デジタル大辞泉
「や」の意味・読み・例文・類語
や[接助・副助・終助・間助・並助・係助]
[接助]動詞・動詞型活用語の終止形に付く。ある動作・作用が行われると同時に、他の動作・作用が行われる意を表す。…とすぐに。…すると。「わたしの顔を見るや逃げ出した」
[副助]名詞、名詞に準じる語に付く。「やもしれない」などの形で、軽い疑問の意を表す。…か。「午後から雨が降るやもしれない」
[終助]活用語の終止形・命令形に付く。
1 同輩・目下の者などに対して軽く促す意を表す。「そろそろ出かけようや」「もう帰れや」
2 軽く言い放すような気持ちを表す。「もう、どうでもいいや」
3 疑問や反語の意を表す。…(だろう)か。…だろうか(いや、そうではない)。「この結末はどうなりましょうや」「どうして私に言えましょうや」
[間助]名詞、名詞に準じる語、副詞に付く。
1 呼びかけを表す。「花子や、ちょっとおいで」
「我妹子―我を忘らすな石上袖布留川の絶えむと思へや」〈万・三〇一三〉
2 強意を表す。「今や、経済危機を迎えようとしている」「またもや地震が起こった」
3 詠嘆・感動の意を表す。
「いで、あな幼な―」〈源・若紫〉
「夏草―つはものどもが夢の跡/芭蕉」〈奥の細道〉
[並助]名詞、名詞に準じる語に付く。事物を並列・列挙する意を表す。「赤や黒や青が混ざり合っている」「海や山などに行く」「甘いのや辛いのがある」
「羽音ガ台風―、雷ナドノヤウニ聞コエタレバ」〈天草本平家・二〉
[係助]名詞、活用語の連用形・連体形、副詞・助詞などに付く。なお、上代には活用語の已然形にも付く。
1 文中にあって、疑問・反語を表す。
㋐疑問を表す。…(だろう)か。…かしら。
「ももしきの大宮人は暇あれ―梅をかざしてここに集へる」〈万・一八八三〉
「男、異心ありてかかるに―あらむと思ひ疑ひて」〈伊勢・二三〉
㋑反語を表す。…だろうか(いや、そうではない)。
「月―あらぬ春―昔の春ならぬわが身一つはもとの身にして」〈伊勢・四〉
2 文末用法。
㋐疑問を表す。…(だろう)か。…かしら。
「いかにぞ、からめたり―」〈古本説話集・下〉
㋑反語を表す。…だろうか(いや、そうではない)。→やは
「妹が袖別れて久になりぬれど一日も妹を忘れて思へ―」〈万・三六〇四〉
「かばかり守る所に、天の人にも負けむ―」〈竹取〉
[補説]は「ドアが開くやいなや、ホームに飛び降りた」のように「やいなや」の形で慣用的に用いられることが多い。1の場合、文末の活用語は連体形で結ばれる。「ぼろぼろ(=虚無僧)といふもの、昔はなかりけるにや」のように結びの言葉が省略されることもある。また、2を終助詞とする説もある。
や[感]
[感]
1 驚いたときや不意に気づいたときに発する語。「や、火事だ」
2 突然または偶然に出会った人に呼びかけるときに発する語。「や、しばらく」
3 力をこめたり気合いをかけたりするときに発する語。また、音曲などの囃子詞。やっ。
4 呼びかけに答える語。はい。
「『して太刀は』『―、ござらぬな』」〈虎明狂・真奪〉
や[五十音]
1 五十音図ヤ行の第1音。硬口蓋と前舌との間を狭めて発する半母音[j]と母音[a]とから成る音節。[ja]
2 平仮名「や」は「也」の草体から。片仮名「ヤ」は「也」の草体を楷書化したもの。
[補説]「や」は、また、「きゃ」「しゃ」「ちゃ」などの拗音の音節を表すのに、「き」「し」「ち」などの仮名とともに用いられる。現代仮名遣いでは、拗音の「や」は、なるべく小書きすることになっている。
