飢えは,事実としての飢餓と感覚としての空腹感,飢餓感を包含する言葉である。空腹感も飢餓感も本質的には同じで,一般的な食物摂取の不足により起こる,食物一般,すなわち固形食物を食べたいという感覚である。日常,われわれがごく自然の環境下で食事前に感ずる食べたいという欲求が空腹感であり,なんらかの理由で異常に長時間,食事をとることができなかった場合などに感ずるもっと深刻な食べたいという感覚が飢餓感である。これらの感覚は,満腹感,渇き感,性感,疲労感などとともに特定の感覚器官や身体の部分に関係づけることができないもので,一般感覚と呼ばれる。これに対して,視,聴,味,嗅などの感覚は特殊感覚として分類される。
空腹や飢餓のときには概してなんでもおいしいことから,空腹感(や飢餓感)と食欲とは並行するもののようであるが,両者は区別すべき現象である。空腹感や飢餓感は,生体が先天的にもつ感覚の一つで,時も所も問わず,ほんとうに食物を必要とするときに起こる生理現象である。この場合,ふつうなら嫌いな食物でも食べることを強制し,多分に不快な感情を伴う。しかし,食物をとるにつれて不快な感情は和らぐ。したがって,厳密には新生児には空腹感や飢餓感だけがあり,成人と同じような質の高い食欲はない。赤ん坊は,学習によってしだいに水と乳に対する欲求の区別が可能となり,離乳食に接することによって具体的な食欲の対象を形成していく。このように食欲とは多分に後天的に学習や条件反射によって新しく獲得されるものである。食欲は,特定の食物に対する欲望であるから,空腹感が満たされても依然として存在する。母親の味や故郷の味がなつかしくなったり,食後の果物や菓子が歓迎されるのもそのためである。また,同じ料理や食物が続くと飽きの現象が生じて,その料理や食べ物に対する食欲は減退する。しかし,空腹感や飢餓感には決して飽きの現象は生じない。さらに,空腹感や飢餓感が多分に不快の感情を伴うのに対して,食欲には快い感情を伴う。そのほか,食欲には,特殊な栄養成分の摂取不足により起こるその特殊な栄養成分を含有する食物を選択的に欲する場合も含まれる。カルシウム摂取不足の子どもが通常は食べない灰や壁土を食べたり,リン欠乏のヒツジが仲間の毛を食べたりするのはそのよい例で,特殊飢餓と呼ばれる。また,飢餓による死を飢餓死または餓死という。餓死,食欲についての詳細はそれぞれの項目を参照されたい。
執筆者:小野 武年
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ノルウェーの作家ハムスンの長編小説。1890年刊。欧米には珍しい私小説的作品で、貧しい文学青年のその日暮らしの生活をたどるだけで、筋もなく社会生活も描かれていない。机一つない間借りの部屋、それも間代がたまってぐあいが悪く、主人公は公園のベンチで原稿を書こうとするが、インスピレーションはわかない。食い詰めて、果ては犬にやるのだといって肉屋から骨をもらってしゃぶるが嘔吐(おうと)してしまう。まれに原稿が売れても貧しい友におごったりして、たちまち生活に窮するが、気まぐれの詩人気質(かたぎ)はそんな無償の戯れをやめない。最後は万策尽きて貨物船の火夫としてアメリカへ渡ることになるが、主人公は依然として昂然(こうぜん)としている。すばらしく弾力のある筆致と不屈のロマン精神は世界を驚倒させた。
[山室 静]
『山室静訳『飢え』(『ノーベル賞文学全集4』1971・主婦の友社)』▽『宮原晃一郎訳『飢え』(角川文庫)』
空腹時の欲求の状態で、渇(かわ)きや性の欲求と同様に代謝によって必然的に生じる生理的不均衡の結果、これを回復しようとする一次的要求または動因である。
[編集部]
〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...
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