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河川などの開水路を横断して設けられ,流水をせき上げて,その上を越流させる工作物の総称。したがって,せきとダムには明確な区分はない。しかし,高さが15m以上のものや,土砂を堆積させる目的のもの(砂防ダム)はダムと称し,それ以外のものを一般にせきと呼んでいる。せきの目的には,用水の取水,舟運のための水位・水深の確保,河川の分派点における流量調節,河口部における塩水遡上(そじよう)の防止・高潮防御などがあり,その目的に応じて取水ぜき,分水ぜき,潮止めぜき,防潮ぜきなどに区分される。しかし,二つ以上の目的を兼用するせきも多い。また,河口付近につくられ,塩害を防止するとともに河川維持用水を利水に転用するせきは河口ぜきと呼ばれている。構造上からは,可動ぜきと固定ぜきに分類されるが,1ヵ所で両者を併用している場合が多い。可動ぜきは,門扉(もんぴ)を有し,常時はその大部分を閉じて水位,流量を調節し,洪水時には全開して洪水の流下に支障がないようにする。固定ぜきは,門扉がなく,コンクリートや捨石などで一定の高さにつくられたせきである。なお,木材や土俵などで簡単につくられたせきを草ぜきということがある。また,平常は水量調節機能をもち,洪水時に水門として機能するものを洗いぜきと呼ぶことがある。せきの平面形状からは,直ぜき,斜めぜき,弧形ぜき,鍵型ぜきなどに分類される。明治時代以前は,砂州を利用した斜めぜきや弧形ぜきが多かったが,近年つくられるせきはほとんど直ぜきとなっている。
流水がせきを越流するとき,一般に,流れの状態は常流から射流に変わり,流量に対応した限界水深が現れる。この場合を完全越流状態と呼び,限界水深から流量を測定することができる。限界水深が現れない場合は,不完全越流状態といい,とくにせきの下流水深が堰頂(えんちよう)より高い場合を潜りぜき状態という。
なお,せきは河川環境を著しく変化させるので,その設置にあたっては十分な配慮を要し,魚道や舟運のための閘門(こうもん)を設ける必要がある。
執筆者:大熊 孝
古代のせきは考古学的に全国各地で見いだされており,とくに水田遺構にともなう水路での発見例が多い。最古の実例は,福岡県板付遺跡の水路に杭や矢板を立てたもの(夜臼(ゆうす)式土器の時期)であって,縄文時代晩期とも弥生時代初期ともいわれる。幅広い溝や小川に設けたせきの遺構も,弥生時代以来のものが知られている。その代表例が愛媛県古照(こでら)遺跡のせき(古墳時代)である。下流側から上流に向けて斜材を打ち込み,横材を渡し,それに接して下流側に縦材を打ち込む。これを3段繰り返す構造(幅4.2m)になっている。このほか溜池の築造も早くから行われたが,これらについては〈ダム〉〈溜池〉の項を参照されたい。
執筆者:佐原 眞 江戸期のせきは農業用水の取得のためのものがほとんどであり,《県令須知》によれば草ぜきと洗いぜきに大別しうる。さらに細かく一文字ぜき,箕(み)の手ぜき,袋ぜきと,川の流れの主方向とこれに対するせきの角度による分類も行われた。一文字ぜきは字のごとく水流の方向と直角に対岸まで1直線に築く形で,大河を受けて築く場合に多いが,堤の延長が短くてすむ反面,出水に際して崩壊,流失の危険も多い。箕の手ぜきは流水の方向に従いつつ,やや斜めに一文字ぜきよりも長く築くものであり,流水の流れる方向の側に取水口を設ける。容易に取水量を多く得る利はあるが,自然長大となるだけに多くの普請費用を要し,また出水時には全川の水量を取入口に集めて崩壊の危険も多い。ただし,備前吉井川下流の邑久(おく)用水の取入れぜきは相当の大河川ながら箕の手ぜきの型式を採用し,堅固につくられ,近年まで流失のあとを示していない。袋ぜきはせきの中央部を下流部にたるませ,上流から流出してせきの取入口に滞留する砂をその部分に取りためるようにくふうし,取水口の埋没を防ぐべく考案したもので,砂川(流砂の多い川)の場合に用いるとしている。おそらく古くからのせきには一文字ぜきの型式がもっとも多いであろう。
