室町時代の金工。78歳で没とする説もある。通称を四郎兵衛,名を正奥といい,のち剃髪して祐乗と号した。美濃国の出といわれ,足利義政に仕える武士であったが,辞して装剣専門の金工となった。作品は小柄(こづか),笄(こうがい),目貫(めぬき)のいわゆる三所物(みところもの)が主であり(刀装),作風に美濃彫の影響が強く見られる。題材は獅子と竜が最も多く,ほかに虎,濡烏(ぬれがらす),三番叟,能道具などがあり,赤銅,金などの地金を主とし,すべて高肉彫で表している。代表作には《獅子造小サ刀》《濡烏図二所物》《俱利迦羅竜三所物》などがある。
祐乗を祖とする後藤家は装剣金工を家業として江戸時代末期までさかえ,宗家として重きをなした。足利,豊臣,徳川家などの御用をつぎつぎとつとめたところから後藤家の作品は家彫と呼ばれ,町彫とは格式を異にした。その作品は各代を通じて,品位はあるものの格式と伝統を重んじた立場上,地金や題材,彫法に制約があり,独創性,個性に欠けるきらいがある。とくに江戸中期以降は形式にとらわれすぎ,自由な意匠や飛躍的な技術の発展はみられなかった。これに対して,同じころ町彫という自由な感覚で製作する一派があらわれ,その繁栄に圧倒されるに至った。だが,町彫の祖といわれる横谷(よこや)宗珉も,もともとは後藤家7代顕乗の三男である殷乗門下で,後藤家の流れをくんでいる。後藤宗家は祐乗以後,宗乗-乗真-光乗-徳乗-栄乗-顕乗-即乗-程乗-廉乗-通乗-寿乗-延乗-桂乗-真乗-方乗-典乗と17代続いた。祐乗,宗乗,乗真は上三代(かみさんだい)といわれ,特に武家の間に作品が珍重されている。また5代後藤徳乗は豊臣秀吉に用いられ,大判金の製作に携わり,その弟子で4代光乗の養子となった庄三郎光次(後藤庄三郎)は秀吉の命により江戸の徳川家康のもとで小判金鋳造に従事し,後に金座の頭人として大きな権勢をもった。また分家,分派は14家に及び,これらを脇後藤と称しており,その中では加賀後藤が最も栄え,金沢で製作を続けた。幕末には京の七郎右衛門家に一乗(1791-1876)が出て,一世の名工として名をあげ,後藤家の掉尾を飾っている。
執筆者:原田 一敏
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(加島勝)
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室町後期の金工。後藤家の祖。四郎兵衛正奥と称す。美濃(みの)国(岐阜県)の人。足利義政(あしかがよしまさ)の近侍となったが、彫金に優れていたので将軍から刀剣装具を彫刻することを命じられ、祐乗と名のり法橋(ほっきょう)に叙せられ、さらに後花園(ごはなぞの)天皇から法印に叙せられたと伝える。目貫(めぬき)、小柄(こづか)、笄(こうがい)の三所物(みところもの)の制作を専業とし、銘のある作品はないが、美濃彫の影響を受けて赤銅地金を高彫りにして、うっとり色絵(金銀の薄板を素地の彫刻文様の上にかぶせる技法)を創案した。後人の鑑定による代表作に、獅子牡丹(ししぼたん)造小刀拵(ちいさがたなこしらえ)、濡烏(ぬれがらす)図三所物(ともに東京・前田育徳会)などがある。
[小笠原信夫]
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1440~1512
装剣金工の後藤家の始祖。美濃国生れ。足利義政の側近として仕えたが,のちに辞して装剣金工に転じたと伝えられる。義政の御用を勤め,近江国坂本に領地300町を与えられた。作品は小柄(こづか)・笄(こうがい)・目貫(めぬき)の三所物(みところもの)がおもで,金や良質の赤銅の地金に竜・獅子などの文様を高彫で表したものが多い。祐乗の彫刻は刀装具という一定の規格のなかで,細緻な文様をほどこし装飾効果をあげるもので,以後17代にわたる後藤家のみならず,江戸時代の金工にも大きな影響を及ぼした。代表作に前田家伝来の黒漆小さ刀(ちいさがたな)の金獅子牡丹文金具がある。
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[工芸]
唐物の精巧さに刺激されて伝統的な工芸の分野も,中期から後期にかけ,技巧がいちだんと進んだ。金工では後藤祐乗(ゆうじよう)が刀剣の装飾に高肉彫の技巧をこらして義政の庇護を受け,その家系の仕事はのちに家彫と呼ばれて江戸時代にいたるまで武将の支持を得た。蒔絵は初期には松楓蒔絵手箱(熊野速玉大社)にみるように,のびやかなやまと絵的文様を特色としていたが,義政の時代には,文様・手法が細密化され,高蒔絵を用いモティーフを浮彫様にあらわしたり,岩に宋元画の筆法をうつしたり,入念な細工となっている。…
※「後藤祐乗」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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