や[助動]
[助動]《敬語の助動詞「やる」の命令形「やれ」の音変化》…なさいな。
「早う寝や」〈浄・曽根崎〉
や[接尾]
[接尾]人を表す名詞や人名などに付いて、親しみの意を添える。「ねえや」「坊や」「爺や」「きよや」
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や
- [ 1 ] 〘 間投助詞 〙
- ① 種々の語を受けて詠嘆を表わし、また、語調を整えるのに用いられる。
- (イ) 囃子詞(はやしことば)として歌謡に用いられるもの。
- [初出の実例]「ええ し夜(ヤ)ごし夜(ヤ) こはいのごふそ ああ し夜(ヤ)ごし夜(ヤ) こは嘲笑(あざわらふ)そ」(出典:古事記(712)中・歌謡)
- (ロ) 連用修飾語(主語も含む)を受けるもの。
- [初出の実例]「神風の 伊勢の海の大石に夜(ヤ) い這ひもとほる」(出典:日本書紀(720)神武即位前・歌謡)
- (ハ) 連体修飾語を受けるもの。
- [初出の実例]「鴫羂(しぎわな)張る 我が待つ夜(ヤ) 鴫(しぎ)は 障(さや)らず」(出典:古事記(712)中・歌謡)
- 「ほととぎす鳴くやさ月のあやめぐさあやめも知らぬ恋もする哉〈よみ人しらず〉」(出典:古今和歌集(905‐914)恋一・四六九)
- (ニ) 終止した文を受けるもの。終助詞とする説もある。
- [初出の実例]「柔手(にこで)こそ わが手を取らめ 誰が裂手(さきで) 裂手そも野(ヤ) わが手取らすも野(ヤ)」(出典:日本書紀(720)皇極三年六月・歌謡)
- 「『助けよや、猫股、よやよや』とさけべば」(出典:徒然草(1331頃)八九)
- (ホ) 已然形を受けるもの。
- [初出の実例]「風吹けば浪うつ岸の松なれやねにあらはれてなきぬべら也〈よみ人しらず〉」(出典:古今和歌集(905‐914)恋三・六七一)
- (ヘ) 形容詞・形容動詞の語幹(シク活用形容詞は終止形)を受けるもの。
- [初出の実例]「『あなわびしや、いとあつし』との給へば」(出典:宇津保物語(970‐999頃)国譲中)
- 「金の御嶽にある巫女(みこ)の打つ鼓、打ち上げ打ち下ろし面白や」(出典:梁塵秘抄(1179頃)二)
- (ト) 独立語を受けるもの。
- [初出の実例]「やよや待て山郭公(やまほととぎす)ことづてんわれ世の中に住みわびぬとよ〈三国町〉」(出典:古今和歌集(905‐914)夏・一五二)
- (チ) 和歌などの初句にあって体言を受け、場面を提示し詠嘆をこめる。後に俳句の切字となる。
- [初出の実例]「志賀の浦や遠ざかり行く浪まより氷りて出づる有明の月〈藤原家隆〉」(出典:新古今和歌集(1205)冬・六三九)
- 「古池や蛙飛こむ水のをと〈芭蕉〉」(出典:俳諧・春の日(1686))
- (リ) 副詞を受けて意味を強めるもの。→今や・必ずや・又もや。
- ② 人を表わす体言を受け、呼びかけを表わす。
- [初出の実例]「天ざかる 鄙(ひな)も治むる 大夫(ますらを)夜(ヤ) 何かもの思(も)ふ」(出典:万葉集(8C後)一七・三九七三)
- 「あが君やをさなの御もの言ひや」(出典:源氏物語(1001‐14頃)宿木)
- ③ 語を列挙する間に用いる。
- (イ) 同種の語を列挙し、漠然とした並列を表わす。並立助詞とする説もある。→彼(あれ)やこれや・何やかや。→語誌( 1 )。
- [初出の実例]「雨や風、猶やまず」(出典:蜻蛉日記(974頃)中)
