構造主義(読み)コウゾウシュギ(その他表記)structuralisme[フランス]

デジタル大辞泉 「構造主義」の意味・読み・例文・類語

こうぞう‐しゅぎ〔コウザウ‐〕【構造主義】

《〈フランスstructuralisme》人間の社会的、文化的諸事象を可能ならしめている基底的な構造を研究しようとする立場。ソシュール以降の言語学理論を背景に、レビ=ストロースの人類学でこの方法が用いられて以来、哲学や精神分析など、主として人文・社会科学の領域で展開されている。

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精選版 日本国語大辞典 「構造主義」の意味・読み・例文・類語

こうぞう‐しゅぎコウザウ‥【構造主義】

  1. 〘 名詞 〙 ( [フランス語] structuralisme の訳語 ) 民族学、社会学、言語学、心理学、生物学、哲学の用語。一九四〇年代からフランスの人類学者レビ=ストロースによって民族学の理論として提唱された。たとえば、未開社会の近親婚タブーや交差いとこ婚の婚姻関係について、それを存続させるために働く潜在的な相互依存の機能的連関を構造としてとらえ、その構造を明らかにしようとするもので、二〇世紀後半の新しい潮流を形作った。

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改訂新版 世界大百科事典 「構造主義」の意味・わかりやすい解説

構造主義 (こうぞうしゅぎ)
structuralisme[フランス]

1960年代以降フランスで生まれた現代思想の一潮流。フランスの人類学者レビ・ストロースは,ソシュールに始まり,イェルムスレウらのコペンハーゲン学派ヤコブソンらのプラハ言語学派において展開された構造言語学や,数学,情報理論などに学びつつ,未開社会の親族組織や神話の研究に〈構造論〉的方法を導入して,構造人類学を唱えた。やがて1962年に公刊した《野生の思考》は,これまで非合理的なものとされていた未開人の〈神話的思考〉が,決して近代西欧の〈科学的思考〉に劣るものではなく,象徴性の強い〈感性的表現による世界の組織化と活用〉にもとづく〈具体の科学〉であり,〈効率を高めるために栽培種化された思考とは異なる野生の思考〉であることを明らかにして,近代西欧の理性中心主義のものの見方に根底的な批判を加えた。それは大きな知的反響を呼びおこし,《エスプリ》誌の〈野生の思考と構造主義〉の特集(1963)をはじめ,多くの雑誌がレビ・ストロースと構造主義を論じて,〈構造主義〉の時代の幕明けとなった。このような論議の高まるなかで,フーコーが《言葉と物》(1966)を,アルチュセールが《資本論を読む》《甦るマルクス》(ともに1965)を,ラカンが《エクリ》(1966)を,R.バルトが《モードの体系》(1967)を世に問い,その他文学批評の分野でも構造分析が行われ,いずれも何らかの形で〈構造〉ないし〈システム〉を鍵概念として近代西欧の観念体系を批判吟味する新しい構造論的探求を展開した。そして〈構造主義〉は,それまでの20世紀思想の主潮流であった〈実存主義〉や〈マルクス主義〉をのりこえようとする多様な試みの共通の符牒となった。

