ウルフ(Howlin' Wolf)(読み)うるふ(英語表記)Howlin' Wolf

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ウルフ(Howlin' Wolf)
うるふ
Howlin' Wolf
(1910―1976)

アメリカのブルースシンガーギタリスト。本名チェスター・バーネットChester Burnett。第二次世界大戦後のシカゴ・ブルースを代表するブルースマン。ブルース・シーンに長くとどまり、黒人のための音楽としてブルースを歌い、多くのミュージシャンの精神的支柱となった。

 ミシシッピ州ウェスト・ポイントに生まれる。綿花畑での労働を子供のころから強いられていたが、1923年に家族とともにミシシッピ・デルタ中央部のルールビルに移ったことが、後のミュージシャンとしてのウルフをつくることになる。すなわち、このエリアのもっとも影響力のあるエンターテイナーで、デルタ・ブルースミシシッピ川とヤズー川に挟まれたデルタ地帯で古くから盛んに歌われたブルース)の功労者チャーリー・パットンに1928年ごろ出会い大いに感化される。だみ声でうなるように歌うスタイル、見るものを楽しませようとするエンターテイナーとしての素養は、いずれもパットンとの接触によりこのころ形作られた。その後1930年代にサニー・ボーイ・ウィリアムソンⅡSonny Boy Williamson Ⅱ(1899―1965、ウルフの妹と一時結婚していた)やロバート・ジョンソンらとも活動、ブルカウ、ビッグ・フットといったステージ・ネームで知られるようになる。

 1941年陸軍に入隊、1945年に除隊後綿花畑での労働に戻るが、1948年にアーカンソー州ウェスト・メンフィスのラジオ局KWEMでDJ兼シンガー兼広告宣伝マンとして番組をもったことから急速に知名度をあげ、これを聞いたサム・フィリップスSam Philips(1923―2003、エルビス・プレスリーを後に発掘して有名になる)からレコーディングの声がかかる。デルタ・ブルース・ギターの元祖パットン、ブルース・ハープハーモニカ)の魔術師ウィリアムソンという両巨人からの直伝であったが、ウルフのテクニックはどちらもそう特筆すべきものでもなかった。「ハウ・メニー・モア・イヤーズ」「ライディン・イン・ザ・ムーンライト」(ともに1951)といった初期のヒット曲は、当時の南部のジューク・ジョイント(黒人専用のクラブ)での黒人ブルースマンの演奏ぶりを色濃く表している。

 1952年にシカゴに移住、本格的にミュージシャンとして活動し、チェス・レコードに吹き込みを続ける。その後バンドのメンバーにも恵まれ、「イーブル」(1954)、「スモークスタック・ライトニン」「アイ・アスクト・フォー・ウォーター」(ともに1956)といった絶頂期の名作を残す(いずれも『モーニン・イン・ザ・ムーンライト』(1958)収録)。

 1960年代に入ると、ウィリー・ディクソンWillie Dixon(1915―1992)の楽曲を多く吹き込み、「ザ・レッド・ルースター」「アイ・エイント・スーパースティシャス」(ともに1961)、その他ユーモラスな曲で人気を博す。ローリング・ストーンズがウルフに特別の敬意を払い「ザ・レッド・ルースター」をカバーし、イギリス・ヒット・チャートで1位にしたことからロック・ファンの間でも1960年代中ごろには知られるようになる。1965年には本人も全く想像しなかったアメリカ、ABCテレビの音楽番組「シンディグ」に出演しブルースを歌う。これ以降、ロック・ミュージシャンに尊敬されるブルースマンとして『ザ・ロンドン・ハウリン・ウルフ・セッションズ』(1971、エリック・クラプトン、ローリング・ストーンズ、リンゴ・スターRingo Starr(1940― )らとのセッション)といったアルバムも作られたが、けっして波長の合ったものではなかった。

 1970年代は何度も心臓発作に見舞われ、そのたびにカムバックし不屈の闘志をみせ、『ザ・バック・ドア・ウルフ』(1973)のような名作も発表する。しかしついに癌(がん)には勝てず永眠した。ウルフの志はウルフ・ギャングといったグループにも伝えられ、そのブルース・スピリットはシカゴで受け継がれている。

[日暮泰文]

『Peter WeldingI Sing for the People; The Howlin' Wolf Interview,(in Down Beat ,1967, Maher Publications, Elmhurst)』『Peter GuralnickLost Highway(1979, David Godine, Boston)』

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