古代・中世の人名を書き連ねた文書。令制においては官人名簿をさし,文官は式部省,武官は兵部省,女王・命婦(みようぶ)・女官は中務省(縫殿寮)においてそれぞれ作成・保管された。官人の任授に際しては以上の諸司が個人ごとに〈簿〉を作成することになっているが,名帳はこの〈簿〉を基に作られたと考えられる。しかし古代においては官人名簿のみならず一般に人名を書き連ねた文書を名帳と呼んでおり,大計帳(大帳)作成時に作られた死亡・篤廃等の者ごとにそれぞれにまとめたものを総称して名帳と呼んだり,京畿内百姓のうち外国に居住するようになった者の一覧表を指して名帳と称している例が見られる。また712年(和銅5)以前においては,郡司の三・四等官は国司が任じ,朝廷にその名帳を送ることになっていた。しかし以上のごとき名帳はそのいずれも実例が伝存せず,はたして名帳と称することによって特定される一定の文書様式が存したか否かは結論できない。かかる意味での名帳は,中世には一般に交名(きようみよう)と称されている。公家新制において諸国神人(じにん)の交名を朝廷に提出することが命じられているのは,古代に朝廷へ提出した文書としての名帳の性格に相通ずるものがある。一方,令制においては僧尼の名籍(みようじやく)(一般人民の戸籍に対応)の官への提出が規定されていたが,中世においては朝廷への提出とは関係なく各宗門,寺院ごとに帰依した者の人名を記した名簿を作り保管することがあり,これを称して名帳と呼んでいる。この名帳が布教に際して用いられる場合もあったが,真宗においては,名帳に載せることをもって往生浄土の指南とするのは正しくないとしている。古代の名帳が中世には一般に交名と呼ばれてくるのに対し,名帳の語はかかる寺院等において作成するものを指して多く用いられたようで,とくに戦国期には《日葡辞書》が〈死者の名前を書き入れた名表〉(冥帳)と規定するごとく,その用例は限定されていく傾向にあった。
執筆者:村岡 幹生
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…ここを拠点に了源は布教に尽力し信者の組織化につとめ,当時農民の地縁的自治組織であった惣(そう)を真宗門徒の組織に導入して念仏者の惣を結成し,衆議に基づく教団の運営を図った。1335年(建武2)了源は伊賀国七里峠で賊により殺害されたため,その子源鸞,妻了明尼があとを継ぎ,了源が用いた光明本尊および本派独自の名帳(みようちよう)・絵系図を駆使して布教につとめ,近畿,中国,四国の各地に広く門徒を得た。名帳は系譜の形で法脈師弟の関係を示したものであり,絵系図は名帳の人名に肖像画を加えたものである。…
※「名帳」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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