埼玉県北西部、秩父郡(ちちぶぐん)北端にある町。1940年(昭和15)町制施行。1943年樋口(ひぐち)村を編入。以前は野上町(のがみまち)といったが、1972年町内にある景勝地長瀞にちなんで長瀞町と改称した。荒川河谷の段丘上に位置し、国道140号と秩父鉄道が通じる。江戸時代は絹、タバコの取引が盛んで、2、7日には市(いち)が立った。かつては養蚕やコンニャク栽培が盛んであったが、近年ではブドウ、リンゴなどの観光農業のほか、カキなどの栽培も行われている。全町域が県立長瀞玉淀(たまよど)自然公園に属し、長瀞系結晶片岩よりなる岩畳や清流の長瀞、頂上からの展望に優れる宝登山(ほどさん)(497メートル)などがあり、荒川渓谷を下る長瀞ライン下りも楽しめる。野上下郷石塔婆(のがみしもごうせきとうば)は日本最大の板碑(いたび)で国の史跡に指定されている。旧新井家住宅は国の重要文化財で、隣接して郷土資料館がある。ほかに県立自然の博物館がある。面積30.43平方キロメートル、人口6807(2020)。
[中山正民]
『『長瀞町史』全3巻(1991~1999・長瀞町)』
埼玉県北西部、秩父(ちちぶ)郡長瀞町にある荒川峡谷の一区域。荒川は秩父盆地の末端皆野(みなの)町親鼻付近から、秩父山地の東端寄居(よりい)町に至る間峡谷をなすが、このうち親鼻付近から長瀞町滝ノ上付近まで約8キロメートルの間が1924年(大正13)国の名勝・天然記念物に指定された。岩畳とよばれる結晶片岩の岩石段丘、甌穴(おうけつ)、断層破砕帯など地学教材が多く、長瀞系結晶片岩とともに、日本地質学発祥の地といわれる。とくに河床にみられる結晶片岩は、秩父赤壁(せきへき)といわれる対岸の絶壁とともに、この渓谷美の中心をなす。春の桜、初夏の新緑、秋の紅葉は、陸上からも、川下り(長瀞ライン下り)の舟によっても楽しむことができ、訪れる行楽客は多い。近くに県立川の博物館・自然の博物館、長瀞総合博物館や、信仰の山である宝登山(ほどさん)があり、観光シーズンには臨時電車が運転される。寄居町の玉淀(たまよど)付近を含めて、県立長瀞玉淀自然公園となっている。
[中山正民]
埼玉県北西部,秩父郡長瀞町にある荒川中流の渓谷。親鼻橋から下流高砂橋まで約4kmにわたって板状節理の三波川(さんばがわ)系結晶片岩が露出し,左岸には岩石段丘,右岸には秩父赤壁と呼ばれる断層崖が発達する。石畳とも呼ばれる段丘面には広域変成作用による石墨片岩,緑泥片岩,紅レン片岩などがみられ,また河床には甌穴(おうけつ),白鳥島には横臥褶曲があるなど地質学上貴重であり,国の名勝・天然記念物に指定されている。桜や紅葉の名所で舟下りも行われ,長瀞玉淀県立自然公園の中心をなしている。上長瀞の県立自然史博物館(現,県立自然の博物館)には秩父地方の鉱物や動植物の標本が展示され,小・中学生の課外教育にも利用されている。西方の宝登(ほど)山とともにハイキングコースとなっている。秩父鉄道長瀞駅下車。
執筆者:新井 寿郎
埼玉県北西部,秩父郡の町。人口7908(2010)。秩父盆地北東端にあり,荒川沿いの河岸段丘に集落が位置する。野上町と称したが,1972年名勝・天然記念物の長瀞にちなんで改称。中心集落の野上は江戸時代,六斎市が開かれ,絹織物,タバコ,大豆などの取引が行われた。1911年熊谷から上武鉄道(現,秩父鉄道)が通じ,秩父の玄関口となった。長瀞玉淀県立自然公園の中心的な観光・行楽地で,長瀞を一望できる宝登(ほど)山(497m)にはロープウェーが設けられ,県立自然史博物館(現,県立自然の博物館),長瀞総合博物館などがある。日本一の大きさといわれる野上下郷石塔婆(史),秩父地方の板ぶき農家の代表的遺構である旧新井家住宅(重要文化財)がある。
執筆者:千葉 立也
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 日外アソシエーツ「事典・日本の観光資源」事典・日本の観光資源について 情報
…荒川は上流で中津川を合わせた後,数段の河岸段丘が発達する秩父盆地に入り,皆野町で赤平川を合流する。皆野より寄居までは結晶片岩に掘り込まれた狭い谷底を流れ,長瀞の景勝地をつくる。寄居から熊谷までが荒川の中流で,そこに寄居町を扇頂とする荒川扇状地を展開し,扇状地上には幾条もの古い流路跡が見いだされる。…
…甌穴が成長するにつれて深さも増すので,とびこんだ石も丸みを増し,穴の外へ出られなくなる。日本では花コウ岩の河床上に発達した木曾川の寝覚(ねざめ)ノ床の甌穴,片岩類の河床上に発達した荒川の長瀞(ながとろ)などが有名である。海岸にできる甌穴は海食甌穴とよぶこともある。…
※「長瀞」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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