- 「御あそびせさせ給ひやもてなしかしづき申人などもなく」(出典:大鏡(12C前)二)
- (ロ) 反対の意味のことばを列挙し、強調する。→疾(と)しや遅し。
- ④ 動詞の連体形を受け、「…と」「…時は」の意を表わす。→語誌( 2 )。
- [初出の実例]「国会の準備に奔走するや、諸君は必ず思惟せしならん」(出典:雪中梅(1886)〈末広鉄腸〉上)
- [ 2 ] 〘 係助詞 〙 疑問または反語の意を表わす。→語誌( 3 )。
- ① 文中にあって係りとなり、文末の活用語を連体形で結ぶ。
- (イ) 連用修飾語(主語も含む)を受けるもの。→語誌( 4 )。
- [初出の実例]「遊び歩きし 世の中野(ヤ) 常にありける」(出典:万葉集(8C後)五・八〇四)
- 「夜や暗き道やまどへるほととぎすわが宿をしも過ぎがてに鳴く〈紀友則〉」(出典:古今和歌集(905‐914)夏・一五四)
- 「宿なきままの宿としていくたび夢やさますらん」(出典:御伽草子・梵天国(室町末))
- (ロ) 条件句を受けるもの。上代では接続助詞「ば」を介せず已然形に直接する。
- [初出の実例]「朝井堤に来鳴く貌鳥(かほとり)汝だにも君に恋ふれ八(や)時終へず鳴く」(出典:万葉集(8C後)一〇・一八二三)
- 「久方の月の桂も秋は猶もみぢすればやてりまさるらむ〈壬生忠岑〉」(出典:古今和歌集(905‐914)秋上・一九四)
- ② 文末用法。→とかや。
- (イ) 終止形を受けるもの。→得たりやおう。
- [初出の実例]「汝こそは世の長人 そらみつ大和の国に 雁卵(こ)産(む)と聞く夜(ヤ)」(出典:古事記(712)下・歌謡)
- 「名にし負はばいざ事とはむ宮こ鳥わが思ふ人はありやなしやと」(出典:伊勢物語(10C前)九)
- (ロ) 已然形を受け、反語の意を表わす。
- [初出の実例]「雲ばなれ 退(そ)き居りとも われ忘れめ夜(ヤ)」(出典:古事記(712)下・歌謡)
やの語誌
( 1 )「や」の並立用法として「みな人の花や蝶やといそぐ日もわが心をば君ぞ知りける」〔枕‐二三九〕の例を挙げる説もあるが、これは引用の「と」に続いており詠嘆用法とすべきである。なお並立用法の成立は一〇世紀から一一世紀初の頃という。
( 2 )[ 一 ]④の用法を接続助詞とする説もあるが、本来は詠嘆的強調であって、[ 一 ]①の近代的用法と見られる「此日や天晴て千里に雲のたちゐもなく」〔雨月物語‐菊花の約〕の例と異なるものではない。主として近代の文語文に用いられる。
( 3 )同じく疑問・反語を表わす「か」との違いは、文末用法の場合「や」が問いかけを表わす点であるが、上代既に「や」は「か」の領域を侵しつつあった〔沢瀉久孝「『か』より『や』への推移」万葉集の作品と時代〕。
( 4 )中古以前、疑問語の下には「や」を用いず「か」を用いたが、中世以後乱れた例も現われる。
や
- 〘 感動詞 〙
- ① 驚いたり困惑したりした時に思わず発することば。
- [初出の実例]「や、たれぞや。などおぼえぬ」(出典:宇津保物語(970‐999頃)吹上上)
- ② 人に呼びかける時にいうことば。
- [初出の実例]「咄(ヤ)、汝、何ぞ此の穢(きたな)き地に居るといひ〈真福寺本訓釈 咄(ヤ)〉」(出典:日本霊異記(810‐824)下)
- ③ 横柄な態度で応答する時にいうことば。
- [初出の実例]「『やあ是(これ)是』『や』『夫(それ)は何をおしある』『ハア、あぜを直します』」(出典:雲形本狂言・水掛聟(室町末‐近世初))