構造主義の鍵概念である〈構造〉ないしは〈システム(体系)〉という概念は,古くからある概念であり,多義的な概念である。それは,一般的に,〈個々の部分としての諸要素の単なる総和ではなく,それらが密接にかかわりあっている全体であり,一つの要素の変化が直ちに他の諸要素および全体に変化をひきおこすような統合的な諸関係の総体〉と規定される。しかし,構造主義における構造概念の重要な点は,構造を,事物の自然的・具体的な関係ではなく,むしろ事物がそれによって他から区別されて(差異によって)出現する関係の体系であり,それは人間の歴史的・社会的実践において無意識のうちに事実的に形成されると考える点である。これは,言語をめぐってソシュールをはじめ構造言語学者が明確にした構造(体系)概念であった。そこでレビ・ストロースは,〈言語学はわれわれに,弁証法的で全体化性をもつが意識や意志の外(もしくは下)にある存在を見せてくれる。非反省的全体化である言語は,独自の原理をもっていて人間が知らぬ人間的理性である〉(《野生の思考》)と考え,経験的事象としての〈社会関係〉と〈人間が知らぬ人間的理性〉すなわち無意識的な文化(人為)の規則性としての〈社会構造〉とを区別し,社会的事象を〈象徴(シンボル)〉のコミュニケーションのシステム(構造)としてとらえる構造論的探求を展開した。このような考え方の基礎には,言葉ないし観念(主観)を物(客観)を引き写して代理表現するもの(ルプレザンタシオン=表象)とみる近代哲学の〈主観-客観〉原理をくつがえして,その理性主義を根底から批判する新しい哲学的立場がある。

それを明確にしたのがフーコーである。彼は近代西欧の人間諸科学の成立の歴史のうちに,それらを一定の型の認識のしかたとして出現させた〈認識論的台座(エピステーメー)〉を探り出し,そうすることで近代理性主義によっては思考されない無意識的領野(実定性の領域)を画定し,これを〈言説(ディスクール)実践のシステム〉として解明した。それは,近代哲学が前提する個人の表現活動や超越的主観の理性活動とは異なる〈匿名的で歴史的で時空的に決定されてある〉もので,人間が世界について語り出すさまざまなしかた(言説編成)の諸規則の総体であり,世界はこの〈意識〉とも〈客観的実在〉ともちがう〈言説システム〉において姿を現すのである。フーコーは,近代的思考との認識論的断絶を明確にするこの新しい探求を〈知の考古学〉と呼んだ。

このようなフーコーの見方では,多様な言説システムに応じて多様な世界の相互連関システムがあり,したがって人間にとってただ一つの普遍的な世界史というものはなく,またそれを精神(理念)や人間性などの開花完成に向かって進歩発展するものと考える近代の目的論的発展史観は廃棄される。アルチュセールも,目的論的発展史観の上に解釈されていた旧来のマルクス主義(唯物史観)を批判して,マルクス思想を,社会と歴史を経済的,政治的,イデオロギー的生産の諸構造の〈重層的決定〉の力動的なシステムととらえる新しい〈歴史の科学〉を創出したものととらえ直し,構造論的な科学認識論を展開して大きな影響を与えた。このような歴史観の転換は,レビ・ストロースの〈冷たい社会〉の〈停滞的歴史〉(例えば未開社会のような)と〈熱い社会〉の〈累積的歴史〉(例えば近代西欧社会のような)の差異は相対的で,人類の諸社会とその歴史は,それぞれに独自の意味と価値をもつという考え方とともに,これまでの西欧中心的な歴史観を決定的に突き崩した。

こうして,〈構造主義〉として一括されたさまざまな試みは,人間の営み(認識,経験,労働・生産,社会,歴史等々)をとらえる中心を,旧来の主観的意識から無意識的実践の構造へと〈脱中心化〉して近代西欧の観念体系を批判したが,それはその集約的基盤であった主体的な〈人間〉という観念を根底的に廃棄することであった。フーコーは,人々が自明のこととしている〈人間〉が,16世紀以降の西欧文化がつくり出した形象にすぎず,新しい知の下では〈人間は波打ちぎわの砂の表情のように消滅するだろう〉(《言葉と物》)と語って,人間諸科学の変革を説いたし,レビ・ストロースは,〈人間諸科学の究極目的は,人間を構成することではなく人間を溶解することだ〉(《野生の思考》)と論じて,人間(文化)と自然の関係の再吟味を促した。〈構造主義〉は,多様な展開方向を含みながら,近代西欧文化に転換を告知する〈構造主義革命〉をひきおこすものであった。

