれらの標本が今もたいせつに保存されている。彼は西インド諸島産のエボシガイの1種Alepas coronataの外套腔に寄生していたうじ虫状の寄生虫を見つけ,研究の結果Proteolepas bivinctaと命名,口器はあるが,胸脚がまったくないなど,奇異な特徴が見られるとして,蔓脚亜綱中にとくに無脚目を創設してこれに属させたが,それ以来再度発見されなかった。しかし,近年,フランスのボケ・ベルドリーヌBocquet-Verdrine(1972)は地中海,北部大西洋産の直径3cmくらいのフジツボ,Balanus perforatusに寄生しているCrinoniscus equitansを詳しく研究した結果,この寄生虫の生活史上のある時期の形態が無脚類とされたものにまったくよく一致することを突き止めた。これによって久しく存在に疑問をもたれた無脚類は学問上消滅することとなった。
執筆者:蒲生 重男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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