( 1 )もち米を蒸して作る強飯(おこわ)のうち、米だけの「白蒸し」は仏事に、「赤飯」は祝儀に用いる。赤飯が慶事に用いられる理由については、赤に厄除けの力があると信じられていたからとか、古代の米が赤米であった名残からなどといわれている。
( 2 )鎌倉末期の成立といわれる宮中の献立記録「厨事類記‐御膳部」には、端午、重陽などの節句に赤飯が供されたことが記されている。しかし、民間にこの習慣が広まったのは近世になってからである。
もち米にアズキやササゲを加えてつくる強飯(こわめし)の一種で,一般に〈おこわ〉ともいう。鎌倉末期の成立とされる《厨事類記(ちゆうじるいき)》によると,宮中では3月3日,5月5日,9月9日の節供の御膳に赤御飯,赤飯を進めるのが恒例になっていた。当時の赤飯の語が,もち米を用いたものだけを指したかどうか明らかでないが,江戸時代前期には強飯,赤飯ともにもち米のもののみをいうようになっていた。
赤飯に用いるアズキの量はもち米の10%程度。これを6~7倍の水で皮が破れないように煮て,煮汁をしたみとる。この煮汁は空気にさらしておくと色が鮮やかになるが,この半量を打水用にとっておき,残りの煮汁に洗った米を1晩つけて十分に吸水させる。蒸器やせいろうに水をきったもち米とアズキを入れ,強火で40~60分蒸す。この間10~15分間隔で,とり分けておいた煮汁をふりかけて打水をすると,色よく蒸し上がる。うるち米を30~50%混ぜてかまで炊くこともあり,これを〈たきおこわ〉と呼ぶ。赤飯は祝儀に使うことが多いので,アズキの皮の破れるのを腹切りに結びつけて忌み,皮の破れにくいササゲを使うことも多い。また,添えて出すゴマ塩は黒ゴマを用い,これも〈切る〉〈する〉を忌んで切りゴマ,すりゴマを避け,いっただけのゴマに塩を合わせて用いる。
→強飯
執筆者:松本 仲子
赤飯は民俗学上では,蒸す方法が炊く方法に先行するとされている。また現在では,白い飯は常食用とされ,赤飯は神祭や冠婚葬祭などのおりに,供え物や儀礼食とすることが一般である。白い米にわざとアズキをまぜて赤色の食品とするのは,白い飯よりも赤い色の飯が古い食品であったために,祭りや儀礼の供え物,食べ物として伝えられているのだというのが民俗学の仮説である。それでは赤い飯の先行形態はどうであったかについて,現在のところ2説に分かれている。まず柳田国男の説は,日本人が白い米を食用とする以前に,赤い米を栽培して儀礼用や常食用としていたため,その印象が白い米をアズキで染める習慣を生みだしたという,赤米(あかごめ)先行説と儀礼への固定化説である。東南アジアの稲作圏のなかに,赤米を特定の儀礼に用いている民族や種族があり,赤米のみを常食とするところもあるから,柳田説はこれらと比較する必要がある。つぎは文化人類学者や民俗学者の間で出されている説で,主として焼畑農耕民のアズキ栽培とその利用の問題である。日本各地の焼畑農耕地帯においては,焼畑に栽培する作物の輪作に必ずアズキが組みこまれており,アズキは焼畑農耕文化を構成する重要な要素の一つになっている。そしてアズキ以外の焼畑栽培作物にアズキを混ぜて食用とする民俗が認められるため,赤飯はその一種なり応用と考えられるというのである。野本寛一はアズキと組み合わせた食べ物が焼畑地帯に多く認められる事例を精細に検討し,それが日常の食品であると同時に神祭の供え物や儀礼食でもあったことを明らかにしている。白い米が焼畑地帯に普及していき,それが日常食となるにおよんで,赤色を帯びた伝統的な食べ物が儀礼や神祭に残されていった点は十分に可能性のある説といえよう。
執筆者:坪井 洋文
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
糯米(もちごめ)にアズキまたはササゲを混ぜて蒸したご飯。江戸時代から明治時代までは糯米を蒸したものを「おこわ」といい、アズキを加えて赤色になった蒸し飯を赤飯といっていた。その後、赤飯のことも強飯(こわめし)または「おこわ」というようになった。また、明治・大正のころまでは、毎月1日、15日、28日の朝は、粳米(うるちまい)の飯を炊くときアズキを加えることになっていた。これは赤のご飯、または小豆(あずき)ご飯といい、赤飯とはいわなかった。赤のご飯はその日を祝うためにつくったものだが、アズキの皮は腸に刺激を与えるので、月3回のアズキ入りのご飯は健康上にも役だつものといわれていた。
赤飯は明治中期以降は祝い事に用いるのが恒例となり、とくに神社の祭りや誕生祝いなどには多く用いられている。
[多田鉄之助]
赤飯の本来の作り方は蒸してつくる。アズキの分量はいろいろであるが、糯米の1割前後が普通である。アズキをよく洗い、水を加えて火にかけ、沸騰したら水を捨て、新たにアズキの5~6倍量の水を加えて、皮が破れないようにやや固めにゆで、汁を別器にとる。糯米は洗って、アズキのゆで汁を米が十分かぶるくらい加え、そのまま一晩浸(つ)ける。米をざるにあげて水けをきり、アズキを混ぜ、蒸籠(せいろう)に入れる。蒸したとき蒸気が通りやすいように、中央をすこしへこませる。蓋(ふた)をし、十分蒸気のあがった湯にのせ、強火で40~50分蒸す。15分置きくらいに、塩を少量加えたアズキのゆで汁をふりかける。これを打ち水という。黒ごまを炒(い)って塩と混ぜたごま塩を、盛った赤飯にふりかける。炊飯器などで炊いた赤飯は「炊きおこわ」という。
[河野友美]
一般には吉事の食物とされているが、東北地方の日本海側、関東地方の西部では葬式のときの食物とされている所がある。死者と血縁の濃い者は、一斗とか二斗赤飯を持ち寄り、それを会葬者全員に配って共食してもらうのである。沖縄では、カシチーといい、盆の贈り物の食物となっており、赤飯を死者儀礼にも用いている。吉凶いずれのときにも用いているのは、日ごろの白米に対し、赤い色の飯を食べることによって、視覚から日常とは異なる、ハレの日の意識を再認識させられる効用があったのである。したがって、赤飯に汁や茶をかけることを忌むなど、食法にタブーが多いのは、赤飯がハレの食物であったことを示しているといえよう。赤飯は赤いというところに意義があり、アズキのない時代には赤米(あかごめ)(炊くと薄赤くなる米)を用いたのではないかといわれている。現に対馬(つしま)の豆酘(つつ)神社、種子島(たねがしま)の宝満(ほうまん)神社では神事に赤米を炊く行事がある。正倉院の宝物にも赤米があるが、これは酒をつくったのではないかといわれている。
[鎌田久子]
『板橋春夫著『葬式と赤飯 民俗文化を読む』(1995・煥乎堂)』
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…姫飯が日常食として普及するにともなって〈こわいい〉,略して〈おこわ〉,さらに〈こわめし〉というようになり,多くもち米を用いて物日(ものび)に食するようになった。祝事にはアズキを加えて赤飯とし,不祝儀には白ダイズを加えるか,もち米だけの白蒸(しらむ)しを用いた。なお,栃木県日光の輪王寺で今でも毎年4月2日に行われる強飯式は高盛り飯を強制するもので〈ごうはんしき〉と呼ぶ。…
※「赤飯」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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