平安時代の儀式・故実の書。〈さいぐうき〉とも読む。撰者は源高明(みなもとのたかあきら)。高明は914年(延喜14)醍醐天皇の皇子として生まれ,臣籍に下って源姓となり正二位左大臣に昇るが,969年(安和2)の安和の変により失脚,982年(天元5)に没した。その邸宅が平安京右京(西京)の四条北大宮東(錦小路南朱雀西とも伝える)にあったので,高明を西宮(にしのみや)左大臣と呼び,本書を《西宮記》または《西宮抄》という。本書の成立が失脚以前か以後かは不明だが,初稿本,再稿本など撰者はしばしば稿を改めたらしく,内容・構成を異にする異本が少なくとも3種存することが確かめられている。そのため巻数も一定せず,古書に記されたものに四巻本,十巻本,十五巻本,十六巻本などがあり,現存写本の巻数もまちまちである。その内容は〈恒例〉と〈臨時〉に大別され,〈恒例〉では正月から12月まで月を追って朝廷の儀式・行事が記述され,〈臨時〉では臨時の儀式・行事および政務のありかたが記されている。それぞれの項目は,〈本文〉と多数の頭書,傍書,裏書などの〈勘物(かんもつ)〉よりなる。もともと儀式・故実の書は,9世紀においては官撰の書として編せられたが,10世紀以降私撰のものがあらわれるようになった。本書は私撰の儀式書として今日に残る最も古いもので,これに続く《北山抄(ほくざんしよう)》(藤原公任撰),《江家次第(ごうけしだい)》(大江匡房撰)などのさきがけをなす。10世紀の朝儀を知るうえでの根本史料であるとともに,〈勘物〉に多数の逸書・逸文がみられることも,史料的価値をたかめている。代表的な古写本に,前田尊経閣文庫所蔵巻子本18巻(平安末~鎌倉写),同大永本9冊(1525年写),東山御文庫本3巻(平安末~鎌倉写),宮内庁書陵部所蔵壬生本17巻(室町初写,一部江戸新写)がある。《改定史籍集覧》編外,《新訂増補故実叢書》所収。
執筆者:早川 庄八
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「さいきゅうき」「せいきゅうき」ともいう。源高明(たかあきら)(914―982)著。年中恒例の公事(くじ)および臨時の儀式作法を解説した有職故実(ゆうそくこじつ)書。儀式書には、平安時代初期に『内裏式(だいりしき)』や弘仁(こうにん)、貞観(じょうがん)、延喜(えんぎ)3代の『儀式』など官撰(かんせん)のものがあったが、10世紀中ごろからの時勢の変遷により、儀式作法にも変化が生じ、既成の官撰書では現実に対応できなくなったために編纂(へんさん)された。したがって私撰ながら後世長く重んじられた。それゆえ写本も多いが、巻数は一定せず、平安時代末に四巻本、五巻本がみえ、あるいは十五巻本が最良といわれたが、江戸時代には二十六巻本などもみえる。これは、1巻を上下に分けたり、系統を異にするものをあわせたり、他書をも加えているためである。また書名も、著者の邸宅名の西宮にちなんで後人がつけたもので、『西宮日記』『西宮抄』ともよばれており、本書はまだ考究すべき点が多い。
[今江廣道]
平安中期の儀式書。源高明(たかあきら)撰。私撰の儀式書としては現存最古。10巻本・11巻本・15巻本・16巻本などがあったとされ,現存する写本の巻数も一定しない。これは撰者が稿を改めたことと,後人により補訂が加えられたためと考えられる。本文のほかに,勘物(かんもつ)・頭書・傍書・裏書が豊富で,「三代御記」「貞信公記」「九暦」「吏部王記」など多数の史料の逸文を引用。内容は,1~12月の朝廷における恒例の儀式・行事と,臨時の儀式・行事にわかれる。古写本は尊経閣文庫蔵巻子本(重文),宮内庁書陵部蔵壬生本,東山御文庫本などがある。「新訂増補故実叢書」「改定史籍集覧」所収。
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…高明は914年(延喜14)醍醐天皇の皇子として生まれ,臣籍に下って源姓となり正二位左大臣に昇るが,969年(安和2)の安和の変により失脚,982年(天元5)に没した。その邸宅が平安京右京(西京)の四条北大宮東(錦小路南朱雀西とも伝える)にあったので,高明を西宮(にしのみや)左大臣とよび,本書を《西宮記》または《西宮抄》という。本書の成立が失脚以前か以後かは不明だが,初稿本,再稿本など撰者はしばしば稿を改めたらしく,内容・構成を異にする異本が少なくとも3種存することが確かめられている。…
…平安時代になって朝廷の儀式典礼が盛大に行われるようになると,それに関する正確な知識が要求され,有職故実の学が発達し,有職書が編纂される。源高明《西宮記》,藤原公任《北山抄》,大江匡房《江家次第》はその代表的なもので,このなかには文書の作成発布に関する儀礼や慣習なども述べられている。これらは,この時代新たに成立した令外様文書に関する解説書といえる。…
…ことに朝儀,故実に精通し,一世源氏の尊貴さもあって朝廷に重きをなした。恒例,臨時の儀式,政務を記した著《西宮記(さいきゆうき)》は,以後の貴族政治における重要な典拠の一つとされ,現在も王朝政治・文化研究の貴重な史料である。彼は九条流の故実の祖である右大臣藤原師輔に信頼され,師輔は三女を彼の室とし,その女が没すると五女愛宮をその室とした。…
※「西宮記」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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