野宮(読み)ノノミヤ

デジタル大辞泉 「野宮」の意味・読み・例文・類語

ののみや【野宮】[謡曲]

謡曲。三番目物源氏物語に取材。六条御息所ろくじょうのみやすどころの霊が現れ、あおいの上光源氏の愛を奪われた悲しい思い出を語り、舞をまう。

の‐の‐みや【野宮】

皇女や女王が斎宮斎院になるとき、潔斎のため1年間こもった仮の宮殿。斎宮のものは嵯峨、斎院のものは紫野に設けた。

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精選版 日本国語大辞典 「野宮」の意味・読み・例文・類語

の‐の‐みや【野宮】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙
    1. 伊勢神宮の斎王(斎宮)の潔斎所。皇女または女王が斎王となる時、宮城内の初斎院で潔斎した後、城外においてさらに、伊勢の斎宮に移るまでの一年間、潔斎のためにこもる宮殿。黒木の鳥居を設け、柴垣をめぐらし、質素に作る。京都嵯峨野にあった。→斎宮
      1. [初出の実例]「斎内親王祓于葛野川、即移入野宮」(出典:類聚国史‐四・伊勢斎宮・延暦一六年(797)八月甲戌)
    2. 賀茂神社の斎王(斎宮)の潔斎所。皇女または女王が斎王となる時、宮城内の初斎院で三年間潔斎した後、神社へ参る前に移る宮殿。京都紫野の東にあった。→斎院
      1. [初出の実例]「賀茂斎内親王臨於鴨水解禊。即便入紫野院。〈略〉三年斎之後、去年可野宮」(出典:日本三代実録‐元慶四年(880)四月一一日)
  2. [ 2 ]
    1. [ 一 ] 京都市右京区嵯峨野々宮町のこと。野の宮の旧跡地。
    2. [ 二 ] 謡曲。三番目物。各流。作者未詳。「源氏物語」に取材したもの。旅僧が嵯峨野の野の宮を訪れると、里の女が現われ、昔、光源氏が野の宮に六条御息所を訪れたのが九月七日なので毎年この日に御神事を行なうと語り、自分がその御息所だとあかして消える。その夜の僧の回向に御息所が網代車に乗って現われ、賀茂の祭に葵の上と車争いした妄執を晴らしてほしいと頼み、昔をしのんで舞を舞う。

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日本歴史地名大系 「野宮」の解説

野宮
ののみや

歌枕。「八雲御抄」にあげられ、証歌は「新古今集」の次の歌である。

<資料は省略されています>

なお「源氏物語」(賢木の巻)には、娘の斎宮に付添って嵯峨の野宮にこもっている六条御息所を、光源氏が訪れるところがある。

<資料は省略されています>

この題材は、のちに謡曲「野宮」にも描かれる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「野宮」の意味・わかりやすい解説

野宮(能)
ののみや

能の曲目。三番目・鬘(かずら)物。五流現行曲。晩秋の嵯峨野(さがの)を訪れた諸国一見の僧(ワキ)は、野宮の旧跡に『源氏物語』の世界を懐かしむ。何百年もの昔の長月(ながつき)七日、伊勢(いせ)神宮に仕える神女に選ばれた娘とともにこの神域にこもる六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)を光源氏(ひかるげんじ)が訪ねていった、その日にあたっていた。生来の強い自我ゆえに光源氏との愛を全うすることのできなかった六条御息所も、あの世で女らしさを取り戻し、この思い出の地に、思い出の日になると毎年やってくる。里女姿のその亡霊(前シテ)は僧に光源氏との恋の経過を語り、身の上を明かして消える。僧の弔いに、ありし日の貴婦人の装いでふたたび現れた六条御息所(後(のち)シテ)は、源氏の正妻の葵上(あおいのうえ)から受けた加茂(かも)の祭の車争いの屈辱を訴えるが、やがて輪廻(りんね)の苦しみを救ってほしいと僧に願う。月の下に美しい思い出の舞が舞われ、かつての愛の日がその心によみがえるが、生死の境にさまよう身を恥じて、彼女の姿はその傷心の象徴である牛車(ぎっしゃ)に乗って消えていく。死の濾過(ろか)によって純粋な女心を取り戻した六条と、それを妄執と冷たく見据えている六条の理性両面がみごとに描かれ、まろやかな幼なじみの恋の名作『井筒(いづつ)』と並ぶ、恋の幽玄能の最高傑作である。古来世阿弥(ぜあみ)作の説があるが、確証がない。