構造主義はフランスで生まれ,したがってM.モースの人類学やバシュラール,カンギレームの科学認識論,あるいはメルロー・ポンティの哲学など,総じてフランス思想の伝統に立つが,同時にマルクス,ニーチェ,ソシュール,フロイトハイデッガーなど19世紀末から20世紀前半にかけての思想的変革の努力を引き継ぐものといえる。そして,〈構造主義〉という一括的名称は,早くも1968年の〈五月革命〉のなかで〈構造主義は死んだ〉と語られて,1970年代以降拡散したが,それは人類学,言語学,精神分析などを中心とする人間諸科学の相互連関的探求に発展し,また諸分野での〈記号論〉的探求を生み,さらに広く,近代科学・技術への批判的反省,自然の復権を求める思想動向などを起動促進した。そのなかからは,各種の〈文化記号学〉的探求や〈経済人類学〉的試みなどの新しい探求が生まれつつある。構造主義は,日本にも1960年代末以降移入紹介され,大きな思想的影響をひろげている。
記号 →構造言語学
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「構造主義」の意味・わかりやすい解説

構造主義
こうぞうしゅぎ
structuralism 英語
structuralisme フランス語
Strukturalismus ドイツ語

1960年代、フランスを中心に現れた、諸科学における新しい考え方の総称。その範囲は広く哲学、文学、精神分析学、経済学、民族学、生物学、数学などにわたっている。

[足立和浩]

特徴と源泉

この考え方の特徴は、可変的な表層的諸現象の背後に隠された深層的で不変な「構造」を探究するというところにある。これには19世紀以来の歴史主義(連続的、進歩主義的な歴史観)と人間中心主義(デカルト的な実体的アトムとしての人間観)とに対するアンチ・テーゼという意味がある。とくにフランスでは、サルトルの『弁証法的理性批判』という歴史主義(ヘーゲル‐マルクス主義)と人間主義(デカルト‐フッサール主義)との統合を企てた記念碑的な著作があり、これをいかに乗り越えるかが後の世代の喫緊の課題となっていた。

 構造主義の源はソシュールの言語学である。彼は通時的な比較言語学に共時的な構造言語学を対置し、ラングlangue(言語)の構造分析に専念した。とくにシニフィアンsignifiant(聴覚イメージ)/シニフィエsignifié(概念)という一組の概念は諸科学の構造主義的な考え方に大きな影響を及ぼした(むしろ、いささか濫用されたきらいさえある)。

[足立和浩]

構造主義の思想家たち

フランスの構造主義を代表する思想家はレビ・ストロース、ジャック・ラカン、ルイ・アルチュセール、ミシェル・フーコーなどであり、さらに周辺にはロラン・バルト、ジャック・デリダらがいる。

 レビ・ストロースは、ソシュールの記号論的方法を民族学に適用し、未開社会における女性の交換という複雑で難解な現象に着目して、「交差いとこ婚」の深層構造を分析した。この構造は厳密な数学的モデルとして理論化され、多様な現象の背後に隠された無意識的な構造とみなされている。また彼はトーテミズム、儀礼、神話などの象徴体系をも解明し、文明人の思考に対する「野生の思考」の基底構造性を強調している。

 精神分析学のラカンは、サルトルらの実存主義が盛んであったころから、超然と独自の理論を展開している。精神分析医としての立場を通じてフロイト理論をさらに深化しようとするラカンは、治療を受けにくる患者の無意識が言語のように構造化されていることに着目し、無意識の構造分析を可能にするための「統辞論的な意味の移動」や「意味論的な凝縮」の諸例を提示している。また、治療が成功するためには医者と患者との(デカルト的な)実体的主体が解体されねばならぬ、という彼の主張もきわめて重要である。

 アルチュセールは、ソシュール的方法をマルクス学のなかに導入し、マルクスの思想をヘーゲル的弁証法や主観主義などから解放することを企てる。具体的には、上部構造/下部構造、生産力/生産関係といったマルクスの操作的、構造的な諸概念が実体化されていることを批判し、もろもろの構造は「多元的決定」としてダイナミックに把握されねばならぬことを主張している。

