出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
室内遊戯具の一種。絵や字を描いた札,またこれを用いた遊び。明治初期以降における日本独自の呼称で,それまでは〈西洋がるた〉と呼ばれていた。英語ではプレーイング・カードplaying card(略してカードcard)といい,トランプtrump(勝利triumphと同語源)は〈切札〉のことをいう。
カードの起源は東方にあるといわれ,18世紀フランスの神秘学者クール・ド・ジェブランは,カードと密接な関係にあると考えられているタロットのエジプト起源説を唱え,その他チェスと同様にインド起源説,中国唐時代の紙幣起源説があるが,いずれも確証はない。これがサラセン人,十字軍,あるいはジプシーによってヨーロッパにもたらされたといわれ,14世紀イタリアを中心に発達したものと思われる。スイスにいたドイツ人修道士ヨハネスの記述によれば,1377年にカードが伝来したといい,それは各3枚の絵札を含む4種のマークからなる52枚であった。15世紀初頭には北イタリアでタロット(タロッキ)が登場する。タロットは〈大アルカナ〉と〈小アルカナ〉に分けられ,後者と現在のカードには共通点がみられるが,相互の関係については諸説あり,正確なことはわからない。
初期には手描きだったカードも,15世紀前半には木版刷りとなり,ドイツで盛んに生産されたため,イギリスなどでは一時は輸入禁止で対抗した。1615年にイギリスは輸入関税を設け,ついで28年には国内生産のものにもカード税を課し,のち各国もこれに従った。1765年以後はスペードのエースに納税証明を印刷するようになった。現在のデザインにもそのなごりをみることができる。日本でも1902年から国税(骨牌税)が課せられた。19世紀になるとイギリスやフランスでカードの製法に改良が加えられ,1930年代にはプラスチックを材料にしたものもつくられるようになった。
日本には16世紀後半にポルトガルから48枚組のカードが持ち込まれ,日本化して〈天正かるた〉となったが,現在のような52枚組のカードが輸入されるようになったのは明治初年である。1887年には《西洋遊戯かるた使用法》が出版されている。以来,カードは一般家庭で人気を得ているが,日本では子どもの遊び道具という面が強く,その競技法は国際的には通用しない変型ルールが多いため,技術と戦略を必要とするゲームは普及していない。
ひとそろいのカードの組をパックまたはデックという。1パックのカードは幾種類かのマークに分類され,それぞれのマークのひとそろいをスートと呼ぶ。スペード,ハート,ダイヤ,クラブの4スートからなる1パック52枚のカードが国際的に通用し,スタンダード・パックとされているが,これはフランスを起源にしたものである。スペインでは40枚のパック,ドイツ,フランスでは32枚のパックがいまでも販売されている。これらはオンブル,スカート,ピケなどのゲームに使用する。
絵札court cardは各スートにキングking,クイーンqueen,ジャックjackがあり,ドイツ語でKönig,Dame,Bauer,フランス語でroi,dame,valetという。52枚のスタンダード・パックにはジョーカーjokerが1枚もしくは2枚つけ加えられるのが普通であるが,ジョーカーの導入は19世紀後半になってからである。
スートの図柄と呼名も地方によって異なるが,伝統的に次の3種に分けられる。(1)フランス,イギリス系 スタンダード・パックのスート。スペードspade,ハートheart,ダイヤモンドdiamond,クラブclubの4種。図柄の起源はフランスで,槍pique,心臓cœur,教会の敷石carreau,三葉trèfleだったものが16世紀後半にイギリスに入った。英語spadeは鋤(すき)のことではなく,イタリア語spada(剣)を借入したものである。(2)イタリア,スペインなどのラテン系 カードの発生当時からの図柄と思われ,日本で西洋かるたといわれたポルトガルのものもこの系統である。剣spada(ポルトガル語でespada),聖杯coppa(copo),貨幣denaro(ouro),こん棒bastone(pau)。(3)ドイツ,オーストリア系 木の葉Grün,心臓Herz,鈴Schelle,どんぐりEichel。