近世初期の築造と伝える諸せきのうち,肥前佐賀の東,川幅数十mの川上川に存在する成富兵庫の考案と伝える一ノ井ぜきは,嘉瀬川のせき止め5個を並べた間に,過水の排水部を設け,たたえた水をいったん上流左岸の天狗鼻を迂回して東へ水路を導き,その川中に亀石と呼ぶ流砂止めの石をおき,さらに迂回南下させて途中に余水吐(よすいはき)を設けるなどしてあり,おそらく当時としての機巧を尽くしたあとをとどめている。いったん流失した一文字ぜきの受水区域はたいてい例年のごとく二度目の夏普請を行って再築し(春のそれよりも簡略であることが多い),用水期間中の水量を確保する例となっていることも多い(かつての近江犬上川一ノ井ぜき)。受水区域から集めた資金で取入口に近い特権的な有力村の村人の手だけで,修復工事の行われた場合も少なくはない。一河川の上流から下流へ,両岸に別々の村々の仲間の造営したせきが並立し,取水を争った場合もかつてははなはだ多かったが,大正末以降の,最上流の好位置へのせきの統一設置(合口(あわせぐち))が近年著しく行われるようになった。
なお,近代に至って輸入された起伏ぜきは,河川の両岸の1定点を結んで水中に一列に鉄扉を連ね伏せ,その上流部の湛水(たんすい)量や,下流部の必要とする水量を考慮して機械操作によって鉄扉を起立,伏臥(ふくが)させて流水量を調節する。洗いぜきにも近代的なものがある。これまた上流部の貯水量と,下流部の需要量を考慮してある程度の操作を可能としたもので,琵琶湖から流出する唯一河川の瀬田川のそれは,影響の大きさとあいまって著名である。
執筆者:喜多村 俊夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
流れを制御するために河川、水路などを横断してつくられる構造物。堰上流の水位を高くして用水を安定して取水できるようにするための取水堰、河川・水路の分流点付近に設置して派川・分水路への分流量を調節するための分流堰(分水堰)、塩水の遡上(そじょう)を阻止するための潮止堰(しおどめせき)、塩害防止と用水供給のための河口堰などがある。堰には水位、流量を人為的に調節できる可動堰と調節できない固定堰がある。可動堰にはゲートが取り付けられ、河川流量に応じてゲートを操作して堰上流の水位と堰からの放流量を調節する。洪水時にはゲートを全開して、洪水を流下させる。堰には必要に応じて魚道や閘門を設置する。
実験水路や人工水路などの開水路の流れの流量を測定するための堰(流量堰)もある。流量堰には刃形(はがた)堰と広頂(こうちょう)堰がある。
[鮏川 登]
…河の両岸には並木が植えられ,流れをさかのぼって舟を引く必要のあるところには牽路(けんろ)が作られていた。運河には随所に閘を設け,必要に応じ開閉して水量を調節し,また水位に上下があるところでは堰(えん)を築いた。堰は埭(たい),壩(は)ともよばれ,河道に人工的な傾斜面を作って,舟を綱で引き上げあるいは滑り下ろす設備で,人力によるほか牛に轆轤(ろくろ)を引かせることもあり,その間は荷物を舟から下ろして車で運ぶ場合もあったのである。…
… 江戸期の灌漑事情は,当時〈地方巧者(じかたこうしや)〉と呼ばれていた農村支配の実務巧者たちの,数多くの著書の中にも詳細に説かれており,村庄屋の最重要の任務は灌漑,水利のこととせられているほどである。全国的見地から見れば,河川をせき止めて,その上流部の水位をたかめ,河岸の一方(両岸にもつ例は少ない)の取入口を開閉し水量を調節して,下流の水田に引水する用水ぜきがもっとも多い。次いで讃岐,大和,河内,和泉をはじめ水田開発の歴史が古く,かつ日本では寡雨地域に属する諸地域では,著しく濃密に分布する溜池の地位が高い。…
…中世以後,同一水源・水系のもとで,灌漑用水の不公平な配分からくる収穫の豊凶を避け,また干ばつによる被害を最小限にくい止めるために行われた水の配分制度。水量を調節するため(1)現作している水田面積に応じて一定の時間を定めて決められた順序に従って配水する,(2)分水点に設けられた流水量測定の器具・道具(分木(ぶんぎ),分水石など)を使用する,(3)水路の幅,深さを定めて流水量を測る,(4)河川に堰(せき)を設ける場合に完全に流水を遮断せず,定められた間隙を開け,定められた深さの水流を保ちつつ一定量の水を下流に放流する,などの諸方法と,用水池の樋(ひ)を抜き放水する発議権や決定権をどの地域のどのような住民が行うかなどが番水の具体的内容であり,それらがいくつか併用されて一つの番水が運営されている。中世前期までは不文律のまま運用されていたが,中世後期になると番水規定の文章化も行われるようになった。…
※「堰」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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