- ④ 何か勢いよくしようとして発するかけ声や、歌謡などのはやしことば。〔名語記(1275)〕
- [初出の実例]「所領もちもちのうへに、なをぜにもちこそめでたけれ。や、ゑいやととや」(出典:虎明本狂言・餠酒(室町末‐近世初))
- ⑤ ことばを並べあげる時、そのはじめに添えることば。やれ。
- [初出の実例]「ヤレ芸者の、ソレたいこもちの、ヤ何だはかだはと」(出典:滑稽本・浮世風呂(1809‐13)前)
- ⑥ 男子が用いる軽い挨拶のことば。
- [初出の実例]「昇は急足(あしばや)に傍へ歩寄(あゆみよ)り、『ヤ大(おほき)にお待遠う』」(出典:浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉二)
や【や・ヤ】
- 〘 名詞 〙 五十音図の第八行第一段(ヤ行ア段)に置かれ、五十音順で第三十六位のかな。いろは順では第二十九位で、「く」のあと、「ま」の前に位置する。現代標準語の発音では、硬口蓋と前舌との間を狭めて発する有声の半母音 j と母音 a との結合した音節 ja にあたる。イ段のかなに添えてア段の拗音を表すことがある。現代かなづかいでは拗音の場合「や」を小文字で添える。「や」の字形は、「也」の草体から出たもの、「ヤ」の字形は、同じく「也」の草体を再び楷書化するところから生じたものである。ローマ字では、ya と書く。
や
- ( 助動詞「やる」の命令形「やれ」の略、または、助動詞「やす」の終止形「やす」の略 ) 活用語の連用形に付いて、対等またはそれに近い目下の、親愛の関係にある者に対する指図に用いる。…なさい。
- [初出の実例]「のふのふくわじゃまちやまちや」(出典:狂言記・相合袴(1660))
- 「はつも二階へ上って寝や。早う寝や」(出典:浄瑠璃・曾根崎心中(1703))
や
- 〘 助動詞 〙 ( 「じゃ」の変化した語。活用は、未然形「やろ」連用形「やっ」終止形「や」の形がみられる ) 指定の意を表わす。…だ。…じゃ。上方語。江戸末期頃からみられる。
- [初出の実例]「成駒屋はんが何たらの時おさむらいに成て出(で)やはるきれいなきれいなお士(さむらい)はんや」(出典:洒落本・興斗月(1836))
や
- 〘 接尾語 〙 人を表わす名詞や人名などに付けて、親しみを表わす。目下の者や使用人などの通称に添えて用い、特に人名の場合は、女中などの名に添えて使われた。「じいや」「坊や」「ねえや」「うめや」など。
や
- 〘 接尾語 〙 状態を表わす造語要素に付いて、そういう感じである意を添える。「にこや」「なごや」など。なお、接尾語「やか」に含まれるものも同じものと考えられる。
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例
や
五十音図第8行第1段の仮名で、平仮名の「や」は「也」の草体からでき、片仮名の「ヤ」も「也」の草体を簡略化したものである。万葉仮名では「夜、移、也、野、耶、楊、椰(以上音仮名)、八、矢、屋(以上訓仮名)」などが使われた。ほかに草仮名としては「(也)」「(夜)」「(哉)」「(耶)」などがある。
音韻的には/ja/で、舌面と歯茎硬口蓋(こうがい)とを狭めて発する摩擦音[j]を子音にもつ(母音の[i]と非常に近い音なので半母音ともいう)。平安時代の初めまでは、ア行のエ(衣)とヤ行のエ(江)とは区別されていた。
[上野和昭]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例