ドーピング(読み)どーぴんぐ(英語表記)doping

翻訳|doping

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

ドーピング(スポーツ)
どーぴんぐ
doping

スポーツにおいて、禁止された薬物や方法を不正に使用すること。ドーピングの語源は、南部アフリカの先住民が祭礼のときに飲む強い酒ドープdopとの説がある。ドーピングを禁止して根絶する活動をアンチ・ドーピングanti-doping活動という。「anti-doping」の日本語訳は「アンチ・ドーピング」あるいは「ドーピング防止」が使われる。2013年時点の代表的な禁止物質には、筋肉増強作用のある「蛋白(たんぱく)同化男性化ステロイド薬」(男性ホルモンを含む)、持久力を向上させる「エリスロポエチン」、筋肉などの成長と代謝を向上させる「成長ホルモン」、他の禁止物質の使用を隠蔽(いんぺい)する作用のある「利尿薬」、興奮作用のある「興奮薬」などがあり、禁止方法としては、持久力を増加させる「輸血」(自己血輸血を含む)、隠蔽作用がある「点滴静注」、競技能力を高める可能性のある「遺伝子ドーピング」などがある。禁止物質と禁止方法は毎年見直されるが、近年は大きな変更は少ない。[赤間高雄]

ドーピングとアンチ・ドーピング活動の歴史

スポーツにおけるドーピングは19世紀後半から記録されている。1960年のオリンピック・ローマ大会で興奮薬使用による自転車競技選手の死亡事故が起こり、選手の健康を守る観点からオリンピックにおけるドーピング規制が議論され、1968年の冬季オリンピック・グルノーブル大会と夏季メキシコ大会から正式にドーピング検査が実施されるようになった。しかし、その後もドーピングは後を絶たず、1988年ソウル大会の陸上男子100メートルで驚異的な記録を出したベン・ジョンソンBen Johnson(1961― )が蛋白同化男性化ステロイド薬の検出によって金メダルを剥奪(はくだつ)された。2004年のアテネ大会では男子ハンマー投げのアヌシュAnnus Adrin(1973― )がドーピング違反によって金メダルを剥奪され、日本の室伏広治(むろふしこうじ)(1974― )が繰り上がりで金メダルを獲得したことは、クリーンな選手の権利がアンチ・ドーピング活動によって守られた例である。[赤間高雄]

ドーピングが禁止される理由

スポーツはフェアプレーを基本として一定のルールのもとで正々堂々と勝敗を競うから、人々はスポーツに価値や魅力を感じる。ドーピングはそういったスポーツの価値を損なわせる行為であるから禁止されているのである。アンチ・ドーピング活動はスポーツの価値やスポーツの完全性sport's integrityを守るために行われている。また、ドーピングとして使用される薬物はさまざまな副作用を引き起こすので、選手の健康を守る観点からもドーピングを禁止する必要がある。そして、ドーピングは薬物乱用を助長して社会的な悪影響があることからも禁止されている。[赤間高雄]

現在のアンチ・ドーピング活動

現在のアンチ・ドーピング活動は、1999年に設立された世界ドーピング防止機構World Anti-Doping Agency(WADA)に、ほぼすべてのスポーツ競技と世界各国が加盟して、統一された世界共通の規則のもとで実施されている。日本はWADAの常任理事国で、2006年(平成18)に「スポーツにおけるドーピングの防止に関する国際規約」を締結し、2011年に施行された「スポーツ基本法」において、国は日本アンチ・ドーピング機構(JADA)と連携してアンチ・ドーピング活動を推進するとされている。
 世界共通のアンチ・ドーピング規則としてWADAが策定したのが、世界ドーピング防止規程World Anti-Doping Code(WADA規程)である。WADA規程では、ドーピング検査陽性以外に、証言などによるドーピングの証明、ドーピング検査拒否、ドーピング検査妨害、共犯関係のスタッフの行為などもドーピングに該当するとしている。WADA規程には、より具体的な規則として、「禁止表」、「治療目的使用に係る除外措置Therapeutic Use Exemptions(TUE)」、「検査」、「プライバシーと個人情報の保護」、「分析機関」の五つに関する国際基準がある。
 禁止表はドーピング禁止物質と禁止方法のリストで、毎年改訂される。禁止物質や禁止方法とされる条件は、(1)競技能力を向上させる、(2)競技者の健康に害を及ぼす、(3)その使用がスポーツ精神に反するとWADAが判断する、の3要件のうち二つ以上を満たすことである。
 ドーピング検査には、競技会検査(おもに試合後に行われる検査)と競技会外検査(事前通知せずに練習場所や宿泊場所で実施される検査)がある。競技会検査では禁止表に掲載されたすべての禁止物質と禁止方法が対象となるが、競技会外検査では一部の禁止物質は対象外である。検査では、尿と血液のどちらかあるいは両方を検体として採取し、検体は分析機関に搬送されて禁止物質の有無が分析される。血液中や尿中の禁止物質を直接検出する検査方法に加えて、近年新しい検査方法として、アスリート・バイオロジカル・パスポートAthlete Biological Passport(ABP)が導入された。ABPは、もともと生理的に血液中や尿中に存在している物質を継続的に測定してその変動によって禁止物質や禁止方法を使用した結果を検出する方法で、従来の検査方法では検出がむずかしいエリスロポエチン、自己血輸血、成長ホルモンなどによるドーピングの摘発に有効と考えられている。
 競技者が病気の治療として禁止物質や禁止方法を使用する場合には、申請して承認されれば、治療目的の使用が許可される。その使用許可をTUEという。ドーピング検査で禁止物質が検出されても、その競技者がその禁止物質に対するTUEを取得していればドーピングとはならない。[赤間高雄]

アンチ・ドーピング教育啓発

ドーピング検査で違反者を摘発するだけではドーピングは根絶できない。アンチ・ドーピング活動では、ユース世代へのアンチ・ドーピング教育啓発が重要となっている。日本の学校教育においては、高等学校学習指導要領にドーピングに関する記述が盛り込まれ、2013年度(平成25)から実施されている。[赤間高雄]

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