自由権(読み)ジユウケン

デジタル大辞泉 「自由権」の意味・読み・例文・類語

じゆう‐けん〔ジイウ‐〕【自由権】

個人の自由が国家権力によって侵害されることのない権利。日本国憲法の保障している、思想・良心・言論・集会・結社・信教・学問・居住・移転・職業選択の自由など。自由権的基本権。→基本的人権

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精選版 日本国語大辞典 「自由権」の意味・読み・例文・類語

じゆう‐けんジイウ‥【自由権】

  1. 〘 名詞 〙 国家権力によっても侵害されない個人の自由。信教・学問・思想・言論・集会・結社・職業選択・居住・移転の自由など。近代憲法はこれを基本的人権として保障している。自由権的基本権。→社会権
    1. [初出の実例]「暴権を以て天賦の自由権すら尚之を奪ひ」(出典:国体新論(1874)〈加藤弘之〉六)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「自由権」の意味・わかりやすい解説

自由権
じゆうけん

国家の介入、干渉を排除して各人の自由を確保する権利をさす。基本的人権の一つで、自由権的基本権ともいう。人間の自由に対する欲求は、生まれながらに人間性に内在するもので、人間が個人の価値を確立するために獲得した最初の権利が自由権であった。社会権や参政権は、この自由権を前提にして確立したものである。

[池田政章]

沿革

自由権は基本的人権のなかでも、もっとも基本的なもので、それゆえ長い歴史をもっている。イギリスの権利章典(1689)、アメリカ合衆国の独立宣言(1776)、フランス人権宣言(1789)を経て、現代憲法に及んでおり、現在世界各国において、程度の差、保障の質の違いはあるにしても、この自由権を規定していない憲法はない。

[池田政章]

憲法に規定された自由権

自由は人格の発展の全領域を覆い尽くすものであるから、それに関する権利のすべてを、憲法の規定として列挙することはとうてい不可能である。憲法に規定された自由権は、歴史的な由来に裏づけられており、いずれも国家権力による干渉・侵害という苦い経験のなかから、それを排除する目的で、とくに明文化されたものである。したがって、憲法に明示された個別的な自由の背後には、なお広い範囲の自由が保障されていると考えることが必要である。

 憲法が列挙する自由権は、普通、2種類に大別することができる。第一は、思想の自由、言論の自由、集会・結社の自由、人身の自由などの「政治的自由」で、これらは民主主義の理論的前提となるものであり、これらの自由の保障なくして、民主政治を考えることはできない。第二は、契約の自由、職業選択の自由、財産権の不可侵などの「経済的自由」であり、これらの自由は資本主義を支える柱ともいうべき性質をもっている。したがって、社会主義国家においては、これらの自由はかなり変容し、あるいは否定されていることも多い。一般に社会主義国家と資本主義国家における自由権の保障の仕方には大きな差異がみられる。要約すれば、後者の場合には自由権はいわば観念的に保障されているのに対し、前者にあっては、保障のための具体的手段が規定され、同時にそれが労働者に限定されていることが特徴的であるといえる。

[池田政章]

日本の憲法における自由権

旧憲法である明治憲法、日本国憲法のいずれにも自由権に関する規定が設けられたが、明治憲法では天皇から与えられた、臣民としての権利にすぎず、その範囲も狭く、その保障の方法も法律の留保付き(法律により制限される)であった。そのうえ緊急勅令、独立命令などによって制限されたから、実質的にはきわめて不十分なものであった。

 これに対して、日本国憲法は、その保障する権利を、自然法によって与えられた絶対的なものとし、法律の留保を認めず、例外を否定した。それを侵害する国家行為に対しては裁判所によって法的に保障されることになったから、保障する権利の拡大とともに徹底したものとなった。日本国憲法では各種の自由権が規定されているが、保障する対象によって精神的自由(権)、人身の自由、経済的自由(権)に大きく分けることができる。

[池田政章]

精神的自由

国家権力からの個人の精神の解放を保障する権利で、思想および良心の自由(19条)、信教の自由(20条)、集会・結社および表現の自由(21条)、学問の自由(23条)が規定された。その結果、明治憲法下におけるように、思想のために罰せられることはなく、どのような宗教を信じても干渉されず、礼拝、宗教的結社の設立も自由になった。また、学問の研究・発表・教授も自由になった。ただし、淫祀(いんし)邪教のたぐいや風俗を破壊するような行為は制限されている。またプライバシーの権利が、相手方の表現の自由に対立して、保護されている。

[池田政章]