 フーコーは、哲学の対象から「人間」を除外し、もっぱら「言語」にのみ関心を向ける。人間なきあとには知(エピステーメー)のみが残り、その構造分析が哲学の課題となる。各時代にはそれぞれの知の型があるが、それら相互には連続的変化はなく、ただ非連続と断絶による変形のみが存在する。絶えず進歩する人間というイメージと結び付いた直線的で連続的な歴史を拒否することが問題なのである。また後年の権力の分析、さらに性の問題の分析にも、きわめて興味深いものがある。

[足立和浩]

『サルトル、パンゴー他著、平井啓之訳『サルトルと構造主義』(1968・竹内書店)』『泉靖一編著『構造主義の世界』(1969・大光社)』『エドマンド・リーチ著、吉田禎吾訳『レヴィ=ストロース』(1971・新潮社)』

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最新 心理学事典 「構造主義」の解説

こうぞうしゅぎ
構造主義
structuralism

一般的には,歴史主義や文化相対主義に対立する思想的立場をいい,歴史的・一回性的・機会的要因よりも共時的・普遍的・法則的要因を重視する学説やその方法を総称する。構造主義は言語学の開祖ソシュールSaussure,F.の構想に由来する。ソシュールは言語の法則性を求める共時言語学と歴史的変遷を主題とする通時言語学とを分け,そこからそれぞれの対象として普遍的法則の体系としてのラングlangueと個人的言語行為としてのパロールparoleとを区別した。この発想は,言語の普遍的位相と特殊的位相との二つの次元を区別し,前者を重視する構造言語学派を生んだ。ジャコブソンJakobson,R.は,ソシュールが記号の意味は単独では決定されず他の記号との対立関係によって規定されるとする説を受けて,すべての個別言語の駆使する音素は,有声性対無声性などほぼ13対の示差的特性(弁別素性)の組み合わせによって生成されるという普遍的構造を見いだし,アメリカを中心に構造言語学structural linguisticsの隆盛を導いた。現象を規定する抽象的法則性の発見は,記号学という新しい領域を開く契機にもなった。

 しかし,構造主義の名をことさら高めたのは,フランスの文化人類学者レビ・ストロースLevi-Strauss,C.の業績にある。彼は,親族組織,神話,未開の思考などを対象にしたが,たとえば神話の研究に構造言語学の音素分析の手法を援用し,神話の要素間の対立関係などを手がかりにして隠された意味の解読に努めた。その方法には,三つの特徴があるといわれる。第1は関係論的視点であり,文化現象の個々の要素ではなく要素間の関係,たとえば対立を重視する。第2の特徴の全体論は,各要素は相互関係の中で初めて意味が定まり,関係的全体こそ一次的とする。第3は層位論的視点を取り,直接知覚できる表層の現象はその底に潜む深層の意味構造に対応させなければ真の理解は不可能とする。このような視点と方法を取る文化人類学は構造人類学structural anthropologyとよばれ,1960年代から周辺諸学にも大きな影響を与えてきた。

 心理学においても構造主義に立つ学派は,早くから存在した。代表はゲシュタルト心理学Gestalt psychologyとピアジェPiaget,J.の認知発達説である。前者は,それまでの感覚要素の強調に反対して,ゲシュタルトGestaltという全体構造の部分規定性を主張し,さらに近接・類同などの潜在する構造化原理(ゲシュタルト要因)が力動的均衡を要請し(簡潔性の原理),表層現象を形成するとした。その主張の新奇性から,構造主義はゲシュタルト心理学の別名とされた時期もあった。ピアジェはやや遅れて,⑴諸要素が不可分なまとまりを構成するという全体性,⑵構造中の要素を変えても変換システムによる結合関係の本質は変わらないという変換性,⑶自動調節機構による系としての本質と閉鎖性を維持する自己制御の三つの特性を構造structureとよび,群性体や束-群のような論理数学的構造が児童の思考様式という表層を規定するとした。

