改訂新版 世界大百科事典 「ユネスコ」の意味・わかりやすい解説
ユネスコ
UNESCO
国際連合教育科学文化機関United Nations Educational,Scientific and Cultural Organizationの略称。教育,科学,および文化の面での国際協力を目的とする国際連合の専門機関。設立の沿革は,第2次大戦中ロンドンに亡命していた諸国政府(ベルギー,チェコスロバキア,フランス,ギリシア,ルクセンブルク,オランダ,ノルウェー,ポーランド,ユーゴスラビア)の文部大臣によって開催された連合国文相会議が,戦争の破壊と荒廃によってもたらされる教育上の諸問題を検討したことに端を発し,1945年11月国際連合教育文化会議が招集され44ヵ国が出席してユネスコ憲章を起草,採択した。憲章は46年11月に発効,本部をパリに置いて発足した。〈戦争は人の心の中で生れるものであるから,人の心の中に平和のとりでを築かなければならない〉という言葉で始まるユネスコ憲章は,教育,科学,文化を通じて諸国民の協力を促進することにより,平和と安全に貢献することを目的とし,そのためにマス・コミュニケーション等を通じて諸国民が知識を交換し,相互理解を深め,一般教育と文化の普及,文化遺産の保存,知識人の交流,出版,芸術の交換等を促進する。そのため,これまでに教育,科学,文化面での国際協力に関する多くの条約,勧告,宣言を採択している。国際連合の加盟国は当然ユネスコの加盟国となる資格をもつが,国連非加盟国も執行委員会の勧告にもとづき,総会の3分の2の賛成をえて加盟を認められる。2005年現在ユネスコの加盟国は191ヵ国である。日本は1951年に60番目の加盟国となったが,第2次大戦後国際社会で孤立した日本が最初に加盟を認められた国際機関であった。
ユネスコの組織は,総会,執行委員会,および事務局からなる。最高機関である総会は通常2年に1回開催され,政策と重要方針の決定,予算の承認等を行う。執行委員会は総会から選出された58名の委員(日本を含む)で構成し(任期は4年),総会が開催されていない期間に総会から委任された権限を行使する。事務局は事務局長(任期4年)と事務局長が任命する職員約2400人からなる。ユネスコの予算には,加盟国の分担金で賄われる通常予算と,予算外財源とが含まれる。後者は国連開発計画から執行機関としてのユネスコが受領する資金がおもなものであるが,そのほかに加盟国の政府や民間からの拠出金がある。
ユネスコの創設当初は,戦争によって荒廃した教育の再建に重点が置かれ,初等教育の無償義務化,東西文化価値の相互認識などを優先領域に指定したが,1960年代からは発展途上国の開発援助の一環としての教育,科学技術に重点を置くようになった。のみならず,その活動には,第三世界の立場を強く反映した政治色の強いものがめだち,ユネスコ財政の最大の負担国である西側先進国からの強い不満と,改革の要求が生まれた。その結果は,まずアメリカが84年末をもってユネスコから脱退し,続いて85年にイギリスとシンガポールが脱退した(イギリスは97年,アメリカは2003年に復帰)。西側諸国が改革を求める点は,(1)ユネスコの活動が本来の目的を逸脱して,〈イスラエル非難〉決議のように過度に〈政治化〉したこと,(2)1978年のマス・メディア宣言(新世界情報コミュニケーション秩序)にみられるような自由主義社会の諸原則に対する挑戦,(3)事務局の無節制ともいえる運用,などがある。日本も,ユネスコの危機を乗り切るために,その抜本的改革を訴えており,具体的にはユネスコ本来の分野の事業を精選し集中して実施すること,第2に予算の膨張を抑制すること,第3に人事,予算の事務局運営の合理化・効率化を図ることが急務であるとして,改革に向けての強い意向を表明した。
なお,加盟各国にはユネスコ国内委員会が原則として置かれ,日本では〈ユネスコ活動に関する法律〉(1952施行)がこれについて規定している。また各国には民間ユネスコ活動を行うユネスコ協会のような団体が組織されている。
→国際連合
執筆者:香西 茂
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報