人身の自由

個人の身体が、何ものからも、とくに国家権力から自由であることは、人間の最小限度の要求であって、憲法はこの人身の自由については、きわめて多くの保障を与えた。そこでは人身の自由の原則と、被疑者刑事被告人の権利が保障され、厳格な要件を定めて国家権力の乱用を制限している。

[池田政章]

経済的自由

近代社会確立のためには、経済的自由の確立が必須(ひっす)な条件とされる。日本国憲法も経済的自由権を保障したが、同時に自由主義経済の無制限な放任は社会の腐敗を招くので、公共の福祉の見地から、その制限を認めている。さらに、居住、移転、職業選択、外国移住、国籍離脱などの自由が規定されている(22条)。ただし、検疫法による、規定感染症患者の隔離・停留とか、風俗営業、医師などの特定の職業に対しては許可制度が設けられている。

[池田政章]

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改訂新版 世界大百科事典 「自由権」の意味・わかりやすい解説

自由権 (じゆうけん)
Freiheitsrechte[ドイツ]
libertés publiques[フランス]

国家権力による侵害・干渉を排除して個人の自由な生活領域を確保する権利。自由権的基本権ともいい,社会権と対比される。自由権は国家以前に存在すると考えられた自然権が国家社会においても人の生存に不可欠として保護が要求されるに至ったものであり,18世紀のアメリカおよびフランスの人権宣言ではじめて規定された。それ以来,権利の内容と保障の方法に変化はあるものの,自由権は各国成文憲法の権利宣言において中核的地位を占めている。日本国憲法の保障する自由権は,(1)思想および良心の自由(19条),信教の自由(20条),表現の自由(21条),学問の自由(23条)などの精神的自由権,(2)奴隷的拘束および苦役からの自由(18条),みだりに逮捕されたり処罰されることのない身体の自由(33,34条)および,(3)居住・移転・職業選択の自由(22条),財産権の不可侵(29条)などの経済的自由権に大別することができ,とくに精神的自由権には強い保障が与えられる。
基本的人権
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「自由権」の意味・わかりやすい解説

自由権
じゆうけん

国家権力によって侵害,干渉されない個人の一定の生活領域を保障する権利。自由権すなわち国家からの放任を保障する法的な力は,近代憲法典の人権宣言の中核をなし,自然法思想,個人主義自由主義に基礎をおき,国家契約説に基づく一定の前国家的権利として不可侵,不可譲性をもつと考えられている。近代憲法はこのような考え方に立って,財産権の不可侵,信仰の自由,言論の自由などを重要な人権として保障した。この保障方式は,当初は行政権の侵害に対する議会制定法による保障 (法律の留保) であったが,20世紀には議会の侵害に対する憲法による保障が現れた。さらに最近では,私人による侵害からの保障 (基本権の第3者効力) の問題や国際的保障の制度が登場した。経済的自由権については,精神的自由権に対しては許されないような立法による制約が容認される。

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百科事典マイペディア 「自由権」の意味・わかりやすい解説

自由権【じゆうけん】

他人の権利や自由を侵害しない限り,人が何をしても国家権力によって禁止または制限されない憲法上の保障。近世自然法思想に基づく近代憲法の基本原理である。乱用や〈公共の福祉〉に反する場合は制限される(憲法12条)。→基本的人権
→関連項目幸福追求権参政権

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世界大百科事典(旧版)内の自由権の言及

【基本的人権】より

…19世紀に入ると,人権の保障は成文憲法の構成部分となって,世界各国に普及するが,ドイツや日本のように市民革命を経験せずに上からの近代化が進められたところでは,基本的人権も欽定憲法のなかで君主より恩恵的に与えられた国民の権利であって,国家以前の人権ではありえなかった。
[自由権から社会権へ]
 18世紀に成立し,19世紀に普及した古典的人権は,信教の自由,言論・出版の自由,住居の不可侵,財産権の不可侵のように,本質的に個人の〈国家からの自由〉をその内容とする自由権であった。それは,市民革命が市民の自由に対する国家の介入と抑圧の排除を目的としておこったこと,および市民階級の最大の要求が自由と財産権の保障であったことから理解される。…

【自由】より

… しかし,絶対王政期から近代市民社会への展望が開かれるとともに,このような消極的な自由の概念は,より積極的なものへと転換することになる。すなわち,自由は自由権として展開され,〈……からの自由〉とともに〈……への自由〉が強調されるようになるのである。伝統的な価値秩序に代えて新しい秩序を構成しようとしたホッブズは,自由とは〈障害の存在しないこと〉であると定義したが,それは自然権としての消極的自由とともに,契約による秩序の構成という積極的自由をも含意するものであった。…

※「自由権」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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