 構造主義は,その普遍性と秩序志向の偏りを指摘され脱構築のような批判を招くに至った。ピアジェ説の重点も構成主義の側面に移行した。しかし,Gestaltは現在心理学の基礎語彙の一つになっている。チョムスキーChomsky,N.は構造言語学のデータ偏重や行動主義的言語観を退けたが,その生成文法論は深層から表層構造への生成過程を主題とし,構造主義の正負両面の影響を示している。レビ・ストロースは,天地,東西,男女などの二項対立は人類の普遍的心性に根ざすとした。これら諸相には,構造主義が今も心理学に投げかける重い問題が提示されている。 →ゲシュタルト心理学 →言語心理学 →構成主義 →発生的認識論
〔藤永 保〕

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百科事典マイペディア 「構造主義」の意味・わかりやすい解説

構造主義【こうぞうしゅぎ】

1960年代のフランスに生まれた現代思想の有力な潮流。フランス語でstructuralisme。歴史よりも〈構造〉を,実体ないし主体よりも関係ないしシステムを一次的とみる点で,先行するマルクス主義実存主義,さらには西欧近代の理性主義全般の乗り越えを図る運動と言える。ソシュール以後の言語学,現代数学,科学論,とりわけマルクス,ニーチェ,フロイトの読み直しなど多様な契機をもっている。人類学,神話学のレビ・ストロース,記号論・批評のR.バルト,思想史のアルチュセールフーコー,精神分析のラカンらが代表的論者(ただしこれらの人々が構造主義者を自称しているわけではない)。構造主義の徹底としての〈ポスト構造主義〉が,デリダドゥルーズ,ガタリ,リオタール,クリステバといった人々の名の下に語られもして,展開は世界的となっている。
→関連項目ギンズブルグ構造言語学サーリンズジュネットソシュールテキストバシュラールフライ文化人類学ポスト構造主義メルロー・ポンティヤコブソンリーチ

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知恵蔵 「構造主義」の解説

構造主義

戦後主にフランスで展開された20世紀を代表する思想の1つ。文化人類学者のレヴィ=ストロースを創始者とする。社会と文化の根底にあり、それを営む当人たちにも明確に自覚されていない構造を取り出す分析方法が構造主義である。レヴィ=ストロースは、近親相姦の禁止の背後には、女性の交換という構造が存在していることを明らかにした。女性は近親の男性と結婚することが許されず、他のグループの男性と結婚しなくてはならない。このことによって、グループ相互の女性の交換を通じたコミュニケーションが成立し、社会的なつながりが維持されるのである。こうしたレヴィ=ストロースの分析は、私たちの自覚的な意識や主体性に、いわば、無意識の秩序が先行していることを示している。この主張は、サルトルやヨーロッパ近代哲学が重視した主観や意識を批判する思想運動につながっていく。またレヴィ=ストロースは、『野生の思考』(1962年)で、それまで未開とされていた文化のなかにも緻密で秩序立った思考が存在することを示す。この意味で、彼の仕事はヨーロッパ文化の絶対性(ヨーロッパ中心主義)を批判する文化相対主義にも大きな影響を与えた。ただし、レヴィ=ストロース自身は、近親相姦の禁止のように、どのような文化にも共通する構造が存在することを認めており、たんなる相対主義者ではなく、普遍的な人間性を探求する意思をもっている。

(石川伸晃 京都精華大学講師 / 2007年)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「構造主義」の意味・わかりやすい解説

