禅僧の筆跡の習慣的呼称。本来は「書いた筆のあと」(筆跡)を意味し、中国では「墨迹」とも書いて広く肉筆一般をさすが、わが国では、とくに中国・日本の禅僧の筆跡に限定して墨跡の語が用いられる。なかでも、中国の宋(そう)・元時代の禅僧、および日本の鎌倉・室町時代の禅僧が書いたものを珍重するが、さらに範囲を広げて江戸時代以後の臨済宗や黄檗(おうばく)宗の僧侶(そうりょ)のものも、そのなかに含めて考えられている。室町時代、村田珠光(じゅこう)らによって茶道が盛行するにつれて、墨跡は茶席の掛物の第一に置かれてきた。それは、書かれた文句の心、および筆者の徳に対して、尊敬されたところにある
墨跡には、さまざまな内容があり、およそ次のように区分される。(1)印可状(いんかじょう) 師が弟子に対して、修行を終えた証明として与えたもので、墨跡のなかでもっとも重要とされるもの。
(2)字号(じごう) 師が弟子に号を授与するのに、自筆で大書したもので、印可状と同様に権威をもつ。
(3)法語(ほうご) 仏法の尊厳を説き、自己の悟りの境地を示したもので、師から弟子へ、また同輩の間でも書き贈られた。
(4)偈頌(げじゅ) 五言・七言などの韻文体のもので、偈ともよぶ。法語とほぼ同様な内容である。
(5)遺偈(ゆいげ) 禅僧が死の直前に、弟子たちに辞世の句として書き残したもの。
(6)餞別語(せんべつご) 中国に渡った日本の禅僧が、帰国に際して歴訪した寺の高僧に書いてもらった法語や偈など。
(7)進道語(しんどうご) 師から弟子に、禅の肝要を説いて修行の助けとしたもの。
(9)書状(手紙)。
これらの墨跡は、書法にこだわることなく、筆者自身の修行の果てに到達した高い精神性が端的に表れた破格法外の書が多く、その個性味豊かな書風が尊ばれている。
[古谷 稔]
『木下政雄編『日本美術全集15 禅宗の美術Ⅱ――墨跡と禅宗絵画』(1979・学習研究社)』
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※「墨跡」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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