均衡理論(社会学)(読み)きんこうりろん(英語表記)equilibrium theory

日本大百科全書(ニッポニカ)「均衡理論(社会学)」の解説

均衡理論(社会学)
きんこうりろん
equilibrium theory

古典力学モデルに基づく社会システム(社会体系)論においては、均衡(または均衡状態)とは、当該システムのさまざまな構成要素(変数)が一定の「力social forceの場」で示す安定した関係を外的に観察して、これをいわば態的に記述したものである。いうまでもなく、一見静態的staticにみえるシステム状態も、潜在的には動態dynamicを含むが、そこに作用している「力の総量」そのものは、この場合問われることはない。こうした均衡モデルは、システム内の一定の均衡逸脱ベクトルが、これに対する正反対の力の働きによってつねに元の均衡状態へ戻ろうとする傾性を備えているものと考えられる。こうして二者システム(ダイアード関係)における作用・反作用から多変数の複雑なシステムにおける「一般的な均衡」に至るまで、システム内の動的過程は、つねに「ネガティブ・フィードバック」として観念されることになる。

[中野秀一郎]

ホマンズの理論

このような均衡概念を基礎にして社会システムのモデルを構築したのはアメリカの社会学者ホマンズである。彼によれば、社会システムを構成する諸要素としての「行為する個人の感情、活動、相互作用、規範」が相互に関数的に関係しあう全体は、つねに「システム内の要素に生じた変化が他の要素の変化によって減退させられてしまうような状態」(均衡状態)へ志向すると考えられていた。もっとも、経験的事実の観察からモデル化を目ざしたホマンズが、日常的な経験に基づく社会システムの動的側面を見逃すはずはなく、彼はこうした均衡状態の不安定さに関して「実際上の均衡」という概念を提唱し、社会システムにおける均衡とは、けっして「すべての創造が究極的にそこへ動いていくような状態」のことではなく、「一時的かつ偶然的に、行動がたまたま成就する一つの状態」にすぎないと考えた。

[中野秀一郎]

パーソンズの理論

同じく均衡概念を「秩序」の概念と結び合わせることによって社会システム論を発展させたアメリカの社会学者パーソンズは、ホマンズのような「力学的・機械的モデル」のかわりに「生命有機体的モデル」を置くことにより、社会システムの均衡理論に画期的な貢献を行った。パーソンズの社会システムは、基本的には複数の「役割」(それに配分される具体的な人員、便益、報酬を含む)の関係システムと概念化されるが、それは当該システム全体の存続に対する部分の貢献作用を問題にする「構造機能分析」の方法と深く結び付いている。ここでは、社会システムの既存の状態の維持は、力学における「慣性の法則」にも似た「社会過程の第一法則」とよばれ、具体的には、均衡を乱す「逸脱傾向」を「元に戻す力」が、「社会統制メカニズム」として想定されている。パーソンズはまた、システムの均衡は、恒常的、調和的、相互的、共通的、双務的、補完的、安定的で、かつ統合された境界維持的なものであると考えており、そのため、こうしたモデルは「平和共存」だけを記述する保守的イデオロギーと結び付くという批判を受けることにもなった。

[中野秀一郎]

新たな展開

均衡理論に基づく社会システム論は、しかしながら、われわれが経験する具体的、歴史的な社会の変化や変動を記述できず、またシステムに必然的に内包されている緊張や葛藤(かっとう)を説明できないとする議論が高まり、より動態的なシステム・モデルの一特殊ケースとして均衡モデルをとらえる考え方が提唱された。同時に、均衡(状態)それ自身にも、当該システムのさまざまな条件に応じて、静態的で安定な均衡と動態的で不安定な均衡、機能要件の充足度レベルが高い場合の均衡とそれが低い場合の均衡などの概念が考案されるなど、新しい試みが数多くなされている。社会システムの均衡状態とは、たとえば生命有機体にみられるホメオスタシスとの類比で考えられるような、よりダイナミックで高度な「均衡」であるという考え方も、こうした試みの成果である。

[中野秀一郎]

『G・C・ホーマンズ著、馬場明男・早川浩一訳『ヒューマン・グループ』(1959・誠信書房)』『T・パーソンズ著、佐藤勉訳『社会体系論』(1974・青木書店)』『W・バックレイ著、新睦人・中野秀一郎訳『一般社会システム論』(1980・誠信書房)』『新睦人・中野秀一郎著『社会システムの考え方』(1981・有斐閣)』『V・パレート著、北川隆吉ほか訳『社会学大綱』(1987・青木書店)』『T・パーソンズ著、田野崎昭夫監訳『社会体系と行為理論の展開』(1992・誠信書房)』

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