翻訳|income
「所」字には「せう」の音がないところから、「抄徳(せうとく)」(「うまいことをする」の意)と解する説もある。しかし、その意味・用法は当時の「所得(しょとく)」に類似しており、「女(にょ)」を「にょう」と発音し、院政時代には「女房(にょうぼう)」を「ねうばう」とも表記したように、「所(しょ)」を「しょう」と発音し、「所得(しょうとく)」を「せうとく」と表記したものと考えられる。ただし、「色葉字類抄」をはじめ、当時の古辞書で「所得」は「ショトク」であり、「ショウトク」あるいは「セウトク」とする例は見えない。
一般には,一定期間の勤労,事業,資産などから得る収入全体をさし,賃金,俸給,地代,家賃,利子,利潤などがそのおもな構成要素となるものを意味する。所得は,さまざまな財やサービスの獲得能力,すなわち富力を代表する重要な指標と考えられている。それがただちに購買力として行使されるか,あるいは潜在的な購買力としてストックされるかは,家計の消費行動に大きく規定される。しかしいずれにせよ,産業社会においては,フローとしての貨幣所得が国全体,あるいは一家計の富力を表す指標として最も適切なものであることには変りはない。
用語法として,経済学では時として収入earningsと所得incomeを区別する場合がある。すなわち,収入は賃金を含む勤労所得を意味し,時間の価格を反映している所得部分,〈その他の所得〉は財産収入など時間の価格とは独立な所得源を表すと考える。そしてこの収入と〈その他の所得〉との和を,所得と呼んで区別する場合がある。
何が所得を構成するかを考える場合,国民所得,すなわち社会会計上の所得概念を知ることによって,その他(たとえば税法上)の所得概念と区別することが重要である。ここでは主として国民所得の構成を基本として解説する。
国民所得は,ある一定期間において,資産を減少させることなく,消費または投資にあてられた経済財の流れである。国民経済の生産活動によって生まれた国民所得は,生産に寄与したさまざまな要素に対して分配されるが,分配所得はその種類によって次のように分類される。
(1)雇用者所得(この場合,雇われている人の所得) 賃金・俸給,社会保障雇主負担,その他の雇主負担。
(2)財産所得 一般政府,対家計民間非営利団体,家計((a)利子,(b)配当,(c)賃貸料)。
(3)企業所得 民間法人企業(配当後所得),公的企業,個人企業((a)農林水産業,(b)その他の産業,(c)住宅自己所有による帰属分)。
(4)(控除)産業活動によらない財産所得の支払。このうち,(3)--(c)〈住宅自己所有による帰属分〉とは,自己所有の住宅に居住している者は借家の場合の家賃と同じものを〈自分自身に対して支払っている〉と想定して社会会計上(国民所得勘定の上では)所得に数え上げているもの(帰属家賃)をさしている。これは通常の用語では所得とは考えられていないことはいうまでもない。また,(4)〈産業活動によらない財産所得の支払〉とは,一般政府,対家計民間非営利団体,家計(個人企業を除く)の負債利子,賃貸料のことを意味している。これらを控除するのは,最終消費者としての政府および個人の生産活動を目的としない負債の利子は,生産要素の提供に対する所得とはみなさないという考えからである。
家計や個人企業が,移転所得をふくめて,どれだけの所得を総計で得ているかという量(個人所得)がマクロ経済的に重要になる場合が多い。この個人所得が貯蓄や消費量を最終的に規定するからである。ここでいう移転所得とは,当期の生産活動からは発生せず,したがって当期においては財・サービスの対価ではない支払部分であり,福祉的支払や失業保険などをさしている。国民所得から企業利潤や利子支払を差し引き,政府から個人への移転や企業からの個人への配当などを加えると,この個人所得が得られる。このうち所得税などを差し引き最終的に,家計が処分しうる所得を可処分所得と呼んでいる。
そのほか一国内の地域別に推計された地域所得として,日本の場合〈県民所得統計〉が作成されている。また個人所得などについて,世帯,個人などを単位とした所得階層別分布を,各階層に属する世帯数や人員および総所得額によって明らかにするための統計も作成されている。
執筆者:猪木 武徳
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
経済活動に参加し生産のために提供した労働・土地・資本などの生産要素の代価として受け取る報酬をいう。所得には個人所得、企業所得、政府所得がある。個人所得には賃金・給与などの雇用者所得と、地代・利子・配当などの財産所得がある。企業所得、政府所得も個人所得に準じて把握される。これらの所得を国民経済全体について集計すると国民所得が得られ、生産要素ごとに集計すると分配国民所得が得られる。国民経済計算では、雇用者所得、財産所得、企業所得に区別し、これらの合計から負債利子を控除して分配国民所得を得ている。これを人口で割ったものが1人当り国民所得である。また、個人所得から所得税・社会保険料などの税負担を控除したものが個人可処分所得である。個人可処分所得は貯蓄や消費量を最終的に規定するところから、最近では1人当り国民所得とともに、その動向が注目されている。
[鈴木博夫]
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…一般的には,利益とは資本の運用益をいい,元本に対する果実に相当し,期間的に把握される。ある期間の利益は,期首と同じ資本を維持したうえで,期間中に消費しうる最大の額と定義される。企業会計が対象とする企業の利益は,出資者の資本を維持したうえで,出資者に分配しうる額を意味し,その期間中に出資者の新たな追加出資および出資の払戻しがないかぎり,期末の資本から期首の資本を控除することによって計算される。会計計算上は,資本は資産マイナス負債で純財産とも呼ばれるので,利益は期末純財産から期首純財産を差し引くことによって計算される。…
…所得税は,正確にいえば個人所得税と法人所得税の両方を指す。日本では前者を所得税,後者を法人税と呼んでいる。…
※「所得」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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