構造主義
こうぞうしゅぎ
structuralisme

おもにフランスにおいて,現代科学の多くの分野に共通する思想運動の一般的傾向。人文現象を全体的,有機的な構造との関連でとらえ,かつ模型 (モデル) を援用してこの構造の解明を目指し,歴史的,時間的な経過を記述するよりも,それらの生起を可能ならしめる構造もしくはシステムの分析を重んじた。 20世紀の初め,史的言語学に反対して,F.ソシュールらが提唱し,プラハ学派を介して開発された近代言語学の方法が他の分野にも適用され,民族学では,C.レビ=ストロースの未開社会の親族構造の研究,神話学では同じく彼による神話の研究,精神分析の面では,J.ラカンの業績,哲学における L.アルチュセールのマルクス主義研究,M.フーコーの近代思想の文化的基層の分析,R.バルトのシステムの解明など多くの成果をあげ,1960年代の主要思潮の一つとなった。

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世界大百科事典(旧版)内の構造主義の言及

【文化人類学】より

…以上二つの立場は認識人類学cognitive anthropologyの名で総称される。 認識のプロセスを扱ういま一つの立場は,フランスのC.レビ・ストロースに代表される構造主義structuralismeである。レビ・ストロースのいう構造は経験的実在に関係しているのでなく,経験的実在に基づいて作られたモデルである。…

【アルチュセール】より

…1948年以来エコール・ノルマル・シュペリウールの講師となり,また共産党員となる。スターリン批判以後のマルクス主義の多元化の潮流のなかで,バシュラールらの科学認識論の伝統をひきつぎつつ,マルクス思想の構造論的再理解を試み,構造主義的マルクス主義者として60年代以降の思想的大革新の旗手の一人となった。80年に精神に異常をきたし,妻を絞殺して精神病院に収容された。…

【記号】より

…パースらとともに現代文化記号論の祖の一人とされるスイスのF.deソシュールは儀礼,作法などの諸文化現象を記号として考え,記号論sémiologie(英語ではsemiotics)の展望を開いた。ソシュールは言語学を記号論の一分野として位置づけ,記号論が発見する諸法則を言語学に適用することを考えたが,第2次大戦後のフランスにおける構造主義者R.バルトは,むしろ記号論こそ言語学のなかに位置づけられるべきであると主張した。あらゆる記号のなかで自然言語の記号(いわゆる言語記号)ほど複雑・高度な記号は存在せず,その機能と構造の諸特徴は他の諸記号の機能と構造の特徴の多くを網羅してしまうからである。…

【ゴールドマン】より

…この本の仏訳(1948)とパスカルおよびラシーヌを論じた《隠れたる神》(1956)によってフランス思想界に地歩を固めた。ルカーチの影響のもとに,哲学や文学の創造活動とその社会的基礎との弁証法的関係を追究して,マルクス主義的な思想史研究に新境地をひらき,みずから〈生成的構造主義〉を標榜した。そのマルクス主義的な思想史研究は,アンリ・ルフェーブルの〈思想の社会史〉とともに貴重な試みであった。…

【詩学】より

… 18世紀のロマン主義文芸運動以降は,しだいに新しい創作論や近代的な文芸批評が起こり,直接的にアリストテレスに拠る詩学は衰えたものの,言うまでもなく,今日の文学・芸術を考える上で,アリストテレスの《詩学》自体に含まれていたさまざまな論は,その価値を失っていない。【福井 芳男】
[フォルマリズムに始まる詩学の発展]
 〈詩学〉という言葉は,一般には詩の韻律・言語の分析や研究をいうが,構造主義の登場以後はとくにロシア・フォルマリズムに始まる詩,そして一般に文学テキストの構造的研究とその理論をさす。ロシア・フォルマリズム(1910年代後半に発足)は,世界の明視(ビジョン)の創造を芸術の目的とし,その方法は異化(V.シクロフスキーによる。…