増田正造


野宮(神道)
ののみや

伊勢(いせ)の神宮に派遣される斎王(さいおう)の潔斎(けっさい)のための場の一つ。伊勢の神宮には、その鎮座以降後醍醐(ごだいご)天皇のときまで、歴代皇女また女王のなかより斎王が選ばれ派遣されてきたが、『延喜式(えんぎしき)』によると、その斎王卜定(ぼくじょう)ののち、宮城内の適当の箇所を占って初(しょ)斎院とし、そこで半年から一年潔斎、あと宮城外の野宮に入り、一年潔斎して伊勢に行くこととなっていた。その場はおよそ京都瑳峨野(さがの)があてられていた。この起源は明らかでないが、『日本書紀』天武(てんむ)天皇2年4月の条に、大来皇女(おおきひめみこ)を泊瀬斎宮(はつせのいつきのみや)にいらせられたとあるのが初見である。

[鎌田純一]

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改訂新版 世界大百科事典 「野宮」の意味・わかりやすい解説

野宮 (ののみや)

能の曲名。三番目物。鬘物(かつらもの)。作者は不明。シテは六条御息所(ろくじようのみやすどころ)の霊。旅の僧(ワキ)が京都嵯峨野の野宮の旧跡を訪れると,若い女(前ジテ)が来かかり,この野宮は,昔,六条御息所が伊勢の斎宮(さいぐう)となった息女とともに籠った所だと話して聞かせる。御息所は,皇太子妃としてときめいた女性だったが,夫に死別し,その後に愛を得た光源氏からも見捨てられて,昔に変わる寂しい身の上となり,涙ながらに伊勢へ赴いたのだという(〈クセ〉)。そう物語った女は,実は自分がその御息所なのだと名のって消え失せる。夜になると,御息所の霊(後ジテ)が昔の姿で現れ,賀茂の祭り見物のおりに,車を据える場所を光源氏の正妻の葵上(あおいのうえ)と争って恥辱を受けた思い出などを物語り,懐旧の思いにひたりながら舞を舞う(〈序ノ舞・ノリ地〉)。幽玄でしっとりとした趣のなかに,御息所の屈折した心情がよく描かれている名品である。
執筆者:


野宮 (ののみや)

伊勢の斎宮(さいぐう),賀茂の斎院(さいいん)に移る前に斎王が潔斎のために入る所。伊勢の斎宮の場合は京で3年潔斎するが,卜定(ぼくじよう)されるとまず宮城内の初斎院,次いで野宮に約1年ずつ入り,その後伊勢に向かった。《延喜式》によれば,野宮は斎王ごとに宮城外の浄野を卜定するとあり,一定していなかった。しかし嵯峨野や西院に設けられることが多く,両所に野々宮神社として残っている。賀茂の斎院の場合は,初斎院で3年潔斎ののち,3年目の4月に紫野(むらさきの)などに設けられた,野宮の斎院に入り,その年の賀茂祭の祭事に供奉した。
執筆者:

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「野宮」の意味・わかりやすい解説

野宮
ののみや

能の曲名。本三番目物の一つ。各流現行。金春禅竹作ともいう。旅僧 (ワキ) が嵯峨野の野宮の旧跡を訪れ,一人の女 (前シテ) と会う。女は光源氏がこの野宮に六条御息所を訪問したことなどを語り,鳥居の陰に消える (中入) 。夜になり,弔いをする僧の前に車に乗った御息所の幽霊 (後シテ) が現れ,車争いのことなどを語り,昔を回想して舞を舞う (序の舞) 。小書 (こがき) に「合掌留」 (観世,宝生,金剛,喜多) ,「火宅留」 (観世,金春,金剛) ,「車出」 (宝生,金剛,喜多) ,「甲之掛」 (金剛) ,「破之舞之伝」「留之伝」 (金春) がある。『源氏物語』賢木,葵巻による。

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百科事典マイペディア 「野宮」の意味・わかりやすい解説

野宮【ののみや】

能の曲目。鬘物(かつらもの)。五流現行。世阿弥作か。秋の夜,六条の御息所(みやすどころ)の霊魂が嵯峨野の野宮の旧跡に現れ,光源氏との恋の喜びや悲しみを回想する。夢幻能の代表作とされる。

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「野宮」の解説

野宮 のみや

?-? 室町-戦国時代の画家。
南宋(なんそう)(中国)の画僧牧谿(もつけい),周文の画法をまなぶ。

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世界大百科事典(旧版)内の野宮の言及

【斎院】より

…卜定によって斎院となった女性は宮城内に設けられた初斎院での3年間の潔斎を経て斎院(場所としての)に移る。その場所は一条大路の北方,紫野に所在したため紫野斎院とか略して紫野院と呼ばれ,単に野宮(ののみや)とも称した。今日の京都市上京区の七野(ななの)神社がその跡という。…

【斎宮】より

…その起源は記紀の伝承に始まるが,制度的な確立は7世紀後半の天武朝のころとされる。斎王は未婚の内親王,あるいは女王のなかから占で定められ,平安朝では雅楽寮,宮内省,主殿寮など宮内の便宜的な場所を初斎院として沐浴斎戒に入り,翌年8月には宮外に新造された野宮(ののみや)に移り,潔斎を重ねる。野宮は洛西に置かれたようで,《源氏物語》賢木巻の舞台ともなる。…

※「野宮」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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