ラテン語のoccultum(〈隠されたもの〉の意)が語源。隠秘論,隠秘学などと訳され,(1)自然や精神生活について,近代科学の体系に組み込まれていない未知の諸現象を探究して,そこから隠された秘密を抽出し,(2)こうして取得した秘密の知を媒体にして,宇宙,自然,人間の現実をより高次の現実へと変容せしめようとする信仰,理論,技術をいう。これらの現象は,特異な能力にめぐまれた霊媒や超能力者を通じて発現することがあり,その際当事者の感覚器官が高度にたかまるあまり,テレパシー,透視,念力のような不可思議が見られ,また特定の個人や場所に結びついたお化け,幽霊,分身の現実化を招き寄せたりもする。近代科学が忘れ去った古代以来の秘密の知,占星術,魔術,錬金術,神智学,降霊術,カバラなども多かれ少なかれオカルティズムの総称の下に包括される。現代では超心理学の別名の下に科学的なアプローチも行われる。
〈オカルト〉という語は16世紀前半からあらわれはじめたが,オカルト的信仰そのものの起源は古く,エジプトやメソポタミアの占星術,ヘブライのカバラ,古代ギリシアのピタゴラス教にまでさかのぼる。古代の秘密の知は道士たちの集団のなかで儀礼的に伝承されたが,近代オカルティズム運動にあっても,薔薇十字団やフリーメーソンのような,秘儀伝授のための結社や分派がおびただしく出現した。オカルティズムはまずルネサンス期に,キリスト教的中世のなかでは表面から隠されていたさまざまな古代の知を総合して再生せしめようとする精神運動のなかにあらわれた。フィレンツェではフィチーノがプラトンや新プラトン主義者たちの著作の翻訳を通じて,その弟子ピコ・デラ・ミランドラがヘブライ語=カバラ研究を通じて,それぞれ古代の隠された知をよみがえらせ,ルネサンス芸術の理論的支柱を提供した。北方ではピコの盟友ロイヒリンやトリテミウスの後をうけて,ネッテスハイムのアグリッパが,中世を通じてスコラ学的に形骸化され,わずかに悪魔学や天使学に退化した姿をとどめるのみだったオカルティズム理論を,錬金術や占星術のような自然界に依存する分野にはじめて適用した(《隠秘哲学》1531)。これ以後パラケルススが医学,錬金術,薬草学のような自然学の基盤の上に秘密の知を展開して,近代オカルティズム成立へと大きく転回せしめた。〈大いなる転回〉(W.E. ポイカート)と称されるこの精神運動はフラッド,アンドレーエらを巻き込んで全ヨーロッパ的な規模で展開され,三十年戦争の危機に際しては,分裂したヨーロッパの統一再生をはかる錬金術的処方として,薔薇十字団の綱領《世界の普遍的改革》に政治的表現をすら見いだした。シェークスピア晩年の戯曲《テンペスト》は,こうしたルネサンス期オカルティズムに関する寓意をはらんでいるといわれる。
オカルティズムはその後18世紀啓蒙主義時代とこれに続くロマン主義の時代にふたたび隆盛を見た。フランス革命前後には,フリーメーソン系の怪人物サン・ジェルマン伯やカリオストロが暗躍し,メスマーの動物磁気説に基づく療法が絶大な人気を博した。文学作品ではJ.C.F.シラーの《見霊者》(1787),バルザック《セラフィータ》(1834)やネルバルの諸作品に濃厚な影を落とした。そして19世紀末にオカルティズムはもう一度開花した。口火を切ったのはE.レビであり,オカルティズムという語は彼によってはじめて定着した。レビは主著《高等魔術の教理と祭儀》(1856)によって同時代に衝撃を与え,その影響下からパピュスの〈マルティニスト協会〉が生まれた。レビやパピュスの理論は,ユイスマンス,M.バレス,ペラダンのような文学者をはじめ,〈薔薇十字団サロン展〉に参加した画家たち(ゴーギャン,G. モロー,ナビ派など)をも魅了し,フランス象徴主義に文学的芸術的表現を見いだした。イギリスではW.W.ウェストコットがオカルト結社〈黄金の暁教団〉を組織し,D.フォーチュン,クローリー,S.L.M.メーザーズのような魔術師を傘下から生み出し,また詩人W.B.イェーツに霊感を与えた。一方,ブラバツキー夫人の神智学協会から分離したシュタイナーは,ドイツ・オーストリアを中心に人智学協会を創立,20世紀オカルティズムの一大潮流を形成した。イギリス・オカルティズムの一部はクローリーらのアメリカ移住以後合衆国に根づき,亡命アルメニア人の導師グルジェフの霊的行法とともに,とりわけ1960年代以降新大陸の若い世代に刺激を与え,音楽,ドラッグ文化,ヨーガ,自然食運動,タントリズムなどと習合して,新たな局面を迎えている。
→神秘主義 →ヘルメス思想
執筆者:種村 季弘
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
秘密、隠匿を意味するラテン語のoccult(-us)に由来する語で、本来は神秘、不可思議な事柄をめぐる観念と儀礼・慣行を意味したが、やがて広くあらゆる種類の呪術(じゅじゅつ)的、秘儀的、奇蹟(きせき)的な観念と儀礼・慣行をさすに至った。オカルティズムは、自然法則を超えてなお人間の運命や世界のあり方を左右しうる諸存在や原理、力が存在するとの観念・思考に基づいているので、科学的合理性によっては説明できない領域にかかわるものとされる。したがってオカルティストは、超自然的存在や原理や力を操作できる超能力の獲得と行使がその使命となる。千里眼的な透視力や予言力または精神力などへの探究は、降霊、霊媒、憑霊(ひょうれい)、祓魔(ふつま)、占星、手相、錬金、占い棒による水(鉱)脈探査、水晶占い、数秘学などの秘術を生み出すこととなる。
超能力の獲得、開発は、一定の伝承的な型に従い、師弟関係において行われることが多い。密教や修験道(しゅげんどう)にはオカルト的要素が多くみられる。オカルト的領域と宗教的領域とは重なり合っていることが少なくない。とくに超自然的存在と力を強調する宗教は、古代と現代とを問わず、オカルト的要素を多く備えている。一般に宗教の教義体系が整い、観念化が進むにつれ、オカルト的観念や儀礼・慣行は軽視され、排除されることが多い。
[佐々木宏幹]
『W・E・バトラー著、大沼忠弘訳『オカルト入門』(1975・角川書店)』
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...
12/17 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新