【社会構造】より

…彼は〈全体的社会現象〉と呼ぶものを,最表層部の形態学的特性から最深層部の集合的精神状態まで10の〈深さの層位〉に区分し,社会構造とはそれらの層位が一時的・過渡的にバランスした一局面である,とした。またギュルビッチの社会の深層構造というアイデアと共通する構造概念は,フランスの人類学者レビ・ストロースの〈構造主義〉人類学によっても用いられている。レビ・ストロースのいう社会構造は,当事者であるその社会の成員自身によって意識されることのない,したがって直接にはそれを観察することの不可能な,いわばかくれた行為規則である。…

【精神分析】より

…ヨーロッパでは,多くの亡命学者が流出して思想的に沈滞したドイツに代わって,フランスで近代理性主義を根底的に批判する新しい思想的動向が生まれた。それが,60年代に入って構造主義として顕在化したとき,精神分析はその不可欠の要素となっていた。そのなかでもJ.ラカンは,30年代半ばから精神分析を学んだが,大戦後,無意識を体系的な言語の構造をもつものと考え,言語学と結びつけつつ独自なフロイト理解を進めて,とくに60年代半ば以降構造主義の一翼をにない広い思想的影響を与えるにいたった。…

【バシュラール】より

…フランスの科学哲学者。構造主義の先駆者の一人として,また,その詩論,イマージュ論でも知られる。1927年《近似的認識にかんする試論》で学位をえた後,ディジョン大学講師,教授をへて,40年ソルボンヌ(パリ大学)に迎えられ,科学史,科学哲学を講ずるとともに,同大学付属の科学史・技術史研究所長を務めた。…

【文学理論】より

…このようにして,文学の文学性の根拠をつきとめようとする試みは,逆説的に,文学と文学でないものの関係を問題とせざるをえない事態にたちいたるのである。
[構造主義]
 文学と文学でないものとの関係のあり方を問うということになれば,当然ながら,マルクス主義の側からの文学研究もそれをなしうるもののひとつに数えられる。しかし,今日言われるような意味での文学理論につながる方向にこの問題を追求しはじめたのは,マルクス主義的な文学研究ではなかった。…

【文化人類学】より

…この点はほとんど社会構造の分析にのみ集中したイギリス社会人類学との大きな違いであるが,現在の文化に主たる関心を寄せ,文化の諸部分を全体の脈絡の中で理解しようとする立場は,文化を断片化して扱った前代の民族学との決定的相違であった。
[認識人類学から構造主義へ]
 文化人類学の次の転機は1960年代に訪れる。その兆しはすでに50年代に認められるが,60年代以降急速に文化人類学の新しい主流が形成をみるのである。…

【民族学】より

…19世紀後半にイギリス,アメリカで盛んになった進化主義的民族学は,人類文化に共通の進化という現象と人類の基本的心性の同一性に注意を向けさせ,進化主義への反動として20世紀前半にドイツ,オーストリアやアメリカで盛んになった歴史民族学は,個別文化が歴史的に形成されたことを強調し,個々の文化要素や文化複合の空間的分布のもつ意味を問うており,1920年代以後イギリスで盛んになった機能主義は,個々の制度が全体社会の維持に果たす機能,あるいは個人の欲求充足に果たす機能が問題にされた。第2次大戦後,フランスにおいて盛んになった構造主義においては,文化を構成する個々の要素をそれ自体としてではなく,相互間の関係からなる構造として把握すること,ことに意識されていない構造の重要性を論じた。進化,歴史,機能,構造は,いずれも文化を理解するのに不可欠な視角である。…

【物語】より

…イギリスの小説家E.M.フォースターが,〈小説のかなめは物語であり,物語とはできごとを時間順に語ったものである〉(《小説の諸相》1927)と述べているのも,これと似た考え方である。 こうした考え方は今日でも根強くあるが,その一方で,とくに1960年代以降,フランスの構造主義に属する人々によって推進されてきた物語研究の新しい動きがある。この場合には,物語をいわゆる文学に固有のものとはせず,神話,伝説,民話,おとぎ話,小説,戯曲,絵画,映画,漫画,ダンスなどに共通にあらわれるものとみる。…

※「構造主義」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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