ヨムという動詞は,今日では,書かれた文字を見て,それを声に出して言うことや,その意味や内容を理解することをさし,〈読〉の漢字をあてるのが普通だが,このような意味をもつに至るには文字の使用と普及が必要であった。ヨムは古くは数えることを意味していて,例えば《万葉集》に〈時守(ときもり)の打ち鳴(な)す鼓よみみれば〉〈月日よみつつ〉〈幾夜経(ふ)とよみつつ〉などのように,継起するものごとを,ひとつひとつ繰るように数えることを意味したらしい。《万葉集》には〈波よまずして〉のように波の間の距離を計る意味で用いられている例もあるが,これは上記の数えるの意味の転用であろう。ちなみに,カゾエルの原義は指を折って計算する意であったといわれている。《日葡辞書》に〈目をよむ〉の用例があって,〈よむ〉を〈かぞゆる〉としても同意であることを注記し,棹秤(さおばかり)で〈重さを知るために,その刻み目を数える〉意としており,江戸時代に入っても,〈銭をよむ〉などの例のようにヨムが数える意味で後世まで用いられたことがわかる。
ヨムはまた,詩歌,あるいは文章や経文を声に出して唱える意味に用いられる場合もあるが,それは1拍1拍の節奏や韻律単位を,まるで数を数えるようにたどりながら,はっきりと発音するところから,先の数える意のヨムが転用されたものであろう。〈読経(どきよう)/(どくきよう)〉というのもこの意味で,目で読んで意味をたどるだけなら,ミルといい,経文の場合には〈看経(かんきん)〉などといわれる。このようにヨムは注意深く念をおすといった語感を伴ってくるが,歌を作ることをヨム(詠)というのも,ひとつひとつの音節を注意深く数えるようにして歌を作り出すところから派生したものであろう。物語などを,特別な口調,抑揚,曲節などをつけて発話するのをカタルというが,ヨムも文字に書かれたものを音を出して言うところから,カタルに近づき,文字に書かれた物語や台本のある作品を声を出して読み上げることをもいうようになる。《太平記》なども中世にはカタルといわれたが,江戸時代に入ると話芸の発展などにつれ,ヨムといわれるようになり,いわゆる太平記読みがあらわれる。
→語り
執筆者:山本 吉左右
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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