カード・ゲーム全般に共通する手順は次のとおりである。(1)親(ディーラー,配り手)を決めるための抽選(ドロー)。一般にはテーブル上に置いたカードを各人が1枚ずつ引いて最高位の人を親とする。(2)カードの順序がだれにもわからないようによくかきまぜる。これを〈切る(シャッフル)〉という。(3)カードが適切に切られた確認と親の不正防止のため,親の隣の人がカードを二つに分け,その上下を入れかえる。これをカットという。(4)カードを配る(ディール)。標準的には親の左隣から時計回りで配るが,イタリアやポルトガル,西洋かるたの習慣を残している日本などでは逆時計回り。
カード・ゲームをその性格によって大別すると次のようになる。
(1)カードの組合せを主眼とするもの 16~17世紀のゲームであるプリメロprimeroをはじめ,アメリカのポーカー,イギリスの伝統的な二人遊びクリベッジcribbage,それにラミー系のゲームであるジン・ラミーgin rummyや2組のカードを使用するカナスタcanastaなどがある。
(2)トリックをとるゲーム 各人が順にカードを出し,最強の札を出した者が出されたカードを全部(これをトリックという)とる。この種のゲームの特徴は,各人が取得したトリックの数(またはそのトリックに含まれている点数)を争うことにある。ナポレオン,古代ゲームのタロット,スペインのオンブルhombre,フランスのピケpiquet,ドイツのスカートSkat,アメリカのピノクルpinochle,イギリスのホイストwhistなどがあるが,現在最も人気のあるのはブリッジである。
(3)ストップ系のゲーム ルールに従ってカードを場に出していって,手札を全部なくした者が出た時点でゲームが終了(ストップ)するもの。日本で行われているのはこのタイプがほとんどである。ばば抜き,ダウト,ページ・ワン,七並べ,エイトなど。
(4)カードの合計点を特定の数に近づけるのを目的とするゲーム 代表的なゲームは21点をめざすブラックジャックblackjack(twenty-one)で,日本版は〈どぼん〉。9点をめざすバカラbaccaratは日本では〈かぶ〉と同じ。ギャンブルに用いられるのがこのタイプのゲームの特徴である。
(5)その他 日本の花札のように場札と手札をあわせてとるゲームにイタリアのカシノcasinoがある。またルーレットのように,盤を使ってカードの出方を予想するフェアロfaroという賭博も盛んに行われた。
(6)ひとり遊び イギリス風にいえばペーシェンスpatience,アメリカではソリテールsolitaire。その歴史は比較的新しく,18世紀の終りころであろうといわれている。カードを一定のルールに従って並べていき,決められた組合せを完成させられるかどうかを楽しむ。クロンダイクklondike,キャンフィールドcanfield,アコーディオンaccordionなどがある。
→骨牌(かるた) →タロット
執筆者:松田 道弘
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…日本には外来のカルタの流れをひく,おもに賭博に使われるかるた(花札など)と,古来の貝覆(かいおおい)の流れをひく,おもに教育を目的とするかるた(《小倉百人一首》など)とがある。なお,西洋かるたをトランプtrumpと通称するが,トランプは正しくは西洋かるたの切札のことをいう。
[賭博系かるた]
16世紀後半に初めてポルトガル人が日本に持ち込んだと考えられるカルタは,今日のトランプとは別のもので,ハウ(棍棒),イス(剣),コップ(聖杯),オウル(貨幣)の4種がそれぞれ1から12まであって,合計48枚から成り,1の札に竜,10に女従者,11に騎士,12に王がそれぞれ描かれている。…
…農村では旅籠屋が集会場を兼ねた賭博場であり祭日にはつねに賭博がなされた。中世末期にヨーロッパ南部に出現したプレーイング・カード(トランプ)は新しい型の賭博として熱狂的に愛好され,ヨーロッパ全土に広まった。この画期的な賭博用具は多くの婦人たちを賭博にひき入れた。…
※「トランプ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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