(1)令制の八省の一つ。和訓は〈つわもののつかさ〉という。内外武官の名帳,考課,選叙など人事,および兵士の差発,兵器,儀仗,城隍,烽火の軍政一般を管掌し,兵馬司,造兵司,鼓吹司,主船司,主鷹司を管轄した。構成は,卿,大輔,少輔,大丞各1人,少丞2人,大録1人,少録3人,史生10人,省掌2人,使部60人,直丁4人。成立は大宝令期と考えられるが,それ以前については詳細は不明。《日本書紀》天武4年(675)にみえる兵政官長,大輔をその前身とみる考えがあるが,不詳。兵政官長が長官を意味する用語であれば,当時,他の八省長官が尚書などの用語をもちいていることとの違い,さらには兵政官は太政官の支配下にあって八省に位置づけられるものなのか,など不明の論点が多い。兵部省の性格を,隋・唐のそれと比較するとはなはだしく相違し,隋・唐の基本的性格が削除され,また日本の兵部省が管轄する諸官司についても兵馬司を除いて共通性がない。日本律令制下の兵部省は日本固有の理由のもとに設置されたものである。
執筆者:野田 嶺志(2)明治初年の軍務機関。1869年(明治2)軍務官を改組して設置。海陸軍,郷兵,招募,守衛,軍備,兵学校などを所管し,近代的軍隊の創設にあたった。長官は卿で小松宮嘉彰親王,次官の大輔に大村益次郎が就任したが,大村はまもなく暗殺された。当初は京都にあり大阪に兵学寮を置いたが,同年12月東京に移し,70年2月造兵局,海軍掛,陸軍掛を設け,海陸軍の整備にのりだしたが,陸軍所と兵学寮は71年中まで大阪に置かれていた。71年2月薩長土3藩の兵力をもって御親兵を置き,4月に東山・西海両鎮台を設けた。7月の官制改革により陸軍部,海軍部を置き,8月には東京,大阪,鎮西(熊本),東北(仙台)の4鎮台を置いた。全体としてフランス軍制にならい,軍政機関と軍令機関を分離せず,また府県兵,藩兵をも指揮して警察的機能も発揮し,北海道開拓にも参画した。72年2月廃止され,陸軍省,海軍省となった。
執筆者:田村 貞雄
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奈良時代の軍事官衙(かんが)。八省の一つ。和名「つわもののつかさ」。構成は卿(かみ)1、大輔(だいすけ)1、少輔1、大丞(だいじょう)1、少丞2、大録(だいさかん)1、少録3、史生(ししょう)10、省掌(しょうしょう)2、使部(しぶ)60、直丁(じきてい)4。任務は、内外武官の人事、兵士の差発、兵器、儀仗(ぎじょう)、城隍(じょうこう)、烽火(ほうか)の管理など。律令(りつりょう)以前の675年(天武天皇4)に兵政官長、大輔が任命されているが、これを兵部省官人の前身と考え、このころ成立したと考えられている。しかし、唐(とう)の兵部尚書、天武(てんむ)時代の兵政官長、飛鳥浄御原令(あすかきよみはらりょう)、大宝(たいほう)令、養老(ようろう)令、それぞれの兵部卿がどのように関連しているかは今後の検討が必要。なお近代、1869年(明治2)7月の官制改革で設置された兵部省の構成はほぼ古代官制を継承し、また海陸軍、郷兵、召幕、守衛、軍備、兵学校を管掌したが、72年に廃止され、新たに陸軍省、海軍省が設置された。
[野田嶺志]
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1令制の官司。八省の一つ。全国の兵士の管理・動員,兵器や軍事施設の管理,武官の考課・選叙など,軍事関係の事務にたずさわった。軍事力の行使は衛府(えふ)や将軍が担うもので,兵部省はそのための条件整備を行う官司。卿・大輔・少輔以下の職員がおり,管下には兵馬(ひょうめ)司・造兵司・鼓吹(くすい)司・主船司・主鷹司(たかのつかさ)があった。758~764年(天平宝字2~8)には藤原仲麻呂による官号改称で武部(ぶぶ)省といった。
2明治初年,軍事事項を管轄した政府の中央官庁。1869年(明治2)7月の官制改革により軍務官を廃して兵部省を設置。卿(長官)・大輔(次官)以下の職員をおき,兵学寮・糺問司・造兵司・武庫司を設け,全国の鎮台(ちんだい)を管下とし,陸海軍の軍令・軍政を統轄した。翌年省内に陸軍掛・海軍掛,のちの陸軍部・海軍部を設置。初代兵部卿は仁和寺宮嘉彰(よしあき)(小松宮彰仁)親王,大輔は大村益次郎。72年廃止され,陸軍省・海軍省となった。
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…兵政官長が長官を意味する用語であれば,当時,他の八省長官が尚書などの用語をもちいていることとの違い,さらには兵政官は太政官の支配下にあって八省に位置づけられるものなのか,など不明の論点が多い。兵部省の性格を,隋・唐のそれと比較するとはなはだしく相違し,隋・唐の基本的性格が削除され,また日本の兵部省が管轄する諸官司についても兵馬司を除いて共通性がない。日本律令制下の兵部省は日本固有の理由のもとに設置されたものである。…
…海軍の軍政統轄機関。明治維新後,新政府の軍制では,海軍独立の行政機関はなく,海陸軍務課,軍防事務局,軍務官,兵部省と変遷した。1870年(明治3)兵部省内に海軍掛が設けられ,さらに陸軍部と海軍部とに区分された。…
…このほか,朝廷に出仕する隼人を管理する隼人司,馬匹,兵器の管理にあたる左右馬寮(めりよう)・左右兵庫・内兵庫等の諸司があった。武官の名帳・考選,全国の兵士・兵器・城・烽等の管理にあたる兵部省にも,兵馬司・造兵司・鼓吹司・主船司・主鷹司等が付属していた。 律令兵制は,8世紀を通じて機能した。…
…日本古代の律令制の官庁組織をいう語。狭義には太政官(だいじようかん),神祇官(じんぎかん)の二官と中務(なかつかさ)省,式部(しきぶ)省,治部(じぶ)省,民部(みんぶ)省,兵部(ひようぶ)省,刑部(ぎようぶ)省,大蔵(おおくら)省,宮内(くない)省の八省を指すが,広義には,この二官・八省に統轄される八省被管の職・寮・司や弾正台(だんじようだい),衛府(えふ)などの中央官庁および大宰府(だざいふ)や諸国などの地方官庁を含む律令制の全官庁組織の総体をいい,ふつうは後者の意味で用いる。このような官庁組織は,7世紀後半から8世紀初めにかけて形成された。…
※「兵部省」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
各省の長である大臣,および内閣官房長官,特命大臣を助け,特定の政策や企画に参画し,政務を処理する国家公務員法上の特別職。政務官ともいう。2001年1月の中央省庁再編により政務次官が廃止されたのに伴い,...
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