出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報
中国、山西(さんせい/シャンシー)省北東部にある3000メートル前後の五峰(五台)をもつ仏教の聖山。初め神仙道の徒によって開かれ、5世紀後半に北魏(ほくぎ)の孝文帝によって仏光寺、清涼寺などの寺院が開基されたと伝えられる。このころから五台山は文殊菩薩(もんじゅぼさつ)の住む清涼山と信じられ、長く文殊信仰の中心となった。隋(ずい)・唐時代には法華(ほっけ)、禅、華厳(けごん)、天台、浄土、密教などの高僧が続々と入山し、唐代中期には五台山仏教のピークを迎えた。とりわけ、代宗の世に長安の不空三蔵は、朝廷の援助を背景に南台に金閣寺を建立(767)、五台山を鎮護国家密教の奥の院と位置づけた。こうして文殊菩薩の住地五台山の名は、中国だけでなく朝鮮、日本、中央アジア、チベット、インドにまで伝わり、各地から巡礼者が訪れた。日本からも唐代に玄昉(げんぼう)、霊仙(れいせん)、円仁(えんにん)、宋(そう)代には奝然(ちょうねん)、成尋(じょうじん)らが参詣(さんけい)した。五台山の繁栄は845年の会昌(かいしょう)の廃仏にあっていったん荒廃するが、その後各王朝の保護を受けて復興し、元朝のフビライのときからチベット仏教(ラマ教)が入った。さらに清(しん)朝では太祖ヌルハチが「曼殊(マンジュ)師利皇帝」とよばれるなど早くから文殊信仰との結び付きがあって、五台山は清王朝の手厚い保護を受け、チベット仏教の色彩がきわめて濃厚になった。19世紀後半に五台山を訪れたイギリス人宣教師ギルモアJames Gilmourは、モンゴル人の熱烈なチベット仏教信仰のありさまを伝えている。
[佐藤智水]
『小野勝年・日比野丈夫著『五臺山』(1942・座右宝刊行会)』
韓国(大韓民国)、江原道(こうげんどう/カンウォンド)、太白(たいはく/テペク)山脈中にある山。標高1563メートル。南漢江(なんかんこう/ナムハンガン)の発源地であり、奇岩奇石が多く、山勢が秀麗で国立公園に指定された。この山にある月精寺は新羅(しらぎ)時代に慈蔵律師によって創建され、朝鮮仏教三十一本山の一つとして朝鮮仏教の修練道場であるとともに、多くの参拝客、観光客が絶えない。月精寺境内には国宝の八角九層石塔がある。高山植物と薬草が多い。
[森 聖雨]
中国山西省にある山脈の主峰五山を指す。《華厳経》の受持にともない,5世紀ころから文殊菩薩の住む清涼山にあたると信ぜられ,普賢菩薩の峨嵋山,観音の補陀落山とともに中国三大仏教聖地の一つとなった。浄土教の曇鸞(どんらん)がここに遊び聖跡に感じて出家した話は有名であるが,大塔院寺等いわゆる台中百ヶ寺の基礎が置かれたのも,このころである。窺基は弟子を率いて福田を行い,澄観は華厳寺で華厳,法華を講義,《華厳経疏》をあらわし,また高麗の慈蔵,北インドの仏陀波利,日本の玄昉(げんぼう)など外国僧の入山も相次いだ。ことに不空三蔵が金閣寺,玉華寺の営構と密教の興隆に尽力してから五台山の名はアジア各地に知られるようになり,日本の霊仙や円仁をはじめ,宋代にも盛算,奝然(ちようねん),成尋(じようじん)など足跡を残した者が多い。元代にラマ教が入り,清代にも政策上からラマ教を重んじたため,仏教のほか,ラマ教の色彩も濃い。
→仏光寺
執筆者:藤善 真澄
朝鮮,江原道江陵,旌善,平昌の境の太白山脈の主脈にある満月山,長嶺山,麒麟山,亀王山,毘盧山の五山をさす。山中には月精寺が鎮座している。《三国遺事》によると,新羅末期,宝叱徒・孝明の兄弟が一千の徒を領してこの山に入り,結社を結び国家安泰,百穀豊穣を祈る宗儀を行い,のち孝明は新羅の王位についたという。これは五台山が元来その山中で修行して霊力を獲得するための聖山であったことを示している。主峰の毘盧山(1563m)は朝鮮民族の固有信仰〈光明の世界〉を意味する〈プル〉の仏教的表現である。
執筆者:依田 千百子
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…宋代以後,禅宗を除いて,仏教は一般に衰退したのに,観音信仰だけはあらゆる階層に浸透流行し,一般民衆の生活と深い関連をもったのである。観音の霊場として最も崇信されたのは,浙江省舟山列島の普陀山で,文殊をまつる山西省の五台山,普賢をまつる四川省の峨嵋山とともに,天下の三大仏教道場とされた。とくに海上商人や漁師の信仰をうけたこの普陀山の開基は,日本の入唐僧の慧萼と伝えられている。…
…これに対して仏教の巡礼路は,釈迦の誕生(ルンビニー),成道(ブッダガヤー),説法(ワーラナシー),入滅(クシナガラ)を記念する四大聖地を結びつけたものであるが,そのコースがさきの《マハーバーラタ》に記されている巡礼路の一部と重なっているのは興味深い。中国では古くから天台山や五台山への巡拝が発達し,その伝統は日本にも影響して,とくに修行の場としての霊山を中心に受け継がれていったが,中世以降になると〈観音三十三所巡礼〉と〈四国八十八ヵ所遍路〉が庶民の間に盛んになった。広い地域に散在する寺院や霊場をゆるやかな円運動を描いて巡るところはインドの場合と同じであるが,カミやホトケに見守られつつ行脚する旅であるところに特色がみられる。…
